桑原経営戦略研究所 桑原 靖

 今回は、日系半導体企業の現状を見ていきましょう。半導体・エレクトロニクス関連の情報プラットフォーム、TechInsightsの2025年世界半導体売上ランキングによれば、現在の日系半導体メーカーの最上位は「Sony」の12位です。それに続く16位は、2026年にはメモリー市場の急騰による躍進が見込まれる、東芝のメモリー事業が独立して出来た「KIOXIA」、さらに日本半導体の復建を目指して、日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門を分社化して統合した「RENESAS」が18位となっています。

 IT分野の市場調査などを手掛けるGartnerによれば、2025年の売上世界Top10は、首位の「NVIDIA」が1,257億ドル(約19.5兆円)、10位の「MediaTek」が185億ドル(約2.9兆円)となっていますので、それらの売上と比較してこの3社の現状を順にみていきましょう。

 筆者の様なシニア世代には、「Sony」はウォークマン等の新しい家電製品を生み出す企業イメージが残っていますが、今ではゲーム、音楽、映画、家電、イメージセンサーなどを手がけるテクノロジーに支えられたクリエイティブエンターテインメント企業となっています。事業売上は約12.5兆円で、その内訳は、ゲーム&ネットワークサービス38%、音楽17%、映画12%、エンタテインメント・テクノロジー&サービス18%、イメージング&センシング・ソリューション17%となっています。

 半導体はイメージング&センシング・ソリューション分野に含まれており、CMOSイメージセンサーで世界No.1となるほぼ50%のシェアを持っており、更に上の60%を目指してビジネスを展開しています。Sonyグループ内でも先端技術のブランドイメージを構築するだけで無く、成長事業の中核としても、収益面でも重要な事業となっています。2025年の売上高も図1にあるように、前年比20%伸長して2兆円を超え、営業利益も同37%増と大きく伸びています。

 特にスマートフォン向けで大きな強みを持っており、カメラの高画質化や複眼化の流れに乗り、この領域において自社でスマートフォンを生産しているシェア第2位の「Samsung」を大きくリードしています。加えて、車載、ロボティクス向けでの市場拡大が期待されていることもあり、車載分野で先頭を走る「onsemi」、産業分野で強い「STMicro」との競合が今後の焦点の一つとなると考えられます。

 生産面では、国内拠点への継続投資(図2)が計画されています。長崎の拠点では新工場の拡張が進み、今後の需要増への対応が進行中です。長崎の増強に加えて、熊本では台湾積体電路製造(TSMC)と合弁会社を設立する事を発表しました。この合弁会社には、「Sony」が約4,650億円、「TSMC」は約2,820億円を拠出する予定です。加えて、日本政府が最大600億円を補助する事を前提としています。この合弁会社は熊本県合志市に建設する新工場で、2029年を目標に次世代イメージセンサーの量産を開始する計画をしています。月産能力は約1万枚(12インチウェハー換算)を見込んでいます。

 この合弁会社設立により、「Sony」の設計力と「TSMC」の先端プロセス技術を融合し、スマートフォン市場でのシェア拡大だけでなく、自動運転車や産業用ロボット、フィジカルAIといった今後の高成長分野での需要拡大に備える事ができます。合わせて、単独での投資規模を抑制して、「Sony」が資産効率を重視する「アセットライト」戦略を実現しながら、更なるシェア拡大を実現できる生産量を確保する計画です。

 「Sony」は現在の中期経営計画で、エンタテインメント、IP、およびコンテンツクリエイション、リアルタイム・クリエイション技術を軸とした事業の進化の方向性を明確にしています。そして、長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を掲げており、グループ全体としては半導体専門企業と一線を画するものとなっています。日本半導体産業にとっては、CMOSイメージセンサー分野に於いて圧倒的なシェアを持つ 「Sony」は、非常に重要となる企業と言えると考えます。

 更に、スマートフォンのカメラ用途以外にも、自動車、産業用ロボットや今後期待されるフィジカルAI分野他へのアプリケーションの拡大も期待できます。「Sony」のCMOSイメージセンサーは、製品の開発から製造までを一貫して行う垂直統合型の半導体企業であり、日本産業界にとっても大事にすべく、企業の枠組みを超えた成長戦略も期待したいところです。

 「KIOXIA」は、東芝の半導体メモリー事業を分社化して、2019年に東芝メモリ株式会社から現社名に変更し、スマートフォンやPC、データセンターなどで使われるフラッシュメモリーとSSDの開発、製造、販売を行っています。今の半導体需要を牽引しているAI市場急伸の潮流に乗り、2年連続で過去最高業績を記録しています。図3のように、2025年度の売上高は前年比37%増となり、初の2兆円超え2兆3,376億円、販売単価の上昇も貢献して営業利益も8,762億円となっています。

 

「KIOXIA」は従来型サーバーの需要が堅調に推移することに加えて、AI推論サーバーの需要が拡大していることから、今後もフラッシュメモリー市場の力強さが続くと考えています。このAI市場のトレンドをしっかり捉え、AI活用による社会の変化を支える為に、DRAMメーカーと同じように、3次元のフラッシュメモリー技術(図4)を採用し、近年ではCBA※1技術を採用した第8世代BiCS FLASHの生産拡大を行っており、次世代開発・提供も加速させる計画です。

 ※1 CBA:3次元フラッシュメモリーで、メモリーアレイ(上側)とCMOS回路(下側)を、銅の接続部で高精度に直接接合した、第8世代BiCS FLASH(3次元フラッシュメモリー)です。従来は同じウエハー上で回路とメモリーセルを作る構造が中心でしたが、CBAでは別工程で最適化してから接合できるので、高密度化、性能向上、消費電力や信号遅延の改善につながることが大きな利点です。

 大きな設備投資も進めており、2025年9月には北上工場第2製造棟の稼働を開始し、2026~2028年度の設備投資額を年間平均で約4700億円とする計画です。図5にある通り、2026年度の設備投資額は、2025年度比で約66%増となり、3年間の総額では約1兆4100億円規模となります。

 日本政府も四日市工場に929億円、北上と四日市の両工場へ1,500億円を支援します。現在は四日市工場の第7棟と北上工場第2棟の稼働スペースがおおよそ半分程度にとどまっており、まずは残るスペースへの設備導入を進めることになります。その後、市場成長に合わせて北上工場での第3棟建設も視野に入れています。

 研究開発投資についても、2026~2028年度の研究開発費は年間約2300億円と、2025年度比で約63%増を計画しています。投資対象には第10世代および第11世代BiCS FLASHの開発に加え、新規メモリー技術であるOCTRAM(Oxide-Semiconductor Channel Transistor DRAM)※2、HCF(Horizontal Channel Flash)※3などが含まれます。

 また、研究開発人材の育成強化に向け、研究開発拠点内に「キオクシアカレッジ(仮称)」を設立する構想も明らかにしています。日本において、政府からの支援を前提に、2032年までに総額約5兆円(310億ドル超)の投資を見込むことを発表しています。AI市場急進の流れを捉えて、今後もフラッシュメモリーを主体としたメモリー市場で、積極的に垂直統合型事業展開が期待されます。

 ※2 OCTRAMは、酸化物半導体(主にInGaZnO)をチャネルに用いたトランジスタで構成する、次世代DRAM型の半導体メモリー技術です。オフ時のリーク電流が極めて小さく、同時に高いオン電流も得られるため、高速動作と低消費電力を両立しやすいとされ、GAA構造などを用いた3Dセルにより高密度化を狙っています。

 ※3 HCFは次世代の3Dフラッシュメモリー向けの新しいアーキテクチャである水平チャネルフラッシュで、コスト削減の限界や読み取り速度に関連するセル電流の劣化の課題解決を目指しています。

 「Renesas」は日立製作所と三菱電機の半導体分門を分社化して2003年に統合したルネサステクノロジに、2010年にNECの半導体分門を分社化して合併し、日本が半導体分野での復権を目指して生まれた会社です。しかしながら、2011年の東日本大震災の影響も受け、統合後のシナジー効果を発揮する事が出来ず、競争が激化する半導体市場の中で収益が悪化して、2012年には産業革新機構を中心とした1,500億円の資金増資が行われ、経営再建へ舵を切りました。これにより不採算事業の見直し、工場・拠点の整理、人員・コスト削減等を実施する一方、主力のマイコン製品を自動車や産業機器へ重点拡販する事によりこの危機を乗り切って行きました。

 その後2016年にIntersil※4を3,200億円で、2018年にIntegrated Device Technology(IDT)※5を約7,300億円、2021年にDialog Semiconductor※6を約6,200億円、2024年にAltium※7を約8,900億円と、大型買収を展開し、自動車、産業、IoTを中心とした市場向けの製品の拡充を計ると共に、グローバル企業へと変わって行きます。

 大型買収で大きくなったと言える「Renesas」の2025年売上は図6に有るように、対前年小幅減の1兆3,185億円で、営業利益は3,869億円でした。車載、産業、インフラ、IoT向けを中心に製品開発・拡販を展開しており、低消費電力の組込みプロセッサを中心とした、アナログとパワー半導体とを組み合わせたソリューション(ウィニング・コンビネーション 図7)を提供し、システム開発コストの削減を実現します。特に、マイクロコントローラとマイクロプロセッサで、RA(Arm)、Synergy(Arm)、RISC-V、RH850、RX、RL78、R-Car、RZ(Arm)といった製品群で自動車、産業、IoTを幅広くサポートしています。2026年以降も、自動車、産業、インフラ、IoT向けのマイクロコントローラとマイクロプロセッサなどの新製品拡充が、売上拡大の鍵を握りそうです。

 自動車分野では、自動化・電動化といったインテリジェントな車載技術、特にSDV(Software Defined Vehicle)※8の発展に伴う半導体需要の高まりや産業機器、IoTや今後のフィジカルAIと言ったアプリケーションにおいて、市場拡大を捉える事が期待されるところです。

 ※4 Intersil:電源管理や高精度アナログ分野が強みの会社です。「Renesas」はこれを取り込むことで、アナログ・電源系の製品力を強化しました。

 ※5 Integrated Device Technology(IDT):アナログ・ミックスドシグナル系の製品を持つ会社で、特にタイミング製品等の領域が「Renesas」の強化ポイントになりました。

 ※6 Dialog Semiconductor:バッテリー管理、電源管理、Wi‑Fi、Bluetooth Low Energy、産業向けエッジ計算などを手がける会社です。「Renesas」はこれでIoT・産業・車載向けの組み合わせを広げました。

 ※7 Altium:PCB設計ソフトや電子設計システムの会社です。ルネサスは半導体だけでなく、電子機器の設計ソフトウェアー層まで取り込み、設計から運用の一体化を進めています。

 ※8 SDV:車の価値や機能を、ハードだけではなくソフトウェアーで継続的に高めていく考え方です。従来の車は、買った時点の機能がほぼ固定でしたが、SDVでは、購入後もソフトウェアーの更新によって、運転支援、車内表示、電池や電力制御、快適機能などが改善や追加されます。

 

 

 また、インド(グジャラート州)に半導体の組立・テストを担うOSAT工場の構築・運営を進めており、パイロットラインの完成に続き、2026年末までに量産開始を予定しています。ベンガルールやノイダには研究開発拠点もあり、中国と並ぶ成長市場としてインドでの事業拡大も期待されます。「Renesas」は28nm以降のプロセスを生産する為の自社工場への投資をしておらず、現在では最先端の2nsプロセスまでTSMC等のファンダリーへ生産を委託する方針を取っています。その為、設備投資方針として、大規模な先端プロセス工場を計画する事は無く、2026年6月のCapital Market Dayで示された内容で、設備投資を売上の約5%、約660億円を中期での平均の目安とする事に留まっています。

 2010年代前半に半導体の生産から設計へと大きく舵を切リ始めた「Renesas」ですが、今のところ世界をリードする製品群が生まれていない状況です。日本には少ない水平分業型の半導体企業として、大型買収による成果としても、名実相伴うリーディング製品群の登場が期待されるところです。

 TechInsightsによれば、「Sony」、「KIOXIA」、「Renesas」以外には、上位20社外ではありますが、東芝(28位)、ローム(31位)、日亜科学(39位)、三菱電機(40位)、富士電機(41位)等がランキングされています。日亜科学(光半導体)以外はパワー半導体を主力製品としており、世界のパワー半導体分野で日本企業は三菱電機4位、富士電機5位、東芝6位、ローム8位とTop10に4社がランクインしています。特に、パワー半導体のIGBT※9分野では三菱電機が2位、富士電機が世界3位と際立つ実力を持っています。

 ※9 IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistorは高電圧・大電流域での損失が小さく、省エネや高効率化に貢献する産業用インバータなどで主力素子です。

 しかしながら、パワー半導体を含むDiscrete半導体の市場規模は、全体の4%規模に留まっていますので、やはり日本半導体市場約8.9兆円の65%を占め、売上規模も大きな3社、特にTop10を狙える位置にいる「Sony」と「KIOXIA」の動向には期待したいところです。

【プロフィール】

桑原経営戦略研究所 桑原 靖

1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。