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 「ここ数年、求人媒体(新卒除く)への掲載は0です」―そう語るのはゴム精練業を営む竹原ゴム加工(岐阜県中津川市)の中島竜二社長だ。各業界で人手不足・流出が課題に挙がるなか、安定した収益基盤と、独自の社内システム構築による業務効率化、働きやすい環境づくりで、同社の離職率(65歳以上の定年退職を除く)は過去3年以上にわたり0%を維持している。事業存続のカギとなる人材の確保・定着について、同社の取り組みを聞いた。

竹原ゴム加工 中島 竜二 社長

離職率0%を支える経営の仕組みとは

 竹原ゴム加工は1979年創業して以来、ゴム製品製造に欠かせない工程である「ゴム練り(精練)」を手掛けてきた。ゴム練りの工程は、ゴム業界にとって欠かせない業態である一方、一般的には馴染みのない分野。さらに、同社は岐阜県中津川市の山あいに位置する。求人条件において、決して有利とはいえない。

 そうしたなか、同社はここ数年、求人媒体への掲載を行っていない(新卒採用向け媒体を除く)。また、離職率0%を3年以上にわたり維持している。採用方法については「新卒採用も行っていますが、基本はリファラル(紹介)採用が中心。社員が家族や友人に口コミを広げてくれて、その結果、必要な人材を安定的に確保できています」(中島社長)と語るが、昨今では「採用ができてもなかなか続かない」という声も少なくない。採用後も離職率0%を維持し続けている背景には、いくつかのポイントがあった。

少量多品種の生産対応で、“困ったときに頼られる”ビジネスモデルを構築

 まず、会社運営において重要となるのが財務基盤の安定維持だ。「福利厚生、労働環境の充実も、安定した財務基盤があってこそ」(同)。これに寄与するのが、少量多品種生産による“困ったときに頼られる”ビジネスモデルだ。
 ゴム製品の製造に使用される合成ゴムは大きく分けて2種類。タイヤ等に使用される「汎用ゴム」と、自動車部品や工業用品用途で使用される「特殊ゴム」がある。このうち、同社が主に手掛けるのは「特殊ゴム」だ。

 同社は顧客から提供される配合レシピに沿って練り生地を製造するスタイルがメイン。最小で1kgから対応できる生産体制を構築し、顧客の細かなニーズに応えるサービスを提供する。

 現在、同社で保存されているレシピ数は約8万5,000種類。それに伴って調達される原材料も、約5,000種類に及ぶ。また、一部薬品類は、専用自動倉庫内でロボットによる自動計量を実現しており、納期短縮に大きく貢献している。また、製造設備についても随時オーバーホールし、各設備につき1台は必ず予備を確保。2026年に完成した機械専用倉庫に予備部品とともに保管することで、万が一の事態にもすぐに対応できる体制を整える。

 「当社は創業以来、“必要なものを必要な時に、必要な分だけ”作るための体制構築に取り組んできました。困ったときに頼られる存在であり続けるために、リスク管理も欠かせません。また、昨今は環境への配慮も重視されます。必要とされているものを必要な分だけ作ることは、会社と環境、両方の持続可能性に繋がると考えています」(同)

独自システムで事務作業を効率化、事務員も現場に立つ多能工化を実現

竹原ゴム加工 独自システム概念図

 同社独自の情報管理システムも、ユーザー、社内双方にメリットを生んでいる。

 昨今、製造業ではIoT技術による現場の見える化が推進されている。こうした時代の到来に先駆け、同社は1990年代から社内情報一元管理システムの構築に取り組んできた。

 同システムは、受注入力から経理、生産計画、製造、検査、出荷まで自動で一元管理できるもので、リアルタイムで進捗状況の確認もできる。

 こうしたシステムの構築は、ユーザーへの迅速な情報伝達に寄与するほか、従業員の業務効率化にも貢献する。同社では、事務職の社員も製造現場に立つ「多能工」育成を実施する。例えば、製造のメンバーが昼休憩に入る1時間ほどや、残業に入る前の30分ほどを事務職のメンバーでカバーするといったことだ。一見、本業である事務作業に支障が出ることが危惧されるが、同システムが事務作業を補填するため、ほとんどの事務職メンバーが残業をせずに帰宅できている。なお、製造現場に立つメンバーのシフト作成・管理も、同システムが行う。
「製造の仕事を、事務職社員ができる範囲でカバーすることで、製造職社員にきちんと休みを取ってもらうことと、ラインを止めないことを両立できています」(同)

社員の頑張りを還元する福利厚生と、働きやすい環境づくり

 業務効率化と財務基盤の安定化を図ることで、福利厚生の拡充や労働環境の改善も推進できる。

 離職率0%の一因となる福利厚生に、転職者を対象とした給与保障制度がある。転職入社の社員に対し、前職以上の給与を初年度から保障するものだ。本制度について中島社長は「都心に働き手が集中する原因の1つに、給与格差があります。入社後も満足して働き続けてもらうためにも、給与保障によるモチベーションアップは重要です」(同)と語った。

 また、各種休暇制度も充実させている。産前産後、育児、介護休暇など、ライフステージに合わせた休暇を設置しており、男性の育児休暇取得も増えているという。
 このほか、社員であれば誰でも入居可能な社宅を月額2万円で提供、会社負担での社員旅行実施、内定者とその家族への下呂温泉宿泊プレゼントなど、社員の頑張りを還元する制度づくりに取り組む。

 また、同社では労働環境の改善にも力を注ぐ。ゴム練り業界の製造現場は、カーボンブラックの使用により、その粉塵で作業場が汚れやすい。また、大型製造設備設置の都合上、高天井構造の工場も多く、空調設備の設置や効率的な運用が難しい場合もある。そのため、各企業で労働環境の改善は課題とされている。 

 同社では、工程の自動化や集塵機の多数使用、清掃の徹底により、クリーンな製造環境を維持。また、ほとんどの生産ラインをエアコン完備で涼しい環境へ整備した。さらに、本社工場も輻射熱対策として屋根の改造に取り組んでいる。今後はフィジカルAIやロボット技術を活用したさらなる省人化・自動化も検討している。
 こうした取り組みの継続が、離職率0%の維持につながっている。

顧客の細かなニーズに応えるサービス、ゴム業界外への提供も視野に

 日本全国で人手不足が話題に挙がるが、ゴム業界も例外ではない。ニッチな業界といったイメージが先行し、就職活動時に視野に入りづらいこと。また、製造職に対する「きつそう、汚れそう」といったイメージも、人材不足に拍車をかける。こうした課題に、同社は独自システムによる効率化や、工程の自動化推進による工場のクリーン化、労働環境の整備などで対応してきた。

 一方で、今後同社の課題となるのは新分野の開拓。同社の顧客であるゴム製品メーカーの大半は自動車向けゴム部品メーカーであるため、「このままEV化が進めば、同社事業への影響は決して小さくないです」(同)。

 今後は精練業で別分野の顧客を増やしながら、同社が持つもう1つの事業「計量事業」の強化を推進する。同事業は、ユーザーが使用しやすい単位へ小分け・リパックして販売するサービス。現在はゴム業界のみへのサービスとして展開するが、「ゴム業界に限らず展開していくことも視野に入れたいです。ゴム製品メーカーによる精練工程のアウトソーシングが進んでいますが、その流れは計量についても同様です。精練事業と同様に、顧客の細かなニーズに応えるサービスとして、計量事業もまだまだ伸ばせる余地があると見ています」(同)。

 少量多品種対応と独自システムによる高効率運営、人を大切にする企業文化。この三位一体の経営こそが、竹原ゴム加工の高い収益性と人材定着率、そして持続的な成長を支える原動力となっている。同社は今後も、新分野、業界を視野に入れたサービス提供と、働きやすい環境のさらなる整備を推進し、持続可能な会社運営に取り組む構えだ。

【本記事は月刊ラバーインダストリー7月号に掲載】