イオン結合を取り入れたことにより水の有無でゴムの軟らかさが変化
住友ゴム工業、「SYNCHRO WEATHER」のカギの一つ「水スイッチ」とは
タイヤ 2024-08-05
住友ゴム工業が7月22日に発表した次世代オールシーズンタイヤDUNLOP(ダンロップ)「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」。ドライ、ウェット、氷上、雪上などあらゆる路面にシンクロする画期的なタイヤで、サマータイヤとスタッドレスタイヤの性能を両立した。それを可能にしたのが、ゴムの中に「水スイッチ」、「温度スイッチ」という2つのスイッチを組み込んだ、初搭載の新技術「アクティブトレッド」。2つのスイッチのうち、「水スイッチ」に焦点を当ててみる。
「水スイッチ」は、ゴム中のポリマー間同士、ポリマーとフィラー間の結合の一部を、水という外部環境によって結合が脱着可能なイオン結合に置き換えたものだ。従来、ポリマー間等は強固な共有結合によって結合しているが、共有結合は水の有無に関係なく、軟らかさは変化しない。
タイヤに用いられるゴムの主成分であるポリマーの動きとタイヤのグリップとは深く関係している。ポリマーが動きやすい状態ではゴムも軟らかくなりグリップするが、ポリマーが動きにくいとその逆になる。ポリマーの動きやすさは、気温や外部環境、ポリマー間等の結合に影響される。「水スイッチ」は、水という外部環境と結合によって、ポリマーの動きをコントロールしている。
強固な共有結合の一部をイオン結合に置き換えたことで、シンクロウェザーは水に触れるとゴム最表面(おおよそ1ミリ)が軟らかくなりウェット性能が向上する。水によって結合が解かれるためだ。一方で、再び乾燥した際は再結合することでゴムの剛性感が復活し、サマータイヤ同等の性能に戻る。この可逆性の付与は「最も苦労した点」(水野洋一執行役員・タイヤ事業本部材料開発本部長)。
「結合はゴムや材料を強くするためのものという考えのもと、従来は強くて切れないことを追い求めてきた。ただ、アクティブトレッドではある時は結合し、ある時は結合が解ける必要があった。そこでイオン結合を取り入れた」(住友ゴム工業)。脱着可能な結合で、世に広く知られているのはイオン結合と水素結合という。両者を比較したとき、イオン結合は水素結合に比べ強く、水で結合が解ける。イオン結合の採用に繋がった。
イオン結合に関しては、ゴムの中のポリマー間なのか、ポリマーとフィラー間なのか、どの部分にどのように入れるのかも大きなポイントで、それに加え原材料メーカーの協力も、「水スイッチ」誕生に大きく寄与した。「通常は提供された原材料を評価し、良ければ採用という流れだが、今回の流れは異なる。ビジネスとして成立するか分からない段階から協力を得ることができた。原材料メーカーの協力がなければ実現できていない」(同)。
また、スイッチの起点となる水をどのようにして結合部まで届けるか。そして、水による変化をゴム全体ではなく、最表面だけとどめるか。ここにもノウハウが存在する。水は届けたいが、ゴム全体が軟らかくなると、ブロックの変形が大きくなってしまい、操縦安定性や燃費性能に影響を及ぼしてしまうためだ。水をイオン結合部へ素早く届けるために開発したのが、水浸透補助剤。その量などバランスをコントロールすることで、最表面だけの変化にとどめた。
背反性能の両立が可能
「アクティブトレッドは、スイッチという技術を組み込むことで、これまで背反だった性能の異次元での両立を可能にできる」(同)。例えば、転がり抵抗低減(燃費性能)とウェットグリップ性能等は背反するため、いずれかを高めると、もう一方は下がる。「燃費性能やウェットグリップ性能など単体の性能を大きく向上させるものの、両立度が下がるため採用してこなかった技術も有している。そうした技術もスイッチを活用することで両立が可能になり、タイヤ全体の性能を大きく高めることも可能になる」(同)。
シンクロウェザーに適用したアクティブトレッドの技術は、「当社が最終的に目指す頂上から考えると、まだ3~4合目付近」(水野執行役員)で、「アクティブトレッドはまだまだ進化していく。今は水と温度だが、トリガーはまだ増えていく」(山本悟社長)という。シンクロウェザーは水と温度のスイッチで、これまでにない画期的なタイヤとなった。さらなる技術進展が楽しみだ。
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