連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(58)
世界で硫黄が不足、高騰している
連載 New! 2026-06-29
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
◆イラン情勢とAI需要の拡大が硫黄市場に影響
硫黄は、ゴム製品の製造に欠かせない加硫剤として古くから利用されています。粉末硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄などさまざまなグレードがあり、タイヤをはじめとする多くのゴム製品に使用されています。
ゴムと硫黄の関係は、1839年に米国の発明家チャールズ・グッドイヤーが発見した「加硫法」にさかのぼります。天然ゴムに硫黄を加えて加熱することで、温度変化によるべたつきや硬化といった欠点が大幅に改善され、実用的な工業材料として利用できるようになりました。この発見が現代ゴム工業の礎となったとされています。
大阪市立科学館の研究報告によると、グッドイヤーはラテックスと硫黄の混合物を偶然熱いストーブの上にこぼしたことをきっかけに、冷却後も弾力を保ち、べたつかないゴムを発見したと伝えられています。
https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/research/2015/pb25_015-018.pdf
◆硫黄の生産方法の変遷
かつて日本では、硫黄鉱山から採掘した硫黄鉱石を加熱し、溶融した硫黄を回収して粉末硫黄を製造していました。昭和40年代までは、こうした鉱山由来の硫黄が主要な供給源でした。

【写真】ポーランド・硫黄博物館の展示 硫黄鉱山の採掘

【写真】ポーランド硫黄博物館の硫黄鉱石の展示資料

【写真】群馬県嬬恋村 嬬恋郷土資料館・小串鉱山に関する展示

【写真】小串鉱山産の硫黄鉱物
現在では、硫黄の大部分は石油精製工程で回収され、石油会社が溶融硫黄として生産しています。原油には通常2~6%程度の硫黄分が含まれており、ガソリンや灯油、軽油などの石油製品を製造する際に脱硫処理が行われます。この脱硫工程で除去された硫黄が回収され、溶融硫黄として工業原料として利用されています。
◆硫黄の主な用途
硫黄の世界的な最大用途は硫酸の製造です。硫酸は銅の精錬や、肥料製造、硫安、リン酸肥料の原料として不可欠な化学品であり、世界的な需要が非常に大きい製品です。
また、硫酸用途以外に硫黄そのものも以下のような用途で使用されています。
ゴム用加硫剤
農業用殺菌剤
化学薬品原料
マッチ原料
各種工業用途
◆世界的な需給ひっ迫と価格上昇
2026年に入り、世界的に硫黄の需給がひっ迫し、価格が上昇しています。
背景には、銅需要の増加があります。電気自動車(EV)、再生可能エネルギー設備、AI向けデータセンターなどの建設が進み、銅線用途に大量の銅が必要とされています。銅精錬には硫酸が不可欠であるため、結果として硫黄需要も拡大しています。
さらに、世界人口の増加や農業生産の拡大により、肥料向け需要も堅調に推移しています。硫安、リン酸肥料の需要が毎年増えてきています。
一方で、硫黄の供給源である石油精製設備は短期間で増設できず、需要増加に供給が追いついていない状況です。日本国内では製油所の統合や閉鎖が進んでおり、硫黄生産量はやや減少傾向にあります。また、日本で生産される硫黄の半数以上はアジア地域へ輸出されており、東南アジアを中心とした銅精錬や肥料生産で消費されています。

【写真】三井物産の溶融硫黄運搬船 三井物産のサイトより
◆世界で硫黄が不足して、価格が高騰してきています。
2026年3月イラン紛争がはじまってから、中近東ペルシャ湾各国からの硫黄の輸出が止まり、これも硫黄が不足した原因にもなっています。さらに日本では、中近東からの原油輸入の代わりに米国からの原油輸入が増えました。中近東からの原油は硫黄分が多いのですが、米国からの原油は硫黄分が少なく、これも日本の硫黄生産量が減った要因にもなっています。
その結果アジア地区での価格が大幅に上がりました。

BusinessAnalytIQのサイトより2026年6月現在 単位はUS$/㎏
特に、中国とインドで硫黄の価格が高騰してきています。東南アジア地区では2026年6月に溶融硫黄の価格はUS$1000/MTを超してきており、2025年の平均値の3倍になってきています。
いままでの安い硫黄の時代が終わりつつあります。世界的な硫黄の需要が増えてきていますが、石油精製からの硫黄の供給はそこまで増えていないのです。ロシアでの石油精製、中近東での石油精製が25,26年減っているのもその要因です。
ゴム産業において硫黄は加硫剤として欠かせない原材料です。今後も世界のエネルギー事情や地政学リスク、AI関連投資の動向が硫黄市場に大きな影響を与える可能性があります。硫黄価格の動向は、ゴム製品の製造コストにも影響を及ぼすため、引き続き注視が必要です。
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