連載コラム「白耳義通信」52
「静かな幕開け」
連載 2021-01-18
鍵盤楽器奏者 末次 克史
例年であれば、賑やかな花火の音とともに新年を迎えるベルギーですが、コロナ禍ということもあり、今年はひっそりと幕を開けたようです。皆様はどんな年を迎えられたでしょうか。紅白歌合戦も無観客ということもあり、臨場感に欠けた感がありましたが、生歌を披露したアーティストは、「歌が持つ力」を存分に知らしめてくれました。また初詣は分散参拝が呼びかけられた為、その分、厳かな雰囲気が増したようにも感じられました。
さて、ベルギーの元旦は、北海に面しているオステンド(Oostende)で、極寒の海に飛び込むニューイヤーズ・ダイブ(Nieuwjaarsduik)が行われるのが恒例ですが、新型コロナウィルスの影響で、今年は開催が見送られました。ただ、開催が危ぶまれたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサートは無観客で行われました。「ラデツキー行進曲」を聴くと、「今年も頑張ろう!」という気になります。
日本では、毎年1月2日、3日、東京箱根間往復大学駅伝競走がお茶の間の話題を独占します。劇的な逆転劇となった最終10区。最後まで何が起こるか本当に分かりませんね。特に今年は在宅率が高かったようで、過去最高の視聴率を記録したそうです。
ベルギーでは、正月を象徴するようなスポーツ大会はないのですが、クリスマスが終わると、年末恒例のシクロクロス(Cyclo-cross)という、オフロードで行われる自転車競技(泥道を走ったり、自転車を担いだり、ロードレースが行われない冬にベルギーで盛んな競技。ここ数年は日本人の選手も参加しています)で、一年のスポーツが締めくくられます。しかしこちらも残念ながら昨年末は中止となりました。
マラソン大会は、毎春、ブリュッセルやアントワープで行われるものの、ベルギーでは駅伝大会というものはありません。「駅伝」という競技を知っているベルギー人は少ないのではないでしょうか。あったとしても、日本のように人気がでるかどうか疑問です。10人が母校の襷を繋ぐ。中継所で繰り上げスタートの可能性がある。このような人間模様がドラマチックに繰り広げられる競技だからこそ、日本人の心情を揺さぶるのでしょう。
自転車競技のロードレースではチームごとのゴールタイムを競うことはあっても、各ステージをチームの選手がリレーで走ることはありません。日本の駅伝が街道、宿場、飛脚といったものが起源だとするなら、ヨーロッパにはローマ街道があります。折しも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異種が爆発的に感染拡大して、国境を閉鎖している国が多いヨーロッパ。
コロナが収まった暁には、去年中止されたリレーによるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会と共に、ローマ街道駅伝を開催して、離れてしまった人々の心を繋げるのも良いかもしれませんね。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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