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【マーケットアナリティクス】

天然ゴム相場の12月前半のレビューと12月後半のアウトルック

連載 2016-12-15


マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅 努

12月前半のレビュー

 12月前半のTOCOM天然ゴム先物相場(期先)は、1㎏=227.60円での取引開始後、ほぼ一本調子で値位置を切り上げる展開になった。12月12日には250円の節目を突破し、月央にかけては280円台まで更に上げ幅を拡大している。これは、2013年9月以来となる3年3か月ぶりの高値更新となる。

 引き続き、ゴム相場の急騰をけん引しているのは上海期貨交易所の天然ゴム相場である。月初の1トン=1万7,475元に対して、13日の取引では2万元の節目を突破し、急騰傾向に歯止めが掛からない状況になっている。中国市場では、鉄鉱石や石炭の上昇ペースが鈍化しているが、ゴム相場に対しては投機マネーの流入に歯止めが掛からない仕手相場化が続いており、東京ゴム相場もこうした動きに連動して急騰地合を形成している。

 上海ゴムに関しては、11月の中国貿易収支で輸入が前年同月比6.7%増と2014年9月以来の高い伸び率を記録したこともポジティブだが、基本的にはゴム需給やマクロ経済環境は殆ど材料視されていない。「上がるから買う」という完全な投機相場と化しており、過熱感や割高感といった議論は殆ど意味を持たない状況になっている。

 また、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国が2017年1月からの協調減産で合意したことで、原油価格が急伸していることもポジティブ。伝統的産油国が本格的な供給調整に乗り出すことで、早ければ2017年上期にも国際原油需給は均衡化する可能性が浮上してる。合成ゴムの原料であるナフサ価格の上昇が進む中、天然ゴム相場に対しても連想買いが入りやすい状況になっている。

 国内独自要因では、急激な円安傾向もポジティブ。トランプ次期米大統領の財政拡張政策を先取りする形で米金利上昇・ドル高圧力が強くなっており、円安(ドル高)によって天然ゴムの輸入調達コストは上昇し易くなっている。

 東南アジアの生産地では、やや雨がちな天候が報告されているが、天然ゴムの集荷量などに大きなダメージは報告されていない。タイ産RSS現物相場は、月初の1㎏=66.77バーツに対して14日時点では77.59バーツまで急伸しているが、これは専ら上海ゴム相場の高騰にけん引されたものであり、産地需給動向は産地市場でさえ殆ど材料視されていない。

12月後半のアウトルック

 12月後半は、引き続き上海ゴム相場の動向が注目されることになる。特に目立った需給ひっ迫状況が報告されていない中での上海ゴム相場高には違和感を有している向きも多いが、投機主導で高値更新サイクルが維持されている以上、更に値位置を切り上げる可能性が排除できない。2万元の節目が抵抗線として機能しない中、目先は2013年9月高値の2万1,300元、そして2万5,000元の節目程度しか目立ったポイントが見当たらない。高値更新サイクルが続いている間は、需給動向と関係なく値位置を切り上げる展開が年末まで維持される可能性がある。

 ただ、中国中央銀行は現地メディアに対して急落が続く人民元相場を防衛する用意があると表明しており、仮に人民元安にブレーキが掛かると、「人民元安→上海ゴム相場の高騰」というマクロ環境が修正を迫られる可能性がある。上海ゴムに対する投機マネーの流入は、通貨安(人民元安)に伴う購買力の低下に備えた実物資産(コモディティ)への資金シフトとの見方もあるだけに、人民元安にブレーキが掛かるか否か、ブレーキが掛かった際に上海ゴム相場から投機マネーの流出が発生するか否かが注目点になる。

 投機要因主導の相場展開が続いているだけに、仮に上海ゴム相場のピークアウトが確認されると、年末に向けて一気にポジション調整が進む可能性も十分にある。現在の上昇ペースが中長期にわたって持続可能なものではないことは確かである。中国投機筋の投資判断に強く依存する相場構造となっているだけに、更に上昇するにしても反落するにしても、大きめの値幅を想定しておく必要がある。

 需給面では、東南アジアの降雨過多が更に深刻化するか否かが注目されるが、ラニーニャ現象の影響は縮小しており、天候プレミアム加算を迫られる可能性は低い。やや未燻製シート(USS)の集荷が伸び悩んでいるが、RSSの集荷量は多くも少なくともない適度な状態が維持される見通し。上海市場では、相場水準が急騰しているものの認証在庫の積み増しは続いており、相場動向と在庫動向との間に大きなかい離が見受けられるが、材料視されづらい。引き続き、上海ゴム市場における投機買いがいつまで続くのかだけに注目すれば十分と考えている。

【レンジ】
12月前半の取引レンジ 250.00~340.00円
12月後半の予想レンジ 224.50~288.80円

【プロフィール】
小菅 努(こすげ つとむ) マーケットエッジ株式会社 代表取締役

 1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。コモディティ市場や金融市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)

http://www.marketedge.co.jp/
https://twitter.com/kosuge_tsutomu

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