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【特集】天然ゴムの現在地

ブリヂストン、パラゴムノキの生産性向上、天然ゴム資源の多様化に取り組む

ラバーインダストリー 2021-07-16

ドローンを用いて農園全体をきめ細かく把握


 ブリヂストンが天然ゴム資源のサステナブル化に挑んでいる。2050年には全世界の人口が96億人に達し、自動車の保有台数は24億台を超え、必要な材料量は今の2.5倍と言われている。産地が東南アジアに集中するパラゴムノキの病害リスクや栽培面積の拡大に伴う熱帯雨林の減少という課題に対し、パラゴムノキの生産性向上に向けた取り組みと天然ゴム資源の多様化を進めている。その根底には、開発した技術を展開することで社会貢献を果たす、天然ゴムの社会を守るという想いがある。

 パラゴムノキの生産性向上に向けた取り組みとして進めているのが、収量を減らさない取り組みである高精度病害診断技術と増やす取り組みである植林計画最適化システムだ。

ビッグデータを活用した「パラゴムノキ」の植林計画最適化システムのイメージ


 高精度病害診断技術は、電通国際情報サービス(ISID)と共同開発したもので、ドローンで空撮した農園の画像を画像解析AIに取り込み、パラゴムノキの病害診断を行う。見分ける病害は、東南アジアのパラゴムノキで罹病が頻発する根白腐病。1区画(500×500メートル)で2~3本の木が罹病するだけで、伝播により収量に影響を及ぼす可能性がある深刻な病害だ。

 根白腐病は菌が根に付着し発症するため、罹病しているかが見分けにくいうえ、根から根へと広がっていく。初期の段階であれば根に抗菌剤を塗ることで対処できるが、症状が深刻になると根の切除や木そのものを抜く必要が出てくる。「木を一旦抜くと、次に植え採取するまでには5年かかる。菌の伝播を食い止めるには、とにかく早期に発見し、早期に対処することが重要になる」(中川大助先端材料部門天然ゴム技術研究課課長)。

 ブリヂストンはこれまでも、採取するラテックスの成分や代謝物、衛星画像の解析など様々な診断技術を開発し、根白腐病への対処を試みてきた。ところがラテックスの成分や代謝物の解析は、広大な天然ゴム農園全てをカバーするのに適さず、一方で衛星画像を用いた診断は「1区画に罹病木が2~3本あってはいけない中、農園をきめ細かく見ていく上での精度面にどうしても限界があった」(大月正珠先端材料部門長)という。その点、ドローンを用いると、農園全体をきめ細かく把握することができる。

 AIによる画像解析を用いた診断の開発にあたっては、同社農園スタッフが保有する罹病木に表れる葉のつき方や色味など、葉群の特徴という暗黙知をAIに学習させた。「農園スタッフが下から見ている木の状態とドローンが上から撮影するものは、見える景色が異なる。そのため、下から見る景色をしっかり学習させ、それを上から見る景色と合致させていくことは開発にあたって苦労した点だ」(中川氏)。

 現状は、インドネシアに保有する自社農園の区画で試験運用を行っている。これまでは、農園スタッフの熟練度によって罹病木の発見精度にバラつきがあったが、AIを用いた画像解析では農園内の品種や樹齢に関係なく、約90%の確率で根白腐病を早期発見できるレベルにある。「約90%の精度というのは、罹病木を10%見逃してしまうというわけではなく、たまたま調子の悪い正常な木を罹病木と判断してしまうものだ。罹病木についてはもらすことがないため、実用化できる段階に十分あると考えている」(大月氏)。1度の飛行でどれだけの面積を見ることができるかは、ドローンの性能に依存するため、より高性能で飛行時間の長いドローンの開発に期待を寄せる。現状、1区画分の診断は可能だ。

 今後は精度のさらなる向上に加え、地域や品種に応じて必要ならば改良を施していく。「現在は、自社農園という限られた区域内での確認にとどまっているが、エリアをどんどんと広げていきたい。天然ゴムは品種が豊富なため、地域によって植えている品種が大きく異なる。自社農園のあるインドネシア国内で運用する分には品種等に大きな変化はなく、問題ないとみているが、例えばタイで運用する、アフリカで運用することを想定した場合、地域性等を考慮し必要ならば改良していきたい」(中川氏)。

中川大助先端材料部門天然ゴム技術研究課課長㊧と大月正珠先端材料部門長

農園の面積を広げることなく収量の最大化を目指す

 増やす取り組みである植林計画最適化システムは、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構統計数理研究所の学術指導を経て、ブリヂストンのゴム農園管理に関する知見に基づき、土壌や病害予防といった複雑な制約を数理モデル化、収量や面積といったパラゴムノキの農園から得られた膨大なデータに混合整数計画法を適用することで開発した。「パラゴムノキは品種によって特徴や耐性が異なる。そのため、植える土地に合わせ、様々な品種を最適な組み合わせで植えることによって、農園としての収量を最大化できる」(同)。試験的な植林を始めて2年が経過しており、「パラゴムノキを植え5年が経過すると天然ゴムが採取できることを考えると、3年後にはその結果が出る」(大月氏)。

 高精度病害診断技術や植林計画最適化システムは、いずれも農園の面積を広げることなく、収量の最大化を目指す取り組みだ。ブリヂストンは、確立した技術を展開することで、社会価値や顧客価値への貢献に繋がっていくと考えている。「当社がタイヤ生産等に使用する天然ゴムの量は非常に多く、そのうち自社農園のものはわずかだ。天然ゴム生産者の中にはスモールホルダーも多い。そういう人たちの中には、経済力がないため木をみすみす病気にしてしまい、余計に経済力が落ちるという問題を抱えている人もいると聞く。開発した技術を展開することで、スモールホルダーをきちんと守っていきたい。現状では良い苗を提供したり、育て方を指導したりしているが、病害に対する部分もしっかり手当てしたいと考えている。そうすれば、スモールホルダーも収量が安定し、経済的にも安定した生活を送ることができる。

 森林を伐採して新しい農園を作り量を確保するのではなく、今ある限られた場所、面積でいかに最大化を図っていくか。単に自分たちの農園を守るのではなく、天然ゴムという社会を守ることが非常に重要だと考えている」(同)。

(次ページ:「2020年代にグアユール由来の天然ゴムを実用化へ」)

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