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【特集】天然ゴムの現在地

ブリヂストン、パラゴムノキの生産性向上、天然ゴム資源の多様化に取り組む

ラバーインダストリー 2021-07-16

2020年代にグアユール由来の天然ゴムを実用化へ

グアユール


 一方、天然ゴム資源の多様化に向けては、グアユール由来の天然ゴムの実用化に取り組んでいる。

 グアユールは、米国南西部からメキシコ北部の乾燥地帯が原産のキク科の低木で、パラゴムノキ由来のゴムに匹敵する成分を組織中に含む。植えてから2年後に根を残したまま上部を刈り取ると、残した根からは再び茎が生えてくる。採取を2年周期で繰り返し、3回目となる6年目に根ごと刈り取る。

 グアユールから採取した天然ゴムは、パラゴムノキのものと比較しても分子構造や分子量に大きな差はないが、含まれる不純物成分やタンパク質に若干の違いがある。タンパク質に関しては、グアユールから採取する天然ゴムの方が少なく、例えばそれを用いて手袋にすると、従来の天然ゴムに比べ、タンパク質アレルギーの発症を随分と抑えることができると言われている。

 天然ゴムにするまでの工程は大きく異なる。パラゴムノキから採取するものは、ラテックスを凝固させ乾燥させれば良いが、グアユールは刈り取った部分を粉砕した後、天然ゴム成分を抽出する必要がある。

 ブリヂストンはグアユールに関し、その栽培技術や抽出技術、タイヤへの適用技術等を一貫して行っており、それらを最適化しながら2015年には使用する天然ゴム全てをグアユール由来のものに置き換えたタイヤを発表。基本プロセスについてはすでに完成させている。グアユール由来の天然ゴムを用いたタイヤは、性能も従来品と同等で、ある領域に至っては従来品以上の性能を示しているという。

 2020年代にはグアユール由来の天然ゴムをタイヤ材料として実用化していく考えだが、そのための課題となるのが収量だ。グアユール由来の天然ゴムはタイヤ材料として使用するまでの工程が複雑で、パラゴムノキ以上のプロセスを必要とするため、コストがどうしても高くなる。「ビジネスとして成立させるには、収量を高め、複雑な工程を経てもそのコストも吸収できるようにする必要がある」(同)。

 プロセスそのもののコストについては、2017年12月にイタリアのベルサリス社とグアユールの商用化に向け戦略的な提携を開始した。プロセスはすでに開発してあるが、「合成ゴムなど化学品の製造プロセスに長けているベルサリス社のプロセス力によって、これまで以上に洗練し、最適化したプロセスになりつつある」(同)。

 収量に関しては、ゲノムのビッグデータ・ソリューション企業であるNR Gene社と2017年から共同研究を進め、グアユールの複雑なゲノム配列を高精度に解読することに成功。遺伝子情報をもとに優良品種の選抜を進めている。また、その苗を安定的に増殖させるために、キリンが持つ植物大量増殖技術を活用、共同研究によって同一のグアユールを安定的に増殖させる技術を開発した。これらによって、天然ゴムの収量を安定させながら、生産性の高いグアユールの栽培を加速させることが期待される。「優良品種の選抜は引き続き行っていく。グアユールは自然交配によって広がっていくため、天然ゴム以上に品種がある。遺伝子の解読によって、ある遺伝子を持つ品種の収量が多いことは分かっている。収量が見合うところまで高まれば、ビジネスとして成立する。現状の優良品種は単一に植えていけば成立するレベルにあると思うが、パラゴムノキと同様に区画に対し最適な品種の組み合わせによる植え方があると考えている。そこを見極め、どういう品種の組み合わせで植えていけば良いのかまでを考慮し、ビジネス化しなければならないと思う」(中川氏)。

 天然ゴム成分を含む植物は、ロシアタンポポやレタスなど意外と多い。それでもブリヂストンは、グアユールが天然ゴムを採取する植物としてパラゴムノキに並ぶ候補と位置付けている。「グアユールは乾燥地帯で育つ。2050年に人口が96億人になると言われる中で、天然ゴムを採取する植物の条件の1つとして、食物の栽培地と重ならないことが非常に重要だ。その点を考えると、天然ゴムを採取する植物としてパラゴムノキの次に候補に挙がるのが、乾燥地帯で育ち収量面でも優秀なグアユール。第3候補は今のところないと考えている」(大月氏)。

 グアユールは天然ゴム成分を含む茎が非常に硬く、どのように粉砕してどのように天然ゴムを採取するかというプロセス開発が非常に難しい。ブリヂストンは1988年に買収したファイアストンが、第二次世界大戦中や1980 ~ 1990年代にグアユールの研究を進めていた。「その知見やノウハウを活かしたため、全くゼロからのスタートではなかった」(同)。

 グアユール由来の天然ゴムも、一旦天然ゴムにしてしまえば既存のタイヤ製造プロセスを使うことができる。ブリヂストンは、グアユールによって天然ゴム資源の地産地消を目指している。栽培地である米国は世界屈指の自動車社会であり、いま栽培しているアリゾナ州周辺で賄うことを意識している。「今後、世界で原材料が不足していくと想定される中、熱帯以外で天然ゴムをいかに採取するか。それは、モビリティ社会が発展した近くで作り、供給されるのが望ましい。輸送の際に排出するCO2の観点からも重要だ」(同)。「開発した技術を展開することで社会貢献に繋げていきたい」(中川氏)、「天然ゴムがタイヤに使用されてほぼ100年が経つが、未だに天然ゴムを超える丈夫さを持つものはなく、改めて天然ゴムの優秀さが身に染みている。その優秀なものをしっかりと使い続けられるよう、増やすことに加え、循環させる世界を作っていきたい」(大月氏)。ブリヂストンは、その描く未来に向けて着実に歩みを進めている。

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