【特集】メディカルとエラストマー
アキレス、感染症対策用陰・陽圧式エアーテント「NPシリーズ」展開
ラバーインダストリー 2021-06-04
アキレスの感染症対策用陰・陽圧式エアーテントに注目が集まっている。2020年度は新型コロナウイルス感染拡大と,その対策として病院設備の増改築費用を国が100%補填することを定めた第二次補正予算が成立したこともあり,病院向けに受注が急拡大。工場(栃木県足利市)では,急遽増産し対応した。
同社の感染症対策用陰・陽圧式エアーテント「NPシリーズ」は,テント内部の気圧を外気圧に対し低くする陰圧環境を作り出すシステム。空気感染ウイルスの感染防止に効果があり,仮診察室などとして活用できる。送風機を用い空気を充填することで組み立てることができ,FRPロッドや鉄パイプなどの構造材は一切不要。エアーテントの心臓部にあたる気柱の素材には,気温変化に強く,耐候性,耐油性,耐薬品性などに優れたクロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)を採用している。また,工場で徹底した品質管理,検査,仕上げのもと生産しており,修理,検査などの対応も可能。アフターフォローも充実している。
感染症対策用のため気密性の高さも求められるが,その気密性を確保するために天幕を重ねた二重天幕構造を採用している。同構造を採用したことで,密閉度を向上させただけでなく,断熱効果も高い。「診療中に医師が汗をかくことは禁物のため,冷房の設置を強く望まれる。通常は冷房を作動しても,テントを構成する材料には断熱性がないため,テント内はすぐに温まってしまうが,二重天幕構造を採用していることで,空気層が断熱材の役割を果たしている」(久昌貫之引布販売部部長)。
2003年の世界的なSARS流行を機に日本で初めて開発
アキレスがエアーテントの製造・販売を開始したのは1990年代初頭。当時,他社はスウェーデン製のエアーテントを輸入販売していたが,アキレスは顧客から特注オーダーを受けたことをきっかけに自社で生産を開始した。同社は1950年代からゴムボートを生産しており,その引布の技術を活用した。生産開始当初は,感染症対策用はラインアップしておらず,主に宿営用として一部の消防本部に販売。採用していた消防本部が,阪神・淡路大震災の救助応援の際に用いたことで,全国の消防本部で一般的な装備品となった。
感染症対策用陰・陽圧式として開発したのは2003年。重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的な流行を機に,日本で初めて開発した。その後,2006年に初開催された危機管理産業展への出品を契機として,厚生労働省や東京都など自治体の備蓄品として採用された。2009年に国内も含め世界的に流行した豚インフルエンザ由来の新型インフルエンザ対応に使用されたことで,関係者に認知されるようになった。
20年秋にはPCR検査等を想定した改良品「NPI-66」開発
2020年秋には,PCR検査等での使用を想定し,従来の「NPシリーズ」の改良品として「NPI-66」を開発した。「NPI-66」は,テントの内側に独自設計の仕切り幕を装備し,内部を2つのゾーンに区分することで,検査時の飛沫感染によるリスクを低減,安全性を高めている。また,天幕だけでなく床布を二重化することで,ウイルス付着の可能性がある内側の天幕と床布を簡単に取り外し廃棄,交換することができ,衛生的な検査空間を確保できる。室内の空気は,HEPAフィルターと紫外線殺菌装置を搭載した多目的空気清浄機を通して外部へ排気し,1時間に12回以上の換気が可能だ。「NPシリーズの販売を開始した2003年当初は,PCR検査での使用は想定していなかったが,今回NPシリーズが実際に使用されている現場を見て,鼻に綿棒を入れる際に検査対象者がくしゃみをすることが非常に危険だと分かった。その防護用の衝立が欲しいという要望のほか,現場の様々な状況も踏まえ,NPI-66の開発に至った」(同)。
感染症対策用として,現場の最前線で使用されるエアーテントの製造における目下の課題は人材育成だ。「特殊な加工のうえ複雑な形状のため,各パーツを接着により接合しているが,その接着技術が非常に難しい。熟練した職人が高齢化する中,製造技術を継承し製品についても進化を続けられる人材の育成が欠かせない」(同)。
同社はエアーテントの使用期限として,10年を推奨している。しかし,今回の新型コロナでは,10年以上前に購入されたものも使用された。しかも半年,1年と屋外に出されたままでの使用という想定外の出来事だったが,機能は全く損なわれることなく,大きな問題も起きていない。「想定外の使用環境でも,求められた期待に応えることができたことは,当社の製品作りが間違っていなかったと誇りに感じている」(同)
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