バンドー化学、独自開発センサ「C-STRETCH」がキーパーツ

　バンドー化学は，中長期経営計画「Breakthroughs for the future 2ndステージ」（2018～2022年度）で，指針の1つに新事業の創出を掲げ，新たな事業の柱の１つとして医療機器・ヘルスケア機器事業の確立に取り組んでいる。今年で創業115年になる同社が，長年にわたって培ってきたゴム・エラストマーの技術が活かされている。

　医療機器・ヘルスケア機器事業のキーパーツとなるのが2015年に独自開発した伸縮性ひずみセンサ「C-STRETCH（シーストレッチ）」。同社が長年培ってきたゴム・エラストマーの配合技術，接着技術，フィルム加工技術に，フィラーの分散技術を組み合わせた静電容量式の伸縮性ひずみセンサだ。①検出精度が高い②柔軟性が高い③取り付けの自由度が高い④低ヒステリシスという特長をもつ。

　静電容量式を採用しているため経年劣化が小さく，繰り返し精度の高い検出が可能で，「100万回の伸長テストでも初期との誤差はほとんどない」（バンドー化学）という。非常にリニア性が高く，伸長率と静電容量の間の線形性が高い。面積や長さの絶対値を計測することも可能で，伸長時と収縮時の出力誤差がほとんどみられない。最大3倍伸長まで正確に計測でき，「柔軟性に優れ，それほど負荷をかけることなく，容易に伸長させることができる」（同）。柔軟性が高く伸度も大きいため，任意な曲面への貼り付けが可能で，身体に装着した場合でも，突っ張り感のような違和感はない。低硬度でありながら，ゴム弾性を有しているため，伸長後に緩和すると直ちに収縮することができ，キックバックの良い低ヒステリシスに優れている。

　従来のセンサにある課題を解決する優れた性能を有しており，開発時点では産業機器など幅広い展開を見込みマーケティングを進めてきたが，その中で「センサを活用するにあたって，生体情報の入手が事業化には最も親和性があるのではないか」（同）と考え，医療機器・ヘルスケア機器事業へ展開を進めた。

C-STRETCH活用した初の医療機器「ATメジャー」販売開始

　C-STRETCHを活用した初の医療機器として2020年10月に販売を開始したのが「ATメジャー」。販売は，2019年に買収した，医療機器の製造・販売を行う「Aimedic MMT」が行っている。

　ATメジャーは，整形外科やリハビリテーション科の領域で，整形外科医や理学療法士が従来は主観で評価していた足関節の不安定性評価を計測し，数値化する医療機器。C－STRETCHの技術を応用し数値化することで，足関節の状態や回復度の評価を行うことができる。「患者の足関節の現状や回復度合いが数値化されるので，整形外科医や理学療法士はより良い治療，理学療法を選択できる。現在の症状を知る上で非常に有効で，採用も徐々に進んでいる」（同）という。

　C-STRETCHは今後，ATメジャーのような関節可動域の計測だけでなく，呼吸数の計測や嚥下の評価にも活用していく考え。「C-STRETCHはセンサ素子，トランスミッター，専用ソフトウェア等の一式をセットにし標準キットとして販売しており，購入した顧客が新製品の研究開発に用いている。大学の研究者，国の研究機関，企業のR&D，事業開発の部門など様々なところに購入してもらっている。標準キットの販売先は医療分野に限っていないが，医療分野での検討が多い。今進めている呼吸や嚥下の分野でも，症状の見える化や数値化のニーズはあると思う。そうしたニーズを取り込み，製品化に繋げていきたい」（同）。

　今後は，ヘルスケア分野での展開も拡大していく方針だ。「ヘルスケア分野では，バンドー化学が一から開発し，バンドー化学のブランドで発表する製品も予定している。C-STRETCHだけでなく，当社が保有する技術をキーテクノロジーとして，広く評価，活用される分野に，連続的に新製品を市場投入していきたいと考えている。医療機器分野は一度認可を得て販売すると，息が長いという特徴があるが，一方で売上高という観点で見れば数量が決して多く出るわけではない。そのため，足関節以外の様々な部位やヘルスケア分野にも展開を進めることで，事業を拡大していきたい」（同）。

　目下の課題に挙げるのが新型コロナウイルスの感染拡大。「自動車や産業機器ならばノウハウもありリモートでの代替も可能であるが，医療分野は患者が対象であり，評価するのが医療現場なので，リモートで全てを把握することが難しい。認証手続きなど，新型コロナの影響を受ける形となるが，着実に進めていきたいと考えている」（同）。