三洋貿易は8月24~28日、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の啓発・浸透を目的とした社内イベント「D&I推進week」を開催した。3回目となる今回は「『知る』から『共に働く』へ。日常に潜む違いとバリアを、自分ごとに変える」をテーマに、役員を含む全社員がD&Iについて考え、体験し、対話する機会を設けた。


 27日には本社(東京都千代田区)で記者説明会と車いす・バリアフリー体験を実施した。

人的資本の違いを競争力に


 同社では、D&Iを単に「違いを受け入れる」「多様性を尊重する」といった啓発活動にとどめず、経営戦略の一つに位置付けている。
 記者説明会で和田久美子執行役員人事部管掌兼企業文化・コンプライアンス推進室長は、商社にとって成長の源泉は「人的資本」であるとし、それらを最大限に活かすためには、多様な人材や働き方を力に変えるD&Iと、社員が自ら意見を発信し主体的に動ける「自由闊達」な企業文化の双方が必要になると説明。
 「当社はD&Iを、単なる『優しさ』としての受け入れではなく、経営の意思として、一人ひとりが持つ知見や経験、強みといった違いを新たな価値と最適解を生み出す競争力へ変えていく」(和田執行役員)考えだ。

和田久美子執行役員

3年目は「見えにくいバリア」に焦点


 D&I推進weekは、年に一度、役員を含む三洋貿易の全社員が集中的にD&Iについて考え、触れ、対話する「時間と場」として2024年度から開始した。


 初年度は「アンコンシャス・バイアスに気づいて働きやすい職場をつくる」をテーマに実施。
 25年度は「ジェンダーの違いが心と体に及ぼす影響を理解する」をテーマに、生理痛の疑似体験や育休取得者によるパネルディスカッションなどを行った。


 3年目となる今年は、障がいのある人を含め、日常に存在する「見えにくいバリア」に気づくことに重点を置いた。
 違いを特別扱いするのではなく、誰もが力を発揮できる環境づくりへ繋げる狙いがある。
 期間中は、新谷正伸社長による開始宣言を皮切りに、社内外の取締役と執行役員による「役員D&I宣言」、1月から本格的に開始した障がい者雇用の取り組みから生まれたコーヒーを通じたイベント、車いす・バリアフリー体験などを展開。


 最終日には、自身と他者の価値観の違いを確認する「価値観クロストーク」を企画するなど、各プログラムを「共に働く文化の醸成」という一つのストーリーに沿って構成した。

車いす体験で日常のバリアを実感


 27日の車いす・バリアフリー体験には、管理部門を中心に約15人が参加した。


 車いす5台を用意し、参加者は交代しながら実際に車いすに乗る側と介助する側の双方を体験。
 3階のコミュニケーションスペースや8階の食堂など社内を移動したほか、1階から屋外へ出て、オフィス前の歩道も走行した。


 社内では、普段は問題なく通れる机や椅子の間隔でも、車いすでは方向転換が難しい場面がみられた。
 食堂の自動販売機では、商品を選ぶボタンには手が届いても、支払い部分には届きにくい場合があることなどを確認した。


 屋外でも、歩行時にはほとんど意識しないわずかな勾配や段差に苦労する様子がみられたほか、点字ブロック上を走行する際の振動などを体感した。


 参加した社員からは、「車いすに乗ることで目線が下がり、周囲に圧迫感や怖さを感じた」との声が聞かれた。
 また、介助する側からも、「段差などにつまずいた際に乗っている人を落としてしまいそうになる怖さを感じた」との感想があった。


 実際に普段働くオフィスやその周辺を車いすで移動することで、日常生活では意識しにくい物理的、心理的なバリアへの気づきに繋げた。

制度にも繋がった社員発のD&I


 同社のD&I活動では、社員自身が取り組みを提案する仕組みも設けてきた。
 全社員から公募し、手挙げ方式でメンバーを募る「D&I推進委員会」では、社員からの提案を実際の施策や制度に繋げている。


 2024年には委員会の発案を受け、アンコンシャス・バイアスに関するeラーニングを全社展開し、全社員が受講。ジェンダーをテーマとした25年には、育休取得者が所属する職場を支援する「育休職場応援手当」、育休取得期間の延長、社員が自身の大切な日に取得できる「アニバーサリー休暇」を導入した。


 3年間の取り組みを通じ、社内の意識にも変化が表れている。
 D&Iに取り組む以前は女性活躍推進を軸としていたこともあり、当初は男性社員から「D&Iといっても女性活躍推進のことだろう」といった反発もあったという。
 一方、取り組みを重ねる中で男性社員もD&I推進委員会に自ら手を挙げて参加するようになるなど、理解が広がってきた。


 男性の育休取得も定着しつつある。
 「当初は取得を呼びかけてもなかなか広がらなかったが、現在では1~2週間、あるいはそれ以上取得する社員も増え、男性が育休を取得することが社内で当たり前になりつつある」(同)という。


 また、女性社員の育休後の復職率もほぼ100%となっている。
 和田執行役員は「こういった活動は時間がかかる」としながらも、当初と比べて社員の理解が深まり、「D&Iとはこういうことなのか」というイメージが浸透してきているとの手応えを示した。


 D&Iをめぐる成果の定量的な測定はまだ難しいとする一方、働き方や社内制度、社員の意識には着実な変化が生まれている。
 三洋貿易では、今後もD&Iを人的資本の競争力に繋げ、多様な社員が力を発揮できる組織文化の醸成を進めていく。