白耳義通信 第117回
涼しい国のはずが… ベルギーも猛暑の夏
連載 New! 2026-07-15
「ベルギーの夏は涼しくて過ごしやすい」
そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。確かに私がベルギーへ来た30年前は、30℃を超える日はそれほど多くありませんでした。しかし近年は様子が大きく変わってきています。今年もヨーロッパ各地を熱波が襲い、ベルギーでも連日30℃を超える暑さが続きました。
お隣のフランスでは、扇風機やエアコンが飛ぶように売れ、「エアコン争奪戦」とまで報じられました。一方、ベルギーではそこまで大きなニュースにはなりませんでしたが、街を歩いていると「この国は暑さに慣れていないのだな」と感じる場面がたくさんありました。
ベルギーの住宅は、昔から寒い冬を乗り切るために造られています。厚いレンガの壁は断熱性が高く、夏でも最初のうちは室内を涼しく保ってくれます。しかし猛暑が何日も続くと、そのレンガ自体が熱を蓄え、家全体が少しずつ温まってしまいます。
「窓を開ければ風が入って涼しいのでは?」そう思われるかもしれません。しかし昼間は外の空気そのものが熱く、アスファルトや石畳から立ち上る熱気が家の中へ流れ込んできます。風は吹いていても、まるでドライヤーの風を浴びているような感覚です。結局、昼間は窓を閉め、外付けのシャッター volet (Fr) rolluik (Nl) を下ろして日差しを遮るしかありません。そのため、真昼間なのに家の中は夕方のように薄暗くなります。
しかもベルギーの夏は日がとても長く、夜10時近くまで明るい季節です。午後6時を過ぎても太陽は高く、道路や建物は昼間にため込んだ熱を放ち続けます。「夕方になったから涼しくなっただろう」と外へ出ようとしても、まだ一日の中で最も暑い時間帯だった、ということもしばしばです。
日本なら、冷感タオルや携帯扇風機、首を冷やすリング、冷却シートなど、暑さ対策グッズが当たり前のように売られています。しかしベルギーでは、そのような商品を見かける機会はまだ多くありません。スーパーでは常温の水は山積みになっていても、冷蔵庫で冷やされたミネラルウォーターだけが売り切れていることもありました。「水はある。でも冷たい水がない。」そんな光景も、日本との違いを感じさせます。
猛暑の影響は交通機関にも及びました。ベルギー国鉄では「技術的な問題」を理由に列車の遅延や運休が相次ぎました。駅の電光掲示板には、おなじみの「Problème technique / Technisch probleem(技術的な問題)」の文字が並びます。「機械が暑さに負けたのか、それとも人間まで暑さで働く気をなくしたのか?」そんな冗談を言いたくなるほどでしたが、実際には線路や設備が高温の影響を受けたことが原因とされています。
日本では暑い夏を前提に、住宅や電車、生活用品が発達してきました。一方、ベルギーは「夏は涼しい」という前提で長い年月をかけて街や暮らしを築いてきた国です。そのため、ここ数年のような猛暑は、建物にも交通機関にも、人々の生活にも少しずつ無理を生じさせています。
「涼しい国」というベルギーのイメージは、これから少しずつ変わっていくのかもしれません。そんなことを考えさせられる、今年の夏でした。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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