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欧州市場での戦い方が大きく変わる

TOYO TIRE、セルビア工場稼働で地産地消メリットを最大限活用

タイヤ 2023-01-10

 2022年7月に稼働を開始したTOYO TIREのセルビア工場(ヴォイヴォディナ自治州インジヤ市)。同社にとって、マレーシア工場以来9年ぶりの新工場で、12月14日には同国のアレクサンダル・ヴチッチ大統領も出席した開所式が行われた。セルビア工場の稼働により「欧州での戦い方が変わると期待している。セルビア工場を新しい戦い方の基軸として、地産地消のメリットを最大限活用していく」と、TOYO TIREの清水隆史社長は話す。同工場の稼働で、欧州だけでなく、日本やマレーシア等でも地産地消は進んでいく。「地産地消によって、各工場が本来持つ特徴を生かすことができる。グローバルにおけるタイヤ生産供給体制の充実を図ることができ、まさにターニングポイントに入ったと考えている」(清水社長)。

TOYO TIREセルビア工場



整然と並ぶ工場設備(上)、加硫後は検査工程へ

セルビア工場は2023年下期にフル生産、量より質を求め確実に利益あげる

 TOYO TIREがセルビア工場の建設を決めたのは2019年。清水社長は新工場建設について、2017年の中計発表時から念頭にあったと話す。「当時の日本や米国、中国、マレーシアの生産体制では、世界需要の伸びに追いつけなくなるのではないかという懸念があり、生産体制を充実させなければならないと考えた」(清水社長)。

開所式翌日の記者会見で話す清水社長


 当時の同社にとって、欧州は生産拠点の空白地域。欧州市場へは日本やマレーシアから対応していたが、市場へ供給するまでに時間が掛かっていたこと、一部では関税の負担も大きかった。

 工場立地に関しては「米国はコストが高く、例えば年産300万本クラスの工場では採算が合わない。マレーシアは拡張こそ可能だが、そこに集中するのはリスクだ。日本に関しては増産の余地がない。そうした状況や地産地消を考え、欧州での建設を決定した」(同)。セルビアのほか、ポーランドやスロバキアなども候補地に挙がったが、経済の健全化を進めていること、優秀な人材を採用しやすいこと、外資の誘致に積極的だったこと、法人税や人件費が安くビジネスの環境が整っていること、地盤が平らで固く工場立地に適していることなどが決め手になった。「候補地の中で、セルビアが当社と最も相性が良いと感じた。決定後は国を挙げて応援してもらっている」(同)。

 セルビア工場の年産能力は約500万本(乗用車用タイヤ換算)で、タイヤサイズは13~22インチが生産可能。2023年下期にはフル生産体制が確立される。その後の拡張について清水社長は、「生産の安定を前提にするならば、拡張の余地はあると考えているが、まずは年500万本をきちんと生産できるかのスタートラインに立ったところだ。よく見定めていく」と話す。

 同社の主力市場で、「屋台骨」(同)である米国に250万本、セルビア工場の地場である欧州に250万本を供給する。セルビアから米国、欧州への供給は関税が0%であり、日本やマレーシアからの供給に比べ有利だ。加えてオーシャンフレート(海上運賃)についても、欧州市場は言うまでもなく、米国に供給する際もプラスに働く。受注から顧客まで数カ月を要していた期間も、セルビア工場からだと1週間ほどで済む。「顧客は、これまで以上に当社を信用してくれるようになり、当社に寄り添ってくれるようになる。顧客との関係は強固になる」(同)。

 欧州市場にはこれまで、日本とマレーシアから年400万本ほどを供給していた。そのうち、250万本がセルビア工場からの地産地消で賄えることになる。日本、マレーシアからの250万本分はそれぞれの地域の地産地消に充てるほか、例えば日本ならば設備更新によってOPEN COUNTRYなどの高付加価値製品の生産能力増強も可能になる。

 欧州市場は今後、燃費(電費)に繋がる転がり抵抗低減、ウェット性能に加え、EV(電動車)向けでは軽量化がこれまで以上にシビアに求められることになる。セルビア工場は、それらに対応した設備を導入しており、欧州市場で戦う上での強みとなる。例えば、転がり抵抗低減とウェット性能の高いレベルでの両立に必要なシリカを高充填したゴムコンパウンドは、通常の設備では生産することが難しいが、同工場は混合工程に2階建てのタンデム噛み合いミキサーを採用しており、それが可能になる。また、ERP(統合基幹業務システム)、MES(製造実行システム)をはじめとした最新技術の導入により工程を見える化している。高い生産性を有する設備を高精度に連携させることで、生産管理体制を高次に最適化したスマートファクトリーとなっており、「従来の工場よりも部品精度などがかなり高く、生産したタイヤのバランスも含め、より良いものができている。工場設備は大きな武器になる」(井村洋次取締役・執行役員)。2023年1月末から2月初旬には、全自動化された倉庫も稼働を開始する予定。コストは仙台工場比で30%削減できる。

工場に隣接するウェットグリップ試験路


 工場棟には直線720メートル、周回1,690メートルのテストコースが隣接しており、通過騒音計測やウェットグリップ試験などができる。欧州で細かく定められている法規制認証に対応した評価のスピーディーな実施が可能だ。欧州向け製品の開発期間は、「数カ月単位で短縮できる。欧州で評価でき、しかも工場に隣接した場所ですぐに行えるのは非常に強みになる」(守屋学取締役・執行役員)。

 地産地消が進むことで、TOYO TIREの欧州市場での戦い方は大きく変わっていく。従来に比べ納期の短縮が可能なため、例えば、日本やマレーシアからの供給ではどうしても手の届かなかった季節関連製品などについても、納期に合わせた供給ができるようになる。「(欧州のホールディング会社であるToyo Tire Holdings of Europe社長の栗林健太執行役員には)量は売らなくて良いので、当社の強みが活かせる重点商品で、質を高めた商売をしてほしいと伝えてある。量は値段を下げれば出るため割と簡単だが、それを行ってしまうと何のためにセルビアに来たのかということになる。安売りで量を稼ぐのではなく、質を求め、重点市場を決めた上で、セルビア工場から供給する250万本について、確実に利益を取っていく」(清水社長)。

 欧州市場ではタイヤテストを行っている雑誌があり、その結果が売れ行きを左右する。2019年にドイツにR&Dセンターを新設して以降は、同センターによる最先端原材料の探索や調査、車両・市場の最新情報の収集、設計過程における高性能技術開発の研鑽などを進め、近年はテスト結果も高まってきた。それに加え、参戦しているニュルブルクリンクでの耐久レースでもクラス優勝を果たしており、質を伴った拡販に向けた地固めとなるブランド評価は着実に向上している。「1990年代の後半には欧州市場で3%のシェアを確保していたため、少なくとも3~5%は確保してほしいが、安売りで量を稼ぐのではなく、プレミアム商品をきっちりと売っていく。このスタンスは変えない」(同)。

 TOYO TIREセルビア工場の稼働が、欧州市場のタイヤ勢力図をどう変化させていくのか。同社にかかる期待は、欧州市場のディーラーからも決して小さくない。

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