「何を創る、日本の半導体企業」④
半導体はどうやって作る②
連載 2025-07-25
桑原経営戦略研究所 桑原 靖
前回は半導体製造工程の5つの行程のうち④前工程を説明しました。今回は残りの行程、①回路・パターン設計、②マスク作成、③ウエハ製造、⑤後工程に関して説明したいと思います。前工程では、シリコンのウエハ上に数百個レベルの半導体を製造し、設計した回路が正常に作動するのを確認するところまで説明しましたので、その後の⑤後工程を先ずは説明していきたいと考えます。
⑤「後工程」は、前工程でつくられたウエハから半導体チップを切り出して色々なパッケージに入れる工程です。その工程は、図1にある様に、裏面グラインディング(ウエハの裏面を削って薄くする)、ダイシング(シリコンウエハをダイヤモンドブレードなどで半導体チップに一個ずつに切り分ける)、ダイボンディング(リードフレームと呼ばれる金属製の枠に半導体チップを装着する)、ワイヤーボンディング(半導体チップとリードフレームを細い金・銅線でつなぐ)、モールディング(半導体チップは繊細なものなので、樹脂(エポキシ*1等)やセラミックで半導体チップを包み込み、熱、湿気、光、物理的衝撃などの外的要因から保護する)、メッキ(リードフレームの表面に薄い金属膜を形成することで、導電性や耐久性を向上させる)、フォーミング(半導体をリードフレームから切断・分離して、リードフレームを半導体製品として曲げて成型する)、マーキング(半導体パッケージ表面にメーカーロゴ、製品名、生産国、生産ロットトレースコード等を表わす文字や図を刻印する)、最終検査(製造されたICチップが設計通りに動作するかを確認する最終段階の検査)、梱包(輸送に耐えられる様に、半導体をチューブ、トレイ、テープ等に入れ、内装箱・外装箱で梱包して、中に入っている半導体が分かるラベルを張る)されて、半導体を使用する企業に出荷されます。
*1 エポキシ:熱を加えると硬くなる熱硬化性樹脂で、電気絶縁性が高く、機械的強度に優れ、寸法安定性も高い

近年、回路の密度は2nm(ナノメートル)となり、これ以上の微細化は困難な原子サイズの壁に達し、回路の密度を高めることが難しくなっています。そこで、後工程は半導体の前工程の限界を打開する、半導体製造技術の革新につながる重要な役割を果たすことも期待されています。日本企業は後工程の技術革新に必要な製造装置(ウエハを切り分けるダイシング)や材料(切り分けた半導体チップを載せる基盤や半導体チップを蓋う樹脂)で高いシェアを持っていますので、今後大きな役割を担う事が可能な分野です。
①「回路・パターン設計」とは、トランジスタや配線などの構成要素を組み合わせて、電子回路を作成するプロセスです。半導体設計では図2にある様に、1)製品の概念を明確にし、性能・機能・コストなどの基本的な要求を定義し、半導体が何をするのか、何を達成する必要があるのかを決めるのが機能設計、2)回路が意図した動作を実現できるように論理的に設計し、シミュレーションによる検証を行うのが論理設計、3)実際のシリコン上に回路を配置し、トランジスタや配線の配置を最適化しながら設計する物理設計、4)タイミングや消費電力、製造上の制約を考慮しながら最終的なマスクデータを作成するバックエンド設計、の大きく4つに分けられます。

1)機能設計は半導体に組込まれる機能を実現する為だけでなく、製品の性能、コストや信頼性を決定づける鍵となるプロセスと位置付けられています。機能設計では半導体に組み込まれる機能の動作を理解し、要求される性能を満たすための回路設計行い、それに基づいて機能動作を記述し、要求仕様を満たすことをシミュレーションで確認する事が求められます。
2)論理設計では、ICチップ上を大きな機能ブロック(CPUやメモリ等)に分け、そのブロックをさらに小さな機能に分けて設計していきます。これらのブロックを一から設計するとなると、複雑なものになると数十年もかかり、製品化するタイミングを逸してしまいます。そこでコンピューターによる自動設計ツールを使い、個々の機能を実現する論理設計を行います。そうして、機能ブロックを論理演算*2で表現していきます。これはもはやプログラミングに近い作業となり、コンピューターによる自動的な論理合成作業で論理回路に変換する設計ソフトウエアEDA(Electronic Design Automation)を使用して、設計ミスの低減と開発期間の短縮を実現しています。その後、シミュレーションツールを使って回路の動作を確認し、必要に応じて修正や最適化を行い、半導体の中核となる回路を設計します。
*2 論理演算:1つもしくは2つ以上の「1」もしくは「0」の入力に対し、ANDやOR、NOTなどの論理記号で、出力を「1」もしくは「0」を規定する
3)物理設計では、機能ブロックを半導体上に割り当てる、レイアウト作業を実行します。そして機能ブロック間とブロック内を配線で接続して行きます。これもコンピュータによる自動化作業となり、そのためのツールもEDA企業が提供しています。膨大なトランジスタを配線でつなぎ合わせるため、検証作業やシミュレーションを行い、ミスのない物理設計に仕上げる必要が有ります。
4)バックエンド設計では、物理設計で作成した半導体の最終レイアウトデータをフォトマスクデータに変換します。この作業も自動化されており、そのフォーマットはGDS-IIという形式で出力されます。プロセスルールの微細化が進んだ結果、光の回折*3などでレジストに転写されるパターンが設計データと異なる問題が発生します。 現在では、その度合いを予めマスクパターンに反映する光近接効果補正ツール(OPC:Optical Proximity Correction)というものが活用されています。
*3 回折:光が障害物の背後など、一見すると幾何学的には到達できない領域に回り込んで伝わっていく現象
半導体の設計は、製品の性能や消費電力がコストに影響を与えるため、極めて重要な工程となります。用途毎に求められる特性が異なるため、適切な設計が行われなければ期待する性能を発揮できません。その為、高性能な半導体を効率的に開発するためには、精密な設計が不可欠となり、半導体の設計工程には少なくとも数年を要する様になっています。最近は半導体設計に特化した企業や半導体製造のみを請負う企業がある為に、設計と製造の橋渡しをするPDK(Process Design Kit)と呼ばれる製造プロセスに最適化された設計ルールやシミュレーションモデル、標準セル情報などが、半導体製造企業から半導体設計する企業に提供される必要が生じています。
②「マスク作成」は前号の前工程のリソグラフィで使用される、半導体の電子回路を作る重要な部材、フォトマスクを作る工程です。基本的にはガラスや石英素材でできた透明なプレートの上に、設計された回路パターンを薄い金属膜(一般的にはクロム)で描きます。描画装置にはレーザーを用いるレーザー描画装置と電子線を用いる電子ビーム露光装置があり、これらは半導体製造装置の中でも最も高価な装置の1つとなります。一般に前者はスループットに優れ、後者は解像度で勝るものとなります。その後現像、洗浄、乾燥、ポストベーク、というパターン現像の工程が行なわれ、続くエッチング工程によって、不要な遮光膜が取り除かれて、洗浄と乾燥が行なわれ、パターン形成工程は完了します。その後は検査がおこなわれ、発見された欠陥はかなりのものが欠陥修正装置で修正が可能になっています。
半導体製造工程ではウエハ上を移動しながら順次露光され、碁盤目状に多数の素子のパターンが転写されます。半導体の大きさに応じて、2×2や3×3個分のパターンをマスク上に描画しておき、1回の露光で転写できる数を増やすことで生産性を向上させることも行なわれます。露光は1990年ごろまでは1:1サイズでしたが、回路の微細化によって直線寸法で4~5倍の大きさで作られたフォトマスクで縮小露光されるものが現れました。先端の半導体製造現場ではこれらはレチクルと呼ばれ等倍のフォトマスクとは区別されます。この様に、フォトマスクの製造技術も進化し続けており、高解像度のリソグラフィ技術などが開発されています。アジア太平洋地域には、台湾、韓国、日本などの半導体製造国があり、これらの国々の半導体生産を支援する事により、日本は世界のフォトマスク市場上位を占めています。
③「ウエハ製造」は、薄い円盤状の板の製造であり、その材料の約9割はシリコンウエハとなっています。マスク作成同様に、台湾、韓国、日本の半導体製造を支援する日本のウエハ製造企業が大きなシェアを占めており、重要な役割を担っている分野となります。その製造工程は図3の様になっています。

溶解は、金属不純物の濃度数がppb以下(1ppb=10億分の1)に高純度化された多結晶シリコンを、ホウ酸(B)やリン(P)とともに石英ルツボに入れて、約1420℃で溶かします。
インゴット製造は、ルツボ内で融解したシリコンの液面に種結晶シリコン棒をつけ、回転させながら引き上げると、種結晶と同じ原子配列をした単結晶インゴットが完成します。
切断(スライシング)は、単結晶インゴットを直径が均一になるように外周研削します。その後、内周刃切断機もしくはワイヤーソーを用いて厚さ1mm程度にスライスします。
粗研磨(ラッピング)は、厚みバラつきや発生した歪み・キズを修正する為に、ウエハ両面を平行になるように整えながら、所定の厚さに仕上げる粗研磨(ラッピング)していきます。
洗浄・エッチングは粗研磨で修正できないレベルの、ウエハ表面の微細な歪やキズを取り除く為化学的なエッチングを行います。また、これまでの製造工程で付着した研磨剤や不純物、パーティクル*4なども除去します。
*4 パーティクル:製造プロセスにおいて悪影響を及ぼす主に数百~数十nmレベルの微粒子を指す
研磨(ポリッシング)は、ウエハ表面の凹凸をなくし、平坦度の高い鏡面仕上げを行うため、平坦化装置(CMP)を用いて、ウエハ表面を極微細粒子によって研磨し、キズや凹凸、不純物などを取り除きつつ、平坦性を向上させて鏡面仕上げしてポリッシュトウエハを作ります。
洗浄・検査は、加工が終了したウエハ上の付着異物や汚れなどを落とすために、バッチ洗浄装置や枚葉洗浄装置を使用して、物理的・化学的に洗浄し、ウエハ表面に付着しているパーティクルや汚れ・キズなどの欠陥や平坦度などを、目視検査や検査機器によって検査します。また、金属・有機汚染も半導体の性能に影響を与えるので、結晶方位や抵抗率などの特性検査も行われます。
シリコンウエハの直径は、1980年代に使用されていた150mmから、2000年代には300mmと大型化が進んでおり、450mmのシリコンウエハの使用も検討されています。これは、1枚のウエハ上で形成できる半導体チップ数を増やしてコストダウンするのはもちろん、性能向上に伴うチップサイズ大型化への対応といった理由もあります。ウエハの大口径化は、生産装置の入替も伴う大きな変更となるので、新しい工場を一から作る事になるだけでなく、様々な生産技術革新も必要となってきます。
ここまでの4回で半導体とはどの様なもので、どう使われているか、またそれはどの様にして製造されているかを説明してきました。次回からはこれまでの半導体の歩みを、日本の半導体企業のポジションを含めて見て行きたいと思います。
【プロフィール】
桑原経営戦略研究所 桑原 靖
1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。
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