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「何を創る、日本の半導体企業」 

半導体と呼ばれる製品②

連載 2025-05-23

 桑原経営戦略研究所 桑原 靖

 今回は、皆さんが一般的に半導体としてイメージしているであろうIC(Integrated Circuit:集積回路)製品について、その種類がどの様な役割をしていて、どの様な製品に使用されているのかと言った事を見て行きたいと思います。前回でも触れました通り、IC製品は半導体製品市場の85%前後を占める製品群となっており、もう少し細分化して、アナログ(Analog)マイクロ(Micro)ロジック(Logic)メモリ(Memory)で話を進めて行きたいと考えます。


 先ずは、その中でも馴染み深いであろう「メモリ」からスタートしましょう。「メモリ」はその名前の通り、データ等の記憶をする半導体で、スマートフォン(写真・動画・音楽・アプリ等)やパソコン(データ・資料等)の保存には不可欠な製品です。1980年代後半から1990年前半といった時代に、日本の半導体企業が得意とした半導体で、電気的にデータを保持する製品となります。磁気等の他の記憶装置を搭載する必要がないため小型軽量化が容易で、低消費電力で、且つ衝撃対策も必要とならないので、特にスマートフォンやウェアラブル端末といった小型電子機器では必要不可欠な製品です。更には、データの書き込みや書き換え、データ消去は電気回路の信号で行うため、高速動作が可能となっています。

 こんな「メモリ」にもいくつかの種類があります。よく耳にする製品としては「DRAM(Dynamic Random Access Memory)」があります。これは電源が切れてしまうとデータが失われてしまうタイプで、もう一つの「SRAM(Static Random Access Memory)」と共に揮発性メモリと言われるものです。DRAMはコンピューターのメインメモリやデジタル機器の作業用データ保持に用いられます。この為、電源供給している間も絶えず電荷が失われない様に、作動時には「リフレッシュ(データ再書込み)」と呼ばれる動作を定期的にやっています。半導体メモリの中では比較的安価であるため、広く普及しているもので、異なるメーカーであっても高い互換性を持つ製品です。

 SRAMはこのリフレッシュがいらない半導体で、いくつかの構造が存在しますが、代表的なものはフリップフロップ回路(順序回路の一種で、電源が供給されている間は0または1の状態を維持)を搭載したもので、電源が供給されている間はデータ保持し続けることのできるメモリとなります。SRAMはリフレッシュの必要がないためDRAMと比べて高速かつ高効率ですが、回路機構が煩雑になるため高集積化が難しく、記憶容量あたりの単価が高くなります。SRAMはCPU(Central Processing Unit)のキャッシュメモリ(CPUが頻繁にアクセスするデータや命令を一時的に保存する)で使われます。

 これらに対して電源を切ってもデータが失われない「メモリ」を不揮発性メモリと言います。DRAMほどではないでしょうが、比較的に良く出てくる名前はFlashメモリだと思います。FlashにはNAND Flashと呼ばれる、コスト効率がよく、データの読み書きが高速なSSD(Solid State Drive)としてパソコンの記憶装置など幅広いアプリケーションで使用されています。もう一つのNOR Flashは、高信頼性が求められるアプリケーションで広く利用されており、組み込みシステムや組み込み制御デバイスの、プログラムコード*1・ファームウェア*2・設定データなどの永続的な保存に適しています。Flashメモリはボードに実装したまま電気的にデータの書き込み・消去が行え、その速度も格段に早く、かつ寿命(1,000~10,000回)がくるまで永続的にデータ保持が可能です。

 不揮発性メモリにはこのほかにも、ゲームソフトや家電製品で使用されているFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)、マスクROM(Read Only Memory)やPROM(Programmable ROM)、OTPROM(One Time Programmable ROM)、EPROM(Erasable Programmable ROM)やEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)もありますが、この先説明が必要になった場合に改めてする事にします。

*1 プログラムコード:コンピューターなどの命令・処理を記述したもの
*2 ファームウェア:パソコン、家電製品などの電子機器に予め組み込まれているソフトウェア


 「ロジック」は高度な論理演算を実行する半導体で、パソコンや情報通信機器などで高速で順次処理をする「CPU」と、複雑な命令処理やいくつものプログラムを実行する画像処理や動画再生を得意とする「GPU(Graphics Processing Unit)」が代表的なものとなります。演算を高速かつ低消費電力で行うためには、トランジスタを微細にし、数多く集積する技術が鍵となる為、技術の研究・開発が最も必要とされる最先端製品で、前号冒頭で取上げました桁外れの投資を必要とする一因となっています。日本政府の巨額の支援とIBMの技術支援を受けて、ナノ*3 世代の試作ラインを構築しているラピダス(Rapidus)も、最先端の「ロジック」が生産できるポテンシャルを持つ事を目指しています。少し前になりますが、米国が発動した対中国半導体(半導体製造装置)の輸出規制は、これら先端ロジック及びその製造装置に対しての規制が中心となります。

*3 ナノ(nm):10⁻⁹倍(10億分の1) 0.000000001メートル

 では、なぜこれらが注目されているのでしょうか。近年はデジタル化の進展やAIの普及によって、スマートフォン、自動車、IoTに向けて多様な製品で、社会のビックデータを処理する為に必要な計算量が急増しており、CPUやGPUの処理能力の向上が求められます。たとえば、3Dグラフィックスだけでなく、AIや機械学習、データセンターなどさまざまな領域へCPUやGPUの使用は拡大し、更にディープラーニング*4やクラウドコンピューティング*5へと進化しています。

*4 ディープラーニング:対象の全体像から細部までの各々の粒度の概念を階層構造として関連させて学習する手法。
*5 クラウドコンピューティング:インターネットなどのコンピューターネットワークを経由して、コンピューターを資源としてサースの形で提供する利用形態。


 最近注目を集めているChatGPT*6などの生成AIは、計算資源が世界中からかき集められ、人間の頭脳を凌駕する膨大な計算を超高速で行う事が必要となっています。このように急速に進歩している生成AIの利用は、現在のコンピューターやスマートフォン上での対話から、いずれはロボットや自動車などの操作にまで広がると考えられます。すると、高速に計算できるロジック半導体がますます必要になります。すでに、どんなに生産しても世界のニーズを満たせず、争奪戦のような状況にありますが、今後はさらに厳しくなると考えられます。というのも、最先端のロジック半導体は限られた企業によって限られた国でつくられているからです。この状況は経済安全保障の観点からリスクが大きいと考えられており、各国がロジック半導体の安定確保に向けて超大型投資に動き出す要因になっています。

*6 ChatGPT:OpenAIが2022年に公開した人工知能(知的行動を人間に代わってコンピューターにさせる技術)で、生成AI(文字などの入力に対して、テキスト・画像などを応答として生成する)の一種

 「マイクロ」とは、電気機器を制御するために多くの機能を一つのチップに搭載した半導体で、マイコンとも呼ばれています。このマイコンは1つのチップの中にメモリやCPUといった様々な素子が組み込まれていることからワンチップマイコンと言った呼ばれ方がなされることもあります。その語源は、micro「極小の」+controller「制御装置」が合体した和製英語になります。マイクロコントローラ、MCU(マイクロコントローラユニット)、マイクロコンピューターはマイコンの正式名称になります。マイコンの何よりの魅力は「小型化」です。集積化技術の発達によって機器に求める機能を全て一つのマイコンに搭載することもでき、多機能化・高性能化が容易ということが挙げられます。また、コンピューター制御に必要な機能全てを既にオンチップしているため、回路をはじめから設計する必要がなく、マイコンの利用によって製品開発時間を大幅に短縮することが可能です。さらに言うと、現在の多くのマイコンはC言語等を用いてプログラムすることで、開発途中の動作変更にも対応することができるようになりました。

 これら魅力から、冒頭でもご紹介したように今では身の回りの電子機器のほぼ全てに搭載されるようになりました。かつて日本企業は、テレビ、ビデオといった民生機器や冷蔵庫、洗濯機といった白物家電の分野で世界をリードする製品を次々と開発し、大量に生産していました。この時期には日本企業にとってマイコンは製品の成否を握る重要な半導体でした。

 マイコンは「CPU」「メモリ」「タイマー」「周辺回路とのインターフェース」などを有します。これに対してロジック半導体は前項の通り演算機能のCPUとなります。CPUは演算機能に特化したものであり、マイコンよりもプログラムの変更が容易で、大量の演算を高速で処理する事に向いていますが、一方でCPU単体では、メモリ等の周辺機能を持つ半導体が別途必要になってきます。また、それらを繋ぐ配線もなくてはなりません。そのためマイコンは、家電は勿論、自動車、産業機器、医療機械やIoT危機に至るまで、幅広い用途で重宝され、そのニーズは依然大きなものになっています。

 「アナログ」は、光、音、圧力、温度、さらには人の心拍数の変動といった単純に数値化できない電気信号(アナログ信号)を処理するための半導体です。これらのアナログ信号をデジタル信号に変換したり、逆にデジタル信号をアナログ信号に変換します。アナログ信号は、音量、光量、温度など自然界のさまざまな現象を示す信号であり、連続的な値を持ち、時間の経過とともに変化する特性があります。「アナログ」はこれらの連続的に変化するアナログ信号をデジタル信号に変換することで、電子機器が物理的な変化を読み取り、処理し、反応することを可能にします。アナログ半導体は応用範囲が広く、テレビ等の音響機器、冷蔵庫等の白物家電、医療機器、産業機械、スマートフォン、IoT機器、自動車など、現代の生活を支える多くの電子機器や電気製品に不可欠です。異なる形式の信号を相互に変換する役割も担います。アナログ信号をデジタル信号に変えるアナログ-デジタル変換器や、逆のデジタル-アナログ変換器がその代表例です。特に、アナログ-デジタル変換器は、音声や画像などのアナログ情報をデジタルデータに変換し、コンピューターやデジタル機器での処理を可能にするために欠かせません。

 また、信号の増幅も「アナログ」の役割のひとつです。「アナログ」を使用した増幅器により、電気信号の強度を増加させることができます。この機能は、信号が長距離伝送される過程で弱まるのを防ぐためや、電子機器内での信号処理を適切に行うために不可欠です。音響機器、無線通信、センサーシステムなど幅広い用途で、物理的な現象を正確に電気信号として扱うため、小さな変化にも敏感で、高感度での動作が求められる製品です。長寿命の製品が多く、デジタル半導体に比べて技術進化が緩やかであり、比較的需要も安定しています。

 これまで半導体製品についてその種類にどんなものがあり、どんな役割をしていて、どの様な製品に使用されているのかを従来の電気的な特性とは違った視点で見て来ました。なんとなく、半導体とはどんなものかイメージ出来る様になっていればいいのですが。

【プロフィール】
桑原経営戦略研究所 桑原 靖

 1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。

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