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【マーケットアナリティクス】

天然ゴム相場の12月後半のレビューと1月前半のアウトルック

連載 2016-12-26


マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅 努

12月後半のレビュー

 12月後半のTOCOM天然ゴム先物相場(期先)は、12月16日に1㎏=291.70円まで値位置を切り上げ、2013年5月以来となる約3年7カ月ぶりの高値を更新した。上海ゴム相場の上昇地合、円安傾向が維持されたことが素直に好感された結果である。しかし、その後は上海ゴム相場が調整局面入りしたことで買い玉整理の動きが広がり、260円水準まで軟化する展開になっている。

 上海ゴム相場主導の展開が続いているが、その上海ゴム相場は12月14日の1トン=2万0,580元で当面のピークを確認した後、1万8,000元台中盤まで軟化する展開になっている。11月上旬の1万3,000~1万4,000元水準から急ピッチな上昇が続いてきたが、ここにきて漸くポジション調整の動きが活発化している。特に目新しい材料などは見当たらないが、為替市場で中国人民元相場の軟化傾向にブレーキが掛かったことで、「人民元安→中国市場のコモディティ投資拡大」の流れにもブレーキが掛かっている。鉄鉱石や石炭相場に対しても調整圧力が強くなっており、年末を前に中国系投機筋のポジション調整が活発化していることが窺える。

 東南アジアでは雨がちの天候が報告されており、ベトナムやインドネシアではコーヒー収穫作業の遅れなども報告されている。ただ、天然ゴムの集荷量には特に大きな変動は確認できず、引き続き産地主導の価格形成は見送られている。タイ中央ゴム市場におけるRSS現物相場は12月16日の取引で1㎏=80バーツ台に乗せたが、その後は上海ゴム相場の軟化と連動して76バーツ台まで反落している。価格上昇で集荷量が大きく上振れすることは回避される一方で、供給障害の発生などは見送られており、産地供給環境に対するマーケットの関心は低い。

1月前半のアウトルック

 1月上旬も上海ゴム相場の動向が注目されるが、焦点となるのは人民元安の持続性になるだろう。人民元相場の下落が続いている限りにおいては、購買力低下に対する防衛行動から実物資産への資金流入が促されやすい投資環境が続くことになる。足元では人民元安に一定のブレーキが掛かっているが、11月末の中国・外貨準備高は前月比691億ドル減の3兆0,515億ドルとなり、資本流出状態が維持されていることが確認されている。年明け後に発表される年末の外貨準備高は3兆ドルの大台を割り込んでいる可能性もあり、輸出不振や外国企業の対中投資の落ち込みなどを背景とした通貨安プレッシャーが維持されれば、需給動向に関係なく人民元建ての上海ゴム相場が上昇を再開し、東京ゴム相場を改めて押し上げる可能性も十分にある。

 一方、1月20日にはトランプ次期大統領の就任式が控えているため、11月の米大統領選後の急ピッチな米金利上昇とドル高圧力に対する修正圧力が強まると、中国サイドの要因と関係なく「人民元相場の反発→中国投機筋のコモディティ市場からの資金引き揚げ」といったシナリオも想定しておく必要がある。基本的には上振れリスクの高い相場環境を想定しているが、中国投機筋の動向に一喜一憂する投資環境が2017年まで持ち越される可能性が高い。

 供給サイドでは、タイ、インドネシア、マレーシアの3カ国による8万5,000トンの協調減産が終了することになる。16年は年間を通じて70万トンの供給削減が政策的に実施されたが、現行価格では需給調整の必要性は乏しく、年末を以って政策調整は終了される見通し。

 需要サイドでは、中国の小型車減税の延長方針が決まった。今年は、小型車取得税の減税によって1~11月期の自動車販売は前年同期比14.1%増と高い伸び率を記録した。6カ月連続で二けたの伸び率になっていることが、天然ゴムの需要も下支えしている。年末で小型車減税は終了予定になっていたが、17年末まで1年間の延長が決まったことはポジティブである。

 投機要因に支配された上海ゴム相場主導の展開が続いているだけに、2017年も急騰・急落リスクを抱えた相場環境が持ち越され易い。ただ、人民元安による人民元の購買力低下に中国系投機筋が強い警戒感を有している限りにおいては、需給動向に関係なく値上がりする可能性が維持されることになる。12月は300円の大台回復を前に調整局面入りしたが、1月下旬には東南アジアでウインタリング(落葉期)が始まることもあり、ゴム相場のピークアウト判断には慎重姿勢が求められる。

【レンジ】
12月後半の取引レンジ 258.90~291.70円
1月後半の予想レンジ 240.00~290.00円

【プロフィール】
小菅 努(こすげ つとむ) マーケットエッジ株式会社 代表取締役

 1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。コモディティ市場や金融市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)

http://www.marketedge.co.jp/
https://twitter.com/kosuge_tsutomu

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