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【マーケットアナリティクス】

天然ゴム相場の10月前半のレビューと10月後半のアウトルック

連載 2016-10-14


マーケットエッジ株式会社代表取締役 小菅努

10月前半のレビュー

 10月前半のTOCOM天然ゴム先物相場(期先)は、1㎏=163.00円での取引開始後、10月11日の183.00円まで急伸する展開になった。1)石油輸出国機構(OPEC)が生産調整で合意したことで原油価格が急伸したこと、2)米国の早期利上げ観測で円安(ドル高)が進行したことが好感された結果である。ただ、月央にかけては原油高と円安が一服したことで調整売りが脹らみ、170円台後半まで上げ幅を削る展開になっている。

 10月前半のゴム相場は5月12日以来の高値を更新する急伸地合になったが、これは専ら原油高・円安という外部環境が強気に傾いたことを反映した値動きである。原油高で合成ゴム価格上昇の思惑、円安で円建て調達コストの上昇圧力が、それぞれ東京ゴム相場を押し上げた。中国が国慶節の連休入りで薄商いとなったことも、相場の急騰を促す要因になった模様だ。

 もっとも、需給環境には特に目立った混乱などは見当たらない状況が続いている。ラニーニャ現象の発生でタイでは洪水被害の報告が増えているが、中央ゴム市場の集荷量などは総じて安定している。産地現物相場も、東京ゴム相場の急伸につられて上昇する場面が見られたが、東京市場の軟化後は素直に連れ安しており、専ら消費地相場主導の価格形成が続いていることが確認できる。イスラム系武装勢力がテロを計画中だったことが発覚するなど地政学的リスクには要注意も、ここ最近の上昇相場と産地需給環境は殆ど関係がない。

 実際に、10月前半に急伸地合を形成したのは専ら期先限月であり、現物需給に直結した期近限月の上昇幅は限定されている。当先の鞘バランスは逆サヤ(期近高・期先安)から順サヤ(期近安・期先高)に転換しており、期先限月に対して集中的に投機買いが膨らんだことが確認できる。

10月後半のアウトルック

 原油や円相場といった外部環境に強く依存する相場環境になっている以上、原油高と円安の持続力が問われることになる。改めてOPECの政策期待で原油高、米国の早期利上げ警戒感で円安(ドル高)が進行すれば、再び期先限月を中心に投機買いが膨らむリスクは否定できない。順サヤ化でも期先限月の上昇にブレーキを掛けることに失敗している以上、引き続き原油高と円安の持続力が注目されることになる。

 しかし1円の円安で円建てゴム相場を押し上げる力は、現在のオファー相場の水準では1㎏=1.7円程度であり、10月上旬の急伸地合についてはオーバーシュート状態との評価が否めない。原油価格の急伸についても、実際には合成ゴムから天然ゴムへの需要シフトが直ちに発生する訳ではなく、過熱感が強い。当限が上昇を拒否し続けていることは、投機色の強い急伸地合になっていることを強く示唆しており、こうした上昇相場の持続性については懐疑的にみている。

 当然に産地で大規模な洪水被害などが発生すれば、今度は期近限月主導で本格的な上昇相場が形成される可能性も残されている。日本の気象庁は最新のエルニーニョ監視速報で、冬にかけてラニーニャ現象が続く可能性を60%と推計しており、産地供給環境の悪化がもたらす期近主導の上昇に対しては注意が必要である。ただ、現段階ではあくまでもゴム相場上昇シナリオの一つに留まっており、現実の供給障害が発生しない中で期先180円水準の値位置を正当化できるのかは強い疑問を有している。

 10月13日に発表された9月の中国貿易収支で輸出が前年同月比10.0%減と大きく落ち込んだことは、中国の景気回復ペースが鈍化している可能性を強く示唆している。貿易統計はブレが大きいために一時的な現象の可能性もあるが、同国の資源需要見通しには強い不透明感が発生している。天然ゴムと同様に中国経済への依存度が高い非鉄金属相場は急落しており、ゴム相場の相対的な割高感が目立つ状況になっている。

 10月下旬も原油と円相場の動向に強く依存することになるが、このまま原油高・円安に歯止めを掛けることができるのであれば、需給環境・見通しとの乖離が目立つだけに、徐々に上値の重さが再確認される方向でみている。早期に現行価格を正当化するような供給障害が発生しなければ、現行価格を維持するのは困難だろう。割高感・過熱感是正の方向性をメインシナリオとしたい。ただし、期先限月では依然として仕掛け的な売買が目立つ状況にあり、更に原油高・円安が進行するような状況になると、改めて投機買い主導で一段高を試すリスクも残されることになる。外部環境次第のボラティリティの高い相場展開が続き易く、大きめの値幅を想定しておきたい。

【レンジ】
10月前半の取引レンジ 162.60~183.00円
10月後半の予想レンジ 165.00~190.00円

【プロフィール】
小菅 努(こすげ つとむ) マーケットエッジ株式会社 代表取締役

 1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。コモディティ市場や金融市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)

http://www.marketedge.co.jp/
https://twitter.com/kosuge_tsutomu

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