連載コラム「白耳義通信」24
「ベルギーのテニス選手」
連載 2018-09-13
鍵盤楽器奏者 末次 克史
テニスの大坂なおみ選手が全米オープンテニスで日本人選手として初めて優勝した。後味の悪い決勝となったが、ここは素直に大坂選手の優勝を喜びたい。余談だがセレナ・ウィリアムズはエナンと戦った2003年の全仏オープン準決勝と、クレイシュテルスと戦った2009年の全米オープン準決勝でそれぞれ騒動になっている。今月はウィリアムズ姉妹と共にWTAを盛り上げ、ベルギーに一時代を築いたこの二人のテニス選手について振り返ってみたい。
ベルギーに来た頃、時を同じく活躍し始めたのがジュスティン・エナン Justine Henin とキム・クレイシュテルス Kim Clijsters の二人。それまでにもドミニック・モナミ Dominique Monami やサビーヌ・アッペルマンス Sabine Allemans といった選手が活躍していたものの、グランドスラム大会優勝には手が届かなかった。そこでベルギー・テニス連盟が本腰を入れて選手育成を始め頭角を現したのが、前述の二人である。しかもベルギーを象徴するように南と北からそれぞれ一人ずつスターが生まれたというのも不思議なめぐり合わせと言えるだろう。
先に四大大会を制したのはエナンで、2003年全仏オープンのことである。この時はクレイシュテルスとの同国対決ということで、前国王アルベール二世も観戦。表彰式にもプレゼンターとして登場している。ただ先にナンバーワンの座へついたのはクレイシュテルス。同年8月にベルギー人として初めて頂点に上り詰めた。しかしエナンも負けておらず、同じく8月に行われた全米オープンでまたしてもクレイシュテルスとの対決を制し、10月には遂にナンバーワンに君臨。クレイシュテルスの怪我も重なりエナン時代が到来。
その後クレイシュテルスは2007年に引退。エナンも後を追うように世界1位のまま2008年に引退。しかしクレイシュテルが2009年に復帰し全米オープンで優勝したことに刺激を受けてか、エナンも2010年に復帰している。その後エナンは2011年に、クレイシュテルは2012年に再引退し、ここにベルギー旋風の終止符が打たれる。
その後全英ジュニアと全米ジュニアに優勝したクリステン・フリプケンス Kristen Flipkens やヤニナ・ウィックマイヤー Yanina Wickmayer など有望な若手が登場したものの二人の活躍までには至っていない。やはりエナンにとってクレイシュテルス、クレイシュテルスにとってエナンという強烈なライバルがいたからこそ、あれだけの活躍を残せたのだろう。
現在二人とも自身のテニスアカデミーで後進の育成に当たっている。数年後、二人の門を叩いた選手がライバルとして、また大坂選手とグランドスラムの決勝で相対することを夢見たい。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
-
連載コラム「白耳義通信」51
「バーチャルツアーの時代へ」
連載 2020-12-18
-
連載コラム「白耳義通信」50
「聖ニコラ、テレビ初インタビュー!」
連載 2020-11-18
-
連載コラム「白耳義通信」49
「五年目に突入」
連載 2020-10-16
-
連載コラム「白耳義通信」48
「アントワープ五輪から100年」
連載 2020-09-17
-
連載コラム「白耳義通信」47
「レジ袋有料化問題」
連載 2020-08-17
-
連載コラム「白耳義通信」46
「裁き」
連載 2020-07-13
-
連載コラム「白耳義通信」45
「人種差別」
連載 2020-06-17
-
連載コラム「白耳義通信」44
「コロナがくれたもの」
連載 2020-05-19
-
連載コラム「白耳義通信」43
「いつもと違う春」
連載 2020-04-15