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【特集】ゴム企業とスポーツ

藤倉コンポジット、ゴルフクラブ用カーボンシャフトー世界の先端を走るシャフトメーカーが目指すもの

ラバーインダストリー 2023-06-28

 ゴルフクラブの性能を左右する重要なパーツの一つにシャフトがある。現在、多くのクラブに使われているカーボンシャフトは、軽量で反発力が高いため、スイングスピードの向上とそれに伴う飛距離アップに繋がる一方で、商品を作り上げるには非常に高い技術や精度が求められる。そのカーボンシャフトで、世界の先端を走るのが藤倉コンポジット。1973年の事業開始から今年で50周年を迎えたカーボンシャフト事業で、さらなる性能進化、世界最大のゴルフ用品市場である米国での拡販等を見据えている。

事業開始から今年で50周年、世界の先端を走るカーボンシャフトメーカーに

 藤倉コンポジットがカーボンシャフト事業を始めたのは1973年。三代目社長で、当時の会長だった松本重男氏が、米国で見たカーボンシャフトの自社生産を目指したことに始まる。

 カーボンシャフトは、カーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸したプリプレグシートをマンドレルと呼ばれる鉄の棒に巻き付け、加熱により固めて製造する。シートの厚みは薄いものではわずか0.05ミリ。非常に薄く、かつエポキシ樹脂によって粘着性の高まったシートを、何層もマンドレルに均一に巻き付けるのは非常に難しい。今でも職人の技、感覚が光る領域だ。「職人の感覚による部分が大きく、機械化が容易でない。当社に限らず、現状では皺の寄りにくいシートを巻く工程しか機械化できていない。日本の職人の技術と精度は非常に高く、カーボンシャフトの製造技術は日本が世界をリードしている」(渡邊貴史執行役員・ACP事業部事業部長)。同社は原町工場(福島県南相馬市)で生産している。

渡邊貴史執行役員・ACP事業部事業部長

過去には祖業で使用した素材を搭載した製品も

 カーボンシャフトは、軽量化や反発性能が得られると共に、強度が求められる。スイングの際にしなり、そこからの形状復元力により加速したゴルフヘッドからの衝撃力がゴルフボールに伝わり、飛距離に繋がる。反発力や強度には巻き付けるカーボン繊維の向きや素材の組み合わせが重要で、同社がゴルフシャフトに初めて採用し大ヒットした素材の1つに、祖業であるゴム製品に採用していた「三軸織物」がある。あらゆる方向から加わる応力に対し、高い反発力を持った三軸織物構造のカーボン繊維シートを用いたシャフトは、形状復元力が生み出す反発力性能に優れ、スイングスピードと打ち出されたボールの初速が増す。

三軸織物


 1990年代に発売した「フィットオン」ブランドのうち、三軸織物が採用された商品「スピーダー」は、その性能の高さから90年代後半から2000年代に爆発的なヒット商品となった。(※2012年以降のスピーダーシリーズには三軸織物は入っていない)また、同社は様々なカーボンメーカーのシートを入手でき、多彩に組み合わせることができるのも強みの一つ。「求められる性能やモデルによって、様々な組み合わせを用いている。名立たるカーボンメーカーそれぞれからプリプレグシートを調達できるのは、独立系である当社のメリットだ」(同)。

「スピーダー」シリーズ最新作 「SPEEDER NX GREEN」

感覚を数値化することで一人ひとりにフィットするシャフトを

 リシャフト(購入時に装着されていたシャフトを交換する)市場で実績を積み上げてきたことにより、カスタムクラブを含めたOEM市場での採用比率も高い同社が追い求めるのが、さらなる性能の向上と、あらゆるスイングタイプのユーザーに、よりフィットしたシャフトを提供する事による市場の拡大だ。

 シャフトフィッティングの精度をより高めるために同社が進めるのが「シャフト挙動の数値化」。専用マーカーを装着したシャフトをプレーヤーがスイングし、モーションキャプチャ技術により動作解析することで、視覚的、数値的に検証していく。「スイングタイプ別にシャフトがどのように動き、その結果としてヘッド挙動やボール弾道にどんな影響を与えるのか。この部分を数値で表すことは、まだできていなかった。シャフト選定については、フィッターの知識や感覚に頼る部分が多くあったが、インパクトまでの過程をより論理的に解明することで、ユーザーに共通のガイドラインを提供し、最も有益なシャフト選びができるようにしたい。3年で成し遂げたいと考えている」(同)。シャフトメーカーとして全国6カ所に直営店を持っていることに加え、早々にモーションキャプチャを導入した米国の販売会社では多くのプレーヤーをフィッティングした経験がある。プロ・アマ含めて蓄積してきたデータのバリエーションは、他社に比べ圧倒的に多く、そのデータにAI技術も活用することで、フィッティング精度をさらに高めていく考えだ。

 さらなる性能向上に向けてより軽量化を追求していく。「飛距離を追求するユーザーにとって、シャフト軽量化を望むトレンドは存在していている。現状、同社の最軽量モデルは29.5グラムだが、素材の進化とともに10グラム台の達成を視野にチェレンジしていく。軽量化の技術力が高まることで、より特徴的な性能を付加することが容易になると考えている」(同)。

世界の先端を走るカーボンシャフトメーカーが狙うのは世界最大の市場

 市場動向として、世界最大のゴルフ用品マーケットである米国での拡販を進めていく上でリシャフト市場の開拓余地はまだまだ大きいと捉えている。「リシャフト市場は、日本と韓国を合わせた規模と米国が同程度だ。リシャフトのシェアが高い両国に比べ、米国はまだまだ低く、これから伸びる余地がある。米国ではこれまで、わざわざ純正シャフトを交換する市場トレンドが少なく、リシャフトのニーズがそれほど高くなかったが、この5年ほどで様子が変わってきた。自分に合ったシャフト選びがされるようになり、当社の米国モデル『VENTUS』中心に人気も高まっている。米国販社が西海岸に立地している関係で、これまで米国の商圏は西部が中心だった。開拓余地のある東部にも販売エリアを広げていきたい」(同)。

愛されるカーボンシャフトメーカーとして
競技の未来を考える

 ゴルフ人気の裾野を広げる活動として、ジュニア育成にも力を入れている。カーボンシャフト事業が今年で50周年を迎えるのを機に、原町工場近くの鹿島カントリー俱楽部(福島県)で「Fujikura東北ジュニアカップ」と称した大会を4月に開催した。「東北地方の地域創生も含め、ゴルフの普及活動を積極的に進めている。また、ゴルフの入門者向け競技であるスナッグゴルフ体験会も開催し、ゴルフの楽しさを知ってもらおうと考えている。 “大人になっても続けたい競技”としてゴルフを選んでもらえるようにしたい」(同)という。

「Fujikura東北ジュニアカップ」のようす


 世界中に愛されるシャフトメーカーとして、より良い製品の性能を追求するだけでなく、競技自体の普及にも貢献する同社の動向からは今後も目を離せない。

(ラバーインダストリー2023年5月号に掲載)

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