PAGE TOP

【特集】メディカルとエラストマー

日本ゼオン、単層CNT「ZEONANO SG101」を医療分野へ展開

ラバーインダストリー 2021-06-02

パーキンソン病や本態性振戦の症状軽減に寄与

振戦を軽減するCNT応用デバイスイメージ


 開発した高導電性シリコーンゴムマスターバッチは,RD Abbottとの間でゴム製のイヤホン型医療機器という,さらなる用途展開が進められている。「体の表面近くには様々な神経が通っている。今回は手首の神経に電気信号を与えることでパーキンソン病や本態性振戦の症状軽減を図ったが,同様に他の神経に電気信号を与え,制御しようとする試みがある」同)という。注目するのが耳だ。内耳付近も体表面に神経が通っており,その神経に対し電気信号を与えるイヤホン型医療機器によるセラピーが検討されている。「内耳付近には心臓の筋肉を動かすのに関わる神経が通っているため,イヤホン型医療機器を装着し電気信号を送ることでペースメーカーの代替としての役割を果たすという開発も進んでいる」(同)。

 パーキンソン病や本態性振戦の治療の一部,ペースメーカーの装着,電池交換には外科手術が必要になる。「侵襲である外科手術はどうしても様々なリスクを伴うが,その点高導電性シリコーンゴムマスターバッチが活用されている腕時計形態の医療機器,イヤホン型医療機器は非侵襲のため,リスクが少ない」(同)。患者にとってより健康な活動,QOL(Quality of Life)の向上に資する製品として,高導電性シリコーンゴムマスターバッチにかかる医療分野からの期待は大きい。

ZEONANO SG101自体の特長を活かした展開も視野

 日本ゼオンでは,単層カーボンナノチューブであるZEONANO SG101自体が持つ①電気を通すかつ柔軟②熱を通すかつ柔軟③光(電磁波)を吸収,反射する④強度を高める(繊維補強効果)という特長を活かした展開も進めている。中でも①,②,③の特長は,医療業界で注目されている技術に繋がる。

 電気を通すかつ柔軟という特長は,ZEONANO SG101の含有量によって展開が様々だ。ZEONANO SG101の含有量を増やすとウェアラブル電極や人工筋肉などアクチュエーターに,一方含有量を少なくするとセンサとして活用できる。「ある程度の含有量にし導電性を付与するとウェアラブル電極やアクチュエーターとして活用できる。一方,投入するZEONANO SG101を調整し,添加量を非常に少なくすると,ゴムを変形した際に抵抗値を変化させるという性質を付与でき,その性質を活かしセンサとして展開できると考えている。ロボットなど多くのセンサが搭載されるデバイスへの展開を期待したい」(同)。

 一方,熱を通すかつ柔軟という特長は,面状発熱体などに活かす。一般的に電気で物を温める場合は,ニクロム線(ニッケルとクロムを中心とした合金を用いた線で電熱線としてよく用いられる)などに電気を通すが,同様の原理を用いZEONANO SG101を混ぜたゴムシートに電気を通し,その抵抗を利用して発熱させる考え方だ。「医療用ではホットセラピーといって,例えばアイマスクのようなもので目を温める機器があるが,そこに使用される面状発熱体としての検討も進んでいる」(同)。

 光,電磁波は含有量を増やすと遮蔽でき,減らすと吸収できる。電磁波は人体に悪影響を及ぼすとされ,コンピュータなど電子機器の誤作動にも繋がる「。医療機器では電磁波対策が広く求められており,それに加えIoTや5G,様々なセンシングにおいては電磁波をいかに遮蔽するかがポイントになる。医療用途でもロボティクスがどんどん拡がりをみせており,電磁波の遮蔽,吸収はキーワードになっていくと考えている」(同)。

 新たな用途展開の中でも,電磁波遮蔽用途と人工筋肉は5年後を見据え製品化に繋げていきたい考えだ。加えて,導電性カーボンの代替としてZEONANO SG101を使う電池用途も視野に入れる。電池用途については「3年以内には事業化したいと考えている」(同)。

 いずれの用途もコストが大きなポイントになる。「ZEONANO SG101はコストが決して低くなく,コスト低減は永続的なテーマとして取り組んでいる。コストが下がれば採用される分野も少なくない」(同)。

 新たな分野となった医療機器で得た知見を活かし,ZEONANO SG101のさらなる用途展開を進める日本ゼオン。ZEONANO SG101の拡がりに注目が集まっている。

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物