【素材の先端】
三井化学のABSORTOMER、従来のポリオレフィン系材料にない応力吸収性、応力緩和性を有す
原材料 2019-03-12
三井化学のABSORTOMER(アブソートマー)は、開発から10年、製品名が決まって約3年というまだ新しい素材だ。名は、ABSORB(吸収する)とELASTOMER(エラストマー)から同社が生み出した。市場の認知度が十分に進んでいるとは言い難いが、その独特な特性から多くの分野で化ける可能性を秘めている。
ABSORTOMERは、ナノレベルで分子構造を最適化したα-オレフィン共重合体。同社が長年培ってきた重合触媒技術を活かした。
特徴は、従来のポリオレフィン系材料にない応力吸収性(高tanδ)、応力緩和性などを有している点。振動や変形などの力が加わると、粘性的な性質が熱エネルギーに変換し、吸収・分散する。また、材料に一定の荷重を与え保持すると、時間の経過と共に荷重が低下し、反発力も低くなる。
温度依存性も高い。低温時は硬く形状を保持するが、温めるとしなやかな感触に変化する。これまでの素材にはない独特な感触だ。
これら特性を生かした用途展開は、決して順風満帆に進んでいるわけではない。他の素材を代替するために開発したわけではなく、類似品のない唯一無二の存在であることが、かえって用途展開を難しくしている。現状はまさに生みの苦しみの段階と言える。
ただ、当初想定していなかったところから徐々に用途展開が進み始めた。
幅広い分野に用途展開が進み始める
2017年10月、家庭用品を手掛けるレックが発売した「耳ガードマスク」のひも部分に採用された。ABSORTOMERが持つ、力を低減させる応力緩和性、体温によってしなやかな感触に変化する特性が生きた。マスクを着けた時に耳が痛くなることのない柔らかな着け心地と、時間が経つごとに顔になじむ新感覚のフィット感を両立させた。
ファッション業界にも拡がりそうだ。18年7月5日から8日まで開催された「echo」展。そこで発表された、暗闇の中で空間を知覚する「エコーウェア」に採用された。「エコーウェア」は、ライゾマティクスリサーチとファッションブランドのアンリアレイジが開発した暗闇でも空間を認識できるセンサを内蔵した服。メッシュ状に加工したABSORTOMERを布で挟んだ生地を使用している。ここでも生きたのが、応力緩和性と体温によってしなやかな感触に変化する特性。体温で徐々に身体の曲線に追従、フィットしていくことで、空間を認識する際に発せられる振動を感じることができる。
用途の可能性は幅広い。他素材に混ぜることで、特性を付与する改質用途も期待が大きい。例えばゴムで言えば、EPDMなど合成ゴムとの相性が良く、制振材などへ使用できるという。成形に際しても特殊な成形機を必要としない点が強みだ。また、オイルを使用していないため、肌に触れる用途にも使えるかもしれない。他にない独特な特性は、人々の生活、社会すら変える可能性を秘めている。
用途展開を進めるため、展示会にも積極的に出展している。国内だけでなく、18年4月にはイタリア・ミラノで開催された世界最大規模のデザイン展示会「ミラノサローネ(ミラノデザインウィーク2018)」に出展。高い評価を得た。
もちろん、用途展開以外の課題がないわけではない。三井化学はABSORTOMERをペレット状で販売している。そのため、家庭用品やファッション用途に使用する場合、シート状やメッシュ状、発泡体などに加工する必要があるが、三井化学は現状で、そうした加工を自社で行っていない。それができる企業と手を組むか、自社で加工を始めるか、それが拡販へのカギにもなる。例えば、メッシュ状のABSORTOMERを布で挟んで生地を作成した「エコーウェア」は、明和グラビアが同社のモールドプリント技術でメッシュ状に加工した。ABSORTOMERのマーケティング責任者の村上正治モビリティ事業本部エラストマー事業部新製品開発グループリーダーは「中間加工を行ってもらえる企業やテクノロジーをどうつなげるか、もちろん自社で行うことも視野に入れる」と、その重要性を話す。
現在は、結晶性がある硬いグレードと柔らかいグレードの2グレードを展開。量産プラントですでに生産しており、当面は1,000トンの販売が目標だ。そのためには規模の大きな用途をいかに開拓するかがカギになる。
「ABSORTOMERで世の中を変えるものを作っていきたい。ただ単純に面白い素材ではなく、世の役に立つものにしたい。そのためにも、特性を論理的に突き詰めていく」(村上氏)と先を見据える。
サンプル提供も随時対応している。これまで世界になかった新しい素材。そこには、多くの可能性が広がっている。まずサンプルを取り寄せること、そこが未知との出会い、新しい発見、閃きに繋がることは間違いないだろう。
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