日本発の価格発信、市場強化を期待
天然ゴム市場のゆくえ-JPXとTOCOMが統合へ
その他 2019-05-07
特別寄稿:マーケットエッジ株式会社代表取締役 小菅 努
日本取引所グループ(JPX)と東京商品取引所(TOCOM)は3月28日、経営統合で基本合意し、紆余曲折を辿っていた総合取引所構想は、ついに実現のめどが立った。2020年7-9月期にも総合取引所が実現する見通しになっている。
まだ細部は詰まっていないが、現時点ではTOCOMに上場する貴金属、ゴム、農産物など大半の商品先物取引をJPX傘下の大阪取引所に移管し、TOCOMは総合エネルギー取引所として原油、石油製品、将来的には電力や液化天然ガス(LNG)などを取り扱う予定になっている。天然ゴムに関しては現在、RSSとTSRがともにTOCOMに上場されているが、今後は大阪取引所で取引が行われることになる。
世界では総合取引所が主流であり、例えば世界最大の取引所である米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループでは、株式、債券、為替、金属、エネルギー、農産物などあらゆる取引が一つの取引所で行われている。市場参加者(特に投資家)の視点では、金融と商品といった縦割りの区分に意味はなく、あらゆるものを横断的に取り扱う総合的な取引所の利便性が高いためだ。
過去10年で世界の商品先物の市場規模は1.8倍にまで拡大しており、生産者、需要家、投資家などを呼び込んで産業インフラとしての機能を強化している。一方、日本の商品先物市場は過去10年で3分の1の規模にまで縮小しており、一部の市場では流動性の欠如から市場機能に疑問が投げ掛けられ始めている。
このため、現状を放置し続けていくと、日本の市場参加者が他の国で取引を行い、日本の取引所が国際競争力を失う事態になりかねないとの危機感がある。本紙の読者でも、TOCOMではなくシンガポール取引所(SGX)や上海期貨交易所(SHFE)の天然ゴム価格を指標として重視し、実際に取引に参加している人も少なくないだろう。
これは他の商品についてもいえることであり、農産物ならシカゴ、貴金属と石油ならニューヨーク、非鉄金属ならロンドンなど、本来であれば国内の商品取引所が果たすべき役割を海外取引所が代替しているのが現状である。
こうした中、総合取引所がうまく機能すれば、経済規模と比較して日本の商品市場は小さいだけに、成長の余地が大きい。価格変動リスクのヘッジや投資といったニーズを国内で引き受けることも十分に可能だろう。特に海外にはない円建てで商品の指標価格を提示できる意味は極めて大きい。
外国から提示される価格を指標として受け入れるのではなく、国内から指標価格を逆に発信できる状況になれば、国内の需要家や商社などにとっても利便性が高い。天然ゴムに関しては、インドネシア産やタイ産を日本に輸入した価格が幾らになるのかではなく、日本国内の天然ゴム需給がどのような価格を適切とみているのかを発信するには、商品市場の存在が必要不可欠である。この機能をこれから国として強化していく事を考えた際に、総合取引所が必要というのが現在の議論である。
天然ゴムの分野では上海ゴムの存在感が急激に増しているが、総合取引所による日本発の価格発信、投機・ヘッジの場を提供といった市場機能の強化を期待したい。
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