鍵盤楽器奏者 末次 克史

 この夏、ベルギーではスズメバチの被害が相次いでいる。8月末にはクロイスベルゲン Kluisbergen という町で、散歩をしていた人たちなどがヨーロッパオオスズメバチに襲われ、少なくとも5人が病院へ運ばれた。

 このニュースを見て、ふと思い出した。そういえば私が生まれて初めて蜂に刺されたのも、ベルギーだった。

 もう20年ほど前の夏のことである。テラスで缶入りのアイスティーを飲んでいた私は、何かを取りに一度家の中へ入った。そして戻ってきて、何も考えずに缶に口をつけたところ、突然唇に激痛が走った。最初は何が起きたのか分からなかったのだが、上唇がみるみる腫れて、あっという間に普段の倍くらいになってしまった。

 缶の中を調べてみると、蜂が一匹入っていた。幸いスズメバチではなくアシナガバチだったが、犯人はアイスティーの中ですでに溺死していた。

 上唇がみるみる腫れてきたので、このまま放っておいて大変なことになってはいけないと思い、医者へ行くことにした。何せ蜂に刺されたのは人生で初めてだったので(笑)。ところが、すでに夜8時頃。当然、普通の診療所は閉まっている。仕方なく緊急外来へ行ったのだが、「こんなことで来るな」と言われるかと思ったら、親切に診てもらえた。

 ところで、何故アイスティーだったのか。ベルギーでは炭酸入りのアイスティーが非常に一般的で、その代表格が Lipton である。日本のアイスティーを想像して飲むと、最初はかなり驚くかもしれない。しかも紅茶の味はそれほど強くない。少し甘く、レモンの爽やかさもあり、そこにシュワッとした炭酸が加わる。私はベルギーへ来てすぐに好きになり、今では日本へ帰って普通のアイスティーを飲むと何だか物足りないので、日本ではもっぱらミルクティー派である。

 昔はアイスティーの濃縮原液まで売られていた。少し丈夫な金属製の容器に入った原液を炭酸水で割るだけで、普通にアイスティーを買うより安かった。ところが、いつの間にか私が買っていたものを見かけなくなった。すっかり店頭から姿を消したものと思い、それ以来、シロップ類が置いてある棚を注意して見ることもなくなった。

 ところが今回、この記事を書くために調べてみて驚いた。なんと今またアイスティーの濃縮原液が売られている。それも Lipton 自身が出しているという。知らなかった!

 最近の Lipton はピーチ味などにも力を入れているようだし、Fuze Tea をはじめ、果物やハーブを組み合わせたアイスティーも随分増えた。申し訳ないが、私はあまり好きではない。特にピーチ味はどうも苦手である。やはり昔からある、あの炭酸入りの Original がいい。

 あれだけ痛い目に遭ったのだから、それ以来、缶入りのアイスティーを飲むのをやめたのかというと、そんなことはない。今でも相変わらず飲んでいる。ただ最近は、缶よりペットボトル入りを買うことが多くなったので、犯人が入り込んでもすぐに見つけられる。

末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。