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連載「つたえること・つたわるもの」(75)

気の達人・西野皓三先生、躍動する〈身体知〉、〈気育〉のことば。

連載 2019-10-08

★「華輪を振って、足芯呼吸を稽古しなさい」
 私が編集担当の役員になって間もなく、『主婦の友』新年号の宣伝広告にかかわるトラブルが発生した。その当時の『主婦の友』新年号は、発行部数が139万部という、文字通り社運のかかった年末商戦だった。附録の目玉は、「家計簿」と「運勢占い」だったのだが、突然、占いの先生が「私の名前と運勢占いの文字を、新聞広告から外してほしい」と電話してきた、明日、原山役員も一緒に占いの先生に会いに行ってほしいと、副編集長のNから助けを求められた。そこで西野先生に相談すると、アドバイスはひと言。
「華輪を振って、足芯呼吸を稽古しなさい」

 「華輪」は西野流呼吸法の準備体操のひとつで、火消しの纏を振るように、ゆるめた両腕を体幹に巻きつけるように振るエクササイズ、「足芯呼吸」は足の裏(足芯)から吸い上げた息(実際には鼻で吸うのだが)を頭のてっぺん(百会のツボ)まで巡らして、その息を再び足の裏(足芯)に吐き下ろすエクササイズである。その晩は、西野先生のアドバイス通りに「華輪」と「足芯呼吸」の稽古を行うことにした。

 翌日、Nと一緒に占いの先生のお宅をおそるおそる訪ねる。新聞広告から名前と占い附録の掲載を外す件で、再考いただけませんかとNが切り出すと、あっさり「あら、私の名前も占い附録も、新聞広告に載せていいわよ」とOKが出た。強硬なダメ出しを覚悟していた私たちは、前日までと180度の変わりように驚いた。「ありがとうございます。では早速、新聞広告の方を……」と言いかけたNを、占いの先生は手で制して、「私の開運色紙を、読者に抽選でプレゼントは、どう?」と新しい提案をしてきたのである。

 このことは、相手(占いの先生)の気を変える・変えようとするのではなく、前の晩に呼吸法の稽古をした時点で、自分の気(身体知の活性)のありようが、すでに変わっていたということなのだろうか。

 「呼吸が変われば、新しい運命が拓ける」という〈ことば〉の意味が、少しわかったような気がする。

 西野皓三先生、93歳のお誕生日、初めて呼吸をした記念日、おめでとうございます。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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