「何を創る、日本の半導体企業」
市場の拡大に伴う半導体企業の投資拡大①
連載 2025-09-25
桑原経営戦略研究所 桑原 靖
第1回で半導体関連産業に日本政府は多額の支援(2021~23年度の3年間で総額3.9兆円、24年度補正予算で約1.5兆円:含むAI開発)を実施し、2030年に日本国内半導体メーカーの合計売上高15 兆円超を目指している事を話しました。その市場環境を多面的に企業名を含めた資料を経産省が作成していますので、(図1)最新のデータを使用して話を進めましょう。

経産省が2019年に作成した図1は、左に半導体市場を製品別に表記し、その需要を喚起した主要な用途も表示しています。真ん中に、その市場を支える半導体製品の主な供給メーカーをファウンドリメーカーも含めてリストアップしています。そして、右側に半導体メーカーの生産に欠かせない、開発、装置、素材の主なメーカーが表記されていますので、この図で半導体産業の主要な役割を果たしている構成を企業名も含めて確認することができます。
2024年の世界半導体市場は前年比+19.7%と、2020年からの5年間の「CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)」9.4%と比較して大きな伸長となりました。WSTSは2026年まで半導体市場が堅調な伸長(2022~26年CAGR7.3%)を続けると予想しています。これは前号でも触れたAI需要を見越したデータセンター投資に連動する形でメモリー製品やGPUなどのロジック製品が半導体市場の成長を牽引する事がその一因です。これにより、GPUの2020~24年CAGRは16.2%と半導体全体より大きな伸びとなっており、2022~26年「CAGR」も12.9%と半導体市場全体より引続き大きな伸びを続け、2020年27%であった半導体売上に占めるシェアが、2026年には38%まで拡大すると予想されています。
メモリーは2020~24年「CAGR」が8.9%と半導体市場全体より若干低い伸長となったものの、近年のデータセンター投資の恩恵を受け2022~26年には13.4%と高い成長になると考えられています。WSTSは2026年に向けて、引続きデータセンター市場を中心として電子機器への半導体搭載金額の増加に繋がる事を期待しており、AI関連で応用領域が拡がることもあり、輸入関税や中国経済の低迷等の地政学的な不透明要因は多いものの、その他の製品群と同様にプラス成長を予測しています。
半導体市場の伸長を支えているデータセンター市場と、それにより業績を伸ばしている半導体メーカーを図1の真ん中でみていきましょう。データセンター市場を牽引しているAIサーバーですが、なぜ大きな半導体需要に繋がっているか確認したいと思います。世界のサーバー出荷台数に占めるAIサーバーの比率は2023年4%程度で、2025年でも14%程度までにしか増加しないと予想されています。しかし、AIサーバーのコストは通常のサーバーの14倍になるものもあると推定され、売上ベースでは2023年で35%、2025年では69%までに成長すると予想されています。通常のサーバーではCPUがコストの約8割を占めていますが、AIサーバーでは約8割はGPUとなり、CPUの占める割合は6%程度にまで減少します。加えて、AIサーバーではMemoryの使用量も通常のサーバーに比較して増加し、DRAMでは約8倍、NANDで約3倍になると言われています。
この需要の大きな恩恵を受けて急成長しているのが、今GPUを供給して、最も注目を浴びている「NVIDIA」です。2024年には遂に「Intel」に代わって、世界半導体メーカー売上ランキングのトップに躍り出ました。現在はAIデータセンター市場で圧倒的なシェアを誇っている「NVIDIA」ですが、「Intel」や「AMD」もそのラインナップにAIデータセンター市場向け半導体を加えるべく、開発に全力で取り組んでいます。特にIntelは米国政府の助成金108億6千万ドル(約1.6兆円:\145/$)という巨額の支援受け、巻き返しを計っています。
この市場でもう一つ需要が拡大しているのがメモリーです。従来からこの市場で強みを発揮していたのが「Samsung」です。しかし、AIサーバーに求められているのは、メモリーの中でも高速データ転送、低消費電流及び低熱発生が求められるHBM(High Bandwidth Memory)で、この分野では「Samsung」はSK Hynixに遅れを取っていると言われており、「NVIDIA」でのトップシェアが危うい状況となっています。
図1の真ん中の半導体メーカーには、前号でも少し触れましたが、図2にあります通り、大きく分けて垂直統合型(IDM:Integrated Device Manufacturer)と水平分業型(ファブレス・ファウンドリ)の2つがあります。1980年代の日本企業は、NEC、日立、東芝や三菱といった総合電機メーカーによるIDMモデルで半導体産業をリードしていました。しかし、半導体が使用される製品の急激な技術革新や次々と生まれる先端製品により、半導体自体に要求される仕様も高くなり、それを実現する為の開発・製造も高度な技術が不可欠となりました。設計及び製造の技術開発、それを実現する為に必要となる設備への投資が、従来に比較して莫大なものとなってきました。加えて、半導体を使用する製品の増加に伴って、半導体需要が伸び続けており、半導体製造技術の進歩に応じた新たな大規模生産ラインを次々に立ち上げ、年々増え続ける数量を供給しなければならず、継続的に巨額の投資が必要となっています。こうなると、半導体のみならず、さまざまな業界の製造業同様に、開発や製造と言った一部の業務・作業・製造等を外部企業にアウトソーシングする潮流が見られるようになりました。こうして、開発、製造や販売など全てを1社で行う、従来の垂直統合型企業から、その一部の役割を専業企業に業務分担しながら半導体ビジネスを展開する水平分業型へとビジネスモデルの変化が見られるようになってきました。

2024年では、半導体メーカー売上ランキンキングのトップ10の内4社(Samsung・Intel・SK Hynix・Micron)がIDM、6社(NVIDIA・Qualcomm・Broadcom・AMD・Apple・MediaTek)が水平分業型(ファブレス)メーカーとなっています。これらのファブレスメーカーは、ロジック製品を中心として、ファウンドリメーカーに生産を委託しています。同一の調査会社のデータではありませんが、WSTSの2024年の半導体市場をベースにして、TrendForceのファウンドリメーカー売上とNVIDIAの粗利率で考えると、なんと市場の70%前後をロジック製品中心にしてファウンドリメーカーが担っていると考えられます。今後もロジック製品市場が他の半導体製品を上回る成長を遂げると予想されているので、ファウンドリメーカーの役割は益々大きくなると思われます。このビジネスモデルの違いによる優劣等は、もう少し深掘りしてみると半導体の面白い点だと考えます。
また、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、その他製品の分野、パワー半導体の三菱電機や東芝、アナログ半導体のRenesas等、日本の半導体メーカーの名前が散見されます。製品市場としての規模はロジックやメモリーの様に大きくはありませんが、まだまだ日本の半導体メーカーが上位のシェアを持っている製品群もあり、この分野での売上の拡大を目指す戦略もあるのではないかと考える関係者もいます。特に、ソニーのイメージセンサー事業は、2024年度業績は売上高が前年度比12%増の1兆7990億円まで拡大しており、過去最高を更新しています。ソニーセミコンダクタソリューションズは、イメージセンサー事業で2025年にシェア60%(金額ベース)を目標に進めてきましたが、2024年実績は前年同様53%に留まり、2025年は伸長するものの56%までとなる見通しとしています。2024年のCIS(CMOS Image Sensor)市場は、スマートフォン市場の回復に牽引され、前年比6.4%増の232億ドルに成長しています。この上昇傾向は今後も継続する見込みで、スマートフォンの出荷台数は90億台にまで増加すると考えられているので、2024~2030年までのCAGRは4.4%と順調に伸び、2030年には301億ドルまでに拡大すると予想されています。CIS市場は依然としてモバにイル分野が中心で、2024年の成長もこの回復がけん引した形ですが、監視カメラなどのセキュリティ分野のほか、自動車の自動運転レベルの進捗に伴い、車載分野での急速な成長も期待されています。
日本の総合電機メーカーの一部として、世界半導体メーカー売上ランキングトップ10に、5~6社が登場していた1990年前後は、世界半導体市場全体としても1,000億ドルに満たないものでした。従い、個々の市場(製品)の需要を満たす為の生産に必要な開発・生産への投資も、今とは桁違いに小さなものでした。半導体の市場が、その使用される製品のめまぐるしい変化と技術の急速な発展もあり、大きく拡大して来ており、半導体メーカーは開発・生産に巨額の投資を継続的に行わなければ生き残れない状況になっています。現在の半導体メーカーは、図1に有る通り各市場に必要とされている半導体製品分野別で異なっています。一社で大きな需要を支える生産だけでなく、複数の先端製品の仕様を満足させる製品群を開発する事も、生産及び開発、両方の投資規模が膨大となる為不可能となって来ていると思われます。
ここまで、経産省が2019年に作成した図1をベースに、半導体市場と半導体メーカーに関して説明してきました。残りました半導体産業に必要不可欠な図1の右側の部分、設計支援、製造装置、素材に関しましては次回に説明したいと考えます。
【プロフィール】
桑原経営戦略研究所 桑原 靖
1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。
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