PAGE TOP

【マーケットアナリティクス】

2025年のゴム相場を見通す―需要と供給の双方に不安あり

連載 2025-01-06

マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅 努
 2025年の天然ゴム相場は、需要不安と供給不安が綱引きする中で不安定な値動きが予想される。上下双方にブレ幅の大きい展開となる可能性を想定しておく必要がある。

 需要環境は依然として厳しい状況が見込まれる。世界経済の減速傾向は続き、特に最大市場である中国の景気動向によっては、大きなダメージが生じる可能性がある。1月に米国ではトランプ政権が誕生するが、各国との貿易戦争のリスクを抱えていることにも注意が必要だ。一方、供給サイドでは世界的な天候不順の影響を受けるか否かが大きな変数になる。

 供給環境が安定すれば、原油など他の産業用素材市況と同様に需要不安から上値の重い展開が想定される。JPX天然ゴムRSS先物相場は、改めて1キロ=300円の節目を大きく割り込む可能性もある。一方で、主要生産地の東南アジアで異常気象が深刻化すれば、2011年の高値535.70円を試す可能性もある。年間を通じて、「需要不安」と「供給不安」のバランスがどちらの方に傾くのかを探りながらの展開になろう。

 ■異常気象に支配された2024年
 2024年のゴム相場は年初の257.90円から始まり、1月11日に年間最安値の249.10円を記録した。しかし、2月19日には300円の節目を突破し、3月と6月には350円を上回る場面もみられた。8月には一時309.90円まで反落したものの、その後は再び上昇基調を強め、10月8日に年間最高値の419.70円を記録した。これは2011年4月以来の高値である。年末にかけては上げ一服感が広がったが、それでも300円台中盤から後半の値位置を維持し、2023年末の256.50円を大きく上回る価格水準となった。

 ■異常気象の有無に注目
 2025年も産地の気象環境がゴム相場の値動きに大きく影響するとみられる。近年、世界各地で異常気象が農産物の生産にダメージをもたらしている。2024年には赤道付近の気象環境が不安定化し、ブラジルで生産されるコーヒーや砂糖は干ばつ被害、西アフリカで生産されるカカオは乾燥被害、そして東南アジアで生産される天然ゴムとパーム油は豪雨被害の影響を受けた。これにより、コーヒーとココアはともに過去最高値を更新している。2025年も赤道付近の気象環境が不安定化すれば、農産物価格全体が高騰する可能性がある。2011年2月高値535.70円を試す可能性も排除できない値位置で、2025年相場はスタートする。

 一方で、2024年は中緯度帯の気象環境が安定し、トウモロコシや大豆といった穀物は記録的な豊作となった。シカゴトウモロコシ先物相場は2020年10月以来の安値を更新し、2022年4月の直近高値である1Bu=824.50セントに対して、2024年8月にはその半値以下の385.00セントまで値下がりしている。このため、2025年の東南アジアなど天然ゴム主要生産地の気象環境が安定すれば、ゴム相場も大幅な値下りが起こる可能性がある。

 世界のどこかで常に異常気象が報告されるのが常態化しているだけに、天然ゴムも豊作と不作のブレ幅が大きくなりやすい。また、天候不順が害虫や病害の発生を助長する傾向があることにも注意が必要だ。

トランプ時代の分断リスク

 一方、需要サイドは2024年に続き厳しい環境が想定される。国際通貨基金(IMF)によれば、2025年の世界経済成長率は2024年と同水準の3.2%が見込まれている。しかし、最大消費国の中国の成長率は2023年の5.2%に対して2024年が4.8%、2025年が4.5%と減速傾向が続く見通しである。

 中国政府は、3月の中国全国人民代表大会(全人代)で新たな景気対策を打ち出すことで景気を下支えする方針とみられるが、先行き不透明感は強い。

 特にトランプ米新政権は自国の製造業を保護・支援するため、中国やメキシコなどに対して追加関税を課すことを検討しており、実際に関税措置が発動されれば、自動車市場全体に大きな混乱が生じ、世界経済にとっては強力な下押し圧力になる可能性がある。

 2024年は新車用タイヤ需要の落ち込みを市販用タイヤ需要によって補う構図がみられたが、予想以上に世界経済の減速が進めば、タイヤ需要環境にさらなる打撃が生じる可能性がある。

 逆にトランプ政権が柔軟な対応をみせると、世界経済は勢いを欠くものの安定成長が見込まれる。世界の貿易の分断が回避され、各国中央銀行がインフレ対策の高金利政策を着実に解消できるソフトランディングが現実化し、ウクライナや中東の戦争が終結に向かうと、世界経済が想定以上の底固さをみせることで、産業用素材市況がサポートされる可能性が高まる。

 各国金融政策が転換期を迎えているため、ドル/円相場の値幅が大きくなりやすいことには注意が必要だ。日本銀行は2025年中も利上げを続ける見通しだが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが進まない場合には、為替要因での値下がりリスクは限定される。

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物