白耳義通信 第98回
「移動遊園地とパリへの道のり」
連載 2024-12-16
鍵盤楽器奏者 末次 克史
ユネスコの無形文化遺産に登録されている日本の代表的なものといえば、「歌舞伎」「和食」「和紙」などである。ベルギーでいえば、このコラムでも紹介したことのある「バンシュのカーニバル」や「ベルギービール」「カリヨン」などがある。その無形文化遺産へ新たにベルギーから登録されたのが「移動遊園地」kermess (fr) / kerimis (nl)。オランダ語でもフランス語でも「教会ミサ」と直訳することができるが、元々は博覧会・見本市として始まった大衆娯楽の一つである。
現在では1週間から1ヶ月掛けて、色々な街に滞在する移動遊園地としての認識の方が強いかも知れない。その昔、中世の時代にはアトラクション的要素だけでなく、教育や知識の普及の場として機能していたようだ。例えば 19世紀には、文字を読めない人にとって、見本市は最新の科学や技術の情報を得る貴重な機会であったらしい。
その中にはヴィルヘルム・レントゲン Wilhelm Röntgen のX線発見もあり、発見から数ヶ月後には見本市で紹介されたり、初期の電動ミシンや写真も見本市で展示され、多くの人の目に触れたとある。
また博覧会の解剖学博物館では、人体の蝋人形を通じて解剖学的知識が伝えられ、これらは医学講座にも使われ、教育的な役割を果たすことになる。また、アルコールの乱用が人体に与える影響や胎児の発育といった知識も提供されたりしていた。
現在は子連れ・ファミリーが楽しめる娯楽の場という要素の方が強くなってきているこの移動遊園地だが、出店者の仕事や次から次へと場所を移動する遊牧生活の困難さが評価され、今回の認定に至ったようである。
移動遊園地と共に皆が楽しみにしている冬の大イベントといえばクリスマス。そろそろクリスマスマーケットで賑わう時期になってきました。そんな街の喧騒をよそに、のんびりと移動したくなる移動手段が登場。
これまでブリュッセルからパリに行こうと思えば、タリス Thalys やユーロスター Eurostar。1時間20分で花の都パリへ到着が普通であった。通過する場所は、最高速度300km/hを出せるように、長閑な田園風景を突き進むことになるので、景色を楽しむといった風情はない。
しかしこの19日(木)からは、これまでの倍時間は掛かるけれども値段は大幅に安くなるという低価格ブランド「OUIGO」(フランス語でYesとGOが掛け合わせてある造語)。通過する駅もベルギーの南モンス Mons、フランスのオルノワ=エメリ Aulnoye-Aymeries、クレイユ Creil という、小都市を見ながらの旅になる。
しかも料金は乗車率によって変わる片道10~59ユーロの間に設定。朝、昼、夕の1日3往復。これはこの冬行くしかない?
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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