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連載コラム「白耳義通信」46

「裁き」

連載 2020-07-13

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 新型コロナウイルス(COVID-19)が騒ぎ始められて約半年。そろそろ明るい話題が伝わるかなと期待するも、連日コロナに関するニュースで埋め尽くされているベルギーです。と言っても、わたしは未だベルギーへ帰ってないのですが…。

 そのベルギーでは 7月11日より、スーパーや映画館、図書館、博物館などで、マスク着用が義務付けられました。順守しない場合は刑罰を科せられます。それから EU 内(スペイン、ポルトガルの特別な地域を除く)の渡航が可能となっています。また日本からベルギーへ渡航する場合、ベルギー入国後の自主隔離中の追跡を目的とした書式への記入が求められていますので、コロナ禍以前のように、すんなりと出入国することは、まだまだ難しい状況と思われます。

 さて日本では、東京都の新型コロナウイルス新規感染者の数が増えていることが、連日のように伝えられています。まるで東京だけが問題かのような報道がなされているように見えるのは、わたしだけでしょうか。最近ではある地方自治体の首長までが、東京を責めるような発言をされていて、少し驚いています。

 何故このようなことを書いたかと言うと、わたしも先日、知り合いから責められるようなことを言われ、ショックを受けたからです。県またぎの移動が解禁された為、母の納骨のため、最近、兄家族が東京から2泊3日で田舎へ戻って来たのですが、「東京都在住者と濃厚接触した者とは、当分会えない」と、まるで病原菌扱いをされ、愕然としました。勿論、感染していないとは言い切れないし、何かあったらという気持ちも分かるのですが、東京だけを怖れるということに対し、疑問符をつけないわけにはいきません。

 クラスターは東京以外でも発生しているし、地方だから安全とは言い切れないし、東京だから危険だとは言い切れない。しかし理屈では分かっていても、感情的にはそうもいかないのが、人間という生き物とも言えます。やはりこれは「今日の東京の感染者数は何人!」と、数字だけ繰り返される報道に接すると、冷静な判断も難しくなる為だろうと考えています。寧ろ4月の時点より、検査数は4倍に、重症患者数は一桁に激減している点に、わたしは注目したいと思います。

 このコロナ騒ぎの中、日本では芸能人の不倫騒ぎが、ワイドショーなどを賑わしていました。ベルギーでもスキャンダルを扱う、新聞、雑誌はあるものの、テレビでこのような報道をされることは、まずありません。もしされたとしても、「ああ、そうなのか。それで?」という反応で、当事者でもない人間が、あれやこれや言うことも余りありません。何人かのベルギー人に聞いてみると、「裁くのは裁判官の仕事だから」という回答でした。

 ネットで何でも発信できる時代になり、ベルギーでも SNS が炎上しないわけではありません。が、こと不倫問題に関しては、日本ほど過剰な反応はされないので、普段ワイドショーを見ない人間でも目にした今回の騒ぎには、少々ビックリしました。ベルギー人は、不倫に対して日本人より寛容ということもあるのかも知れません。

 新型コロナウイルスとの接し方は、専門家によっても意見が分かれています。どれを信じたら良いのか、何を信じたら良いのか、分からない状況でもあります。だからこそ、余計不安になってしまいます。ただ、闇雲に怖れるのも考える必要があるだろうし、侮りすぎてもいけない。判断が難しいところです。しかし、ある空気に流されて、差別したりイジメがおこったりしないことを願いたい。裁くのは裁判官だけであって欲しいものです。

 それより何より、皆が疑心暗鬼にならずに済むよう、一日でも早く、明るい見通しがたつ日がくることを願って。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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