震災から10年―ゴム・樹脂業界から見た防災、復興、被災地支援
住友ゴム工業、ゴムが揺れを吸収する制震ダンパー「MIRAIE」
ラバーインダストリー 2021-03-18
大地震から生命や住居を守ることに寄与するゴム製品が、制振や免震といった装置だ。地震の揺れをゴムが吸収することによって、被害の最小化に繋がる。住友ゴム工業の制震ダンパー「MIRAIE(ミライエ)」は、巨大地震に対し装着家屋の半壊・全壊がゼロで、その高い性能が実証されている。MIRAIEが誇る性能や選ばれる理由とは何か。
MIRAIEは、東日本大震災の翌年である2012年に販売を開始した。同社は1994年の橋梁ケーブル用ダンパー第1号物件の納入以降、ハウスメーカー向け製品やビル用ダンパーを開発・納入してきたが、「当社のゴムの技術を活かし、安心・安全を幅広く提供できないかという想いで、橋梁ケーブル用ダンパー以降に培ってきた制振技術を応用して開発に着手し、多くの施主に届ける目的で当社から直接、工務店様に販売することとした」(田中和宏ハイブリッド事業本部制振ビジネスチームリーダー)という。
MIRAIEに活かされているのが、住友ゴム工業独自の高減衰ゴムだ。「伸び縮みしながら繰り返し使用できる」というゴムの特徴を活かしながら、高いエネルギー吸収性能を持続するもので、地震時の揺れ(運動エネルギー)を瞬時に熱エネルギーに変換することで揺れを吸収する。京都大学防災研究所で行った、MIRAIE装着と非装着の木造建築物を用いた実大実験では、熊本地震の前震と本震の地震波を入力し、2回目の揺れである本震の際に地震の揺れ幅をMIRAIE非装着の建築物に比べ最大95%低減できることが実証された。高減衰ゴムそのものの性能が高いだけでなく、三角構造であることや住宅の基礎部分と強固に緊結することも地震の力を効率良く吸収することに寄与している。設置場所については、個々の住宅に合わせて計算し、最適な設置場所を提案する。
地震の揺れを吸収するゴム部は、高減衰ゴムと鉄板を層状に配置。ゴムと鉄板は、熱と圧力をかけて接合部分を化学的に強固に接着する技術である加硫接着により、強固に接着されている。そのゴム部は耐候性ゴムを外被として一体形成されており、設置環境に由来するゴムの耐久性を向上させている。促進劣化試験では、90年経過しても性能がほとんど変わらず、効果を発揮することが確認されている。
巨大地震に対し装着家屋の半壊・全壊ゼロ
MIRAIEが選ばれる理由は、その実績によるところも大きい。「発売を開始した2012年当時は制振装置に対する認知度が低く、制振装置そのものが市場に少なかった。そのため、参入した早い段階からその性能を認めてもらい、採用実績を積むことができた。その後、日本各地で大きな地震が頻発し、その際MIRAIEを装着した家屋に被害がなかったことでMIRAIEを装着する実際の効果が証明され、さらなる採用に繋がっていると考えている」(同)。同社調べによると熊本地震(最大震度7)、大阪北部地震(同6弱)、北海道胆振東部地震(同7)、新潟・山形地震(同6強)において、MIRAIEを装着した住宅の半壊・全壊はゼロだった。今年2月13日に発生した福島県沖地震(同6強)でも、「顧客にヒアリングした結果、MIRAIEを装着した住宅に被害はなかった」(同)という。
採用実績は全国で約5万棟に及び、毎年10%程度の伸びを継続している。工務店の中には、建築する住宅の全てにMIRAIEを標準装着しているところもあり、MIRAIEを装着することが住宅を販売する上での武器にもなっている。
コスト面も採用を後押しする。多雪地域を除き延べ床面積140平方メートル以下の住宅であれば、設置基数が1階のみの4カ所で済み、設置の際のコストを抑えることができる。また、90年間性能がほとんど変化なくメンテナンスフリーのため、一度設置すれば部品交換や点検などの定期的なメンテナンス費用が発生しない。
工務店、設計者等への支援体制も充実している。揺れの低減率を確認できる無料の制震効果シミュレーションソフトやスムーズに施工できるように、施工上の注意点や必要な工具をわかりやすく示したMIRAIE設計・施工マニュアルを提供しているほか、工務店にはMIRAIEの商品や施工などについて技術・施工講習会を実施。工務店での体感イベントには、MIRAIE装着、非装着時の実際の揺れを再現できる実験車を派遣し、施主が体感できるようにしている。こうしたフォロー体制は今後さらに充実していく考えだ。
「日本で暮らす以上は地震がどこで発生するか分からない。地震に対して命、家を守ることは社会的使命と考えており、タイヤ・ゴム会社として地震の揺れを低減することにより地震に強い家を造っていきたい。性能には自信を持っており、家を守ることができると自負している。ただ、新築住宅に制振装置を設置することが、主流になっているとはまだ言えない。制振装置を設置することが当たり前になるよう今後も啓蒙していきたい」(同)。
同社は2020年12月に、新たな企業理念体系「Our Philosophy」を制定、その中で自社の存在意義(Purpose)を「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」と定めた。住む人の安心・安全に繋がるMIRAIEは、そのPurposeを体現している製品の一つと言える。
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