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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

日本風洞製作所×ニシヤマ、日本風洞試験 富士エアロパフォーマンスセンター~誰もが当たり前に風洞試験を~コンパクト風洞で風洞試験そのものの価値向上を目指す

その他 2023-09-04

 法人や個人関係なく、誰もがコンパクト風洞による風洞試験を実施できるセンターが、「日本風洞試験 富士エアロパフォーマンスセンター」(静岡県沼津市)だ。日本風洞製作所とニシヤマが共同で設立した。膨大な設備とコストが必要なことから、高嶺の花とされてきた風洞試験。それをリーズナブルかつ省スペースで実施できることから、2023年3月の正式オープンからわずか半年ほどにも関わらず、様々な業界から注目を浴び、活用が進んでいる。風洞試験が身近になった社会が実現した時、考えられる持続可能性とは。話を聞いた。

コンパクト風洞「Aero Optim」(写真手前)とコンパクト風洞天秤「SLIM BALANCE」


 

コンパクト風洞「Aero Optim」

 「日本風洞試験 富士エアロパフォーマンスセンター」は自転車や自動車を測定できるものとしては日本で唯一、一般に開放した風洞試験センターだ。

富士エアロパフォーマンスセンター


 施設内には日本風洞製作所が手掛けるコンパクト風洞試験システム「Aero Optim」シリーズの製品を配備。法人や個人の枠を超え、様々なユーザーに有償で利用枠を開放、レンタルすることができる施設となっている。

 従来の風洞試験機は、自動車を測れるものでは小さくても全長30メートル以上で、試験場や設備などには億単位の資金を要する。そのため、一部の大企業や研究機関などでしか保有できないのが現状だ。

 しかしコンパクト風洞「Aero Optim」には、送風・拡散・均一化・整流の機能が、全長約1.4メートルのキューブ状ユニットに集約されている。このユニットを上下左右に連結することで、自転車用や自動車用、ドローン用など、それぞれの試験条件に合わせた送風面積を構成できる。広い送風面積を、コンパクトかつ量産化による低コストで実現することを可能にした。

 また、一般的なファンの気流は渦を巻くことで乱れが多く、定量的な試験には不向きとされている。一方、同製品が生み出す気流は、ある程度整えられた直進性のあるもので、簡易な空気力学実験に適応することができる。「これがコンパクト化し、実用化できた大きな要因の一つだ」(日本風洞製作所)。さらに消費電力削減の観点から、大型風洞に比べランニングコスト削減にも貢献し得る。

 販売については「単品から複数のユニットまで、任意の送風面積毎に対応可能。乗用車の場合、約2.0×2.5メートルの吹出口で試験ができる」(ニシヤマ)。
 

自動車やドローン、スポーツ業界などでの活用も

 同製品は当初、自転車用として2017年にデビューした。しかし自動車やドローン、航空、建設業界など幅広い分野からも大きな反響を受け、各業界で注目、活用されている。

自転車用試験のデモンストレーションの様子


風洞試験機の前をドローンが飛行する様子


 例えばドローンについては、風洞による様々な風の再現性の高さが重宝されている。「横風、ビル風のような突風など、ドローンが晒される様々な風環境が再現できる」(同)。

 センター開所後、自動車の空力計測の試験依頼も増加している。同試験は風洞と合わせ、ニシヤマと大和製衡、日本風洞製作所の共同開発品コンパクト風洞天秤「SLIM BALANCE」を配置することで可能となる。またスモーク試験でも、「天秤の天面をアクリル板に置き換えることで、床下の風の流れをスモークで観察しやすくなる。従来の大型風洞では不可能な試験ということもあり、好評をいただいている」(同)。

 さらに空力だけではなく、新しい領域も切り開いた。「熱マネジメント」への活用だ。電気自動車(EV)の複雑な熱課題解決には、MBD(車両モデルの精度向上)が重要とされている。「モーターの冷却性能など、EV開発での試験ニーズが伸びており、引き合いも多い」(日本風洞製作所)といい、EV性能の向上に繋げていく。例えばEVのモーターなど電駆部品の発熱に対し、高効率な冷却方法を空力を活用して導き、車本体の長寿命化を目指す。

 また、「ロードバイク向けの様々なホイールを試験できるサービスを年内に施設内でリリース予定だ。自転車用測定台にて、前後のホイールを回転させての試験が可能となる」(同)。
 

すべての学生が風洞試験を実施できるように

 富士エアロパフォーマンスセンター、そしてコンパクト風洞について、学生フォーミュラに参加する学生が注目している。センター開所後、レンタル利用についての問い合わせが多数あった。

 「学生にとって高嶺の花である風洞試験を気軽な存在にしたい。例えば大会開催時期に合わせ、複数の学生チームが集中的に利用できる期間をセンターで設けるといった活動を実現していく。公平性を保つためにも、同イベントのスポンサーも視野に入れている」(ニシヤマ)
 

風洞試験をもっと身近な存在へ

 日本風洞製作所は、「風洞の民主化」をスローガンに掲げ、活動している。その姿勢に共感したのがニシヤマだ。2社は富士エアロパフォーマンスセンターでのサービス提供、製品販売を通じ、社会にとって風洞試験がより身近で、気軽にできる存在になるよう今後もスピード感をもって事業を進めていく。

 「風洞試験が様々な企業――例えばTier1、2などが気軽に実施可能になれば、空力が身近になり、業界内で競争力が生まれる。そして、高効率化など洗練されることで、市場拡大と技術革新に繋がっていく。当社の風洞試験システムが、その縁の下、出発点になればと思う。世の中の車における空力が改善されれば、二酸化炭素の排出量も変化する」(日本風洞製作所)

 風洞試験そのものの価値を向上し、持続可能な社会の実現を縁の下の力持ちとして支えていく。

(左)日本風洞製作所 営業部 広報課長 宝蔵蓮也氏、(右)ニシヤマ 国際事業部 Aero Optim プロジェクト兼風洞試験プロモーター リーダー 宇野正浩氏


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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