PAGE TOP

【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

ソラリス×右川ゴム製造所、ミミズ型管内走行ロボット「Sooha」-ソフトロボットで予防保全的アプローチ

その他 2023-07-31

 従来の剛体材料によるロボットとは異なり、柔軟な素材により構成されるソフトロボット。それを扱うロボット工学を「ソフトロボティクス」と呼ぶ。近年、柔らかくしなやかに動く機能への注目度が高まっており、ゴム素材との相性も良い。ソラリスは中央大学初のスタートアップ企業。同分野における同大学の研究成果に基づく独自のコア技術「空気圧人工筋肉」を確立し、事業化を推進している。そして同技術開発、特にゴム部分に携わっているのが右川ゴム製造所だ。今回、同技術を活用したミミズ型管内走行ロボット「Sooha」を中心にソラリスの梅田清代表取締役CEOと右川ゴム製造所の右川誠治代表取締役社長に話を聞いた。

「Sooha」ラインアップの1つ「100A」


 

■ソフトロボティクスで新しい価値を創造する

 ソラリスは、中央大学初のスタートアップ企業だ。長年生体模倣型ロボットの研究を行っている中村太郎中央大学教授の研究室から生まれた技術の製品化および社会実装することを目的に誕生した。

 同社の企業理念は「ソフトロボティクスを産業界に拓く世界一のパイオニア企業になる」。ソフトロボティクスとは、柔軟な素材により構成されるソフトロボットを扱うロボット工学で、近年注目度が高まっている新技術領域だ。「昨今、日本発のビジネスや技術は少ない。そういった現状において、ソフトロボティクスという新しいジャンルで、新しい価値を生んでいく。“ソフトロボティクスと言えばソラリス”と思ってもらえるよう活動している」(梅田清ソラリス代表取締役CEO)。

 2023年3月には新オフィス(東京都板橋区)に移転し、ラボスペースを拡充。ロボットの品質検査も可能となり、同社の勢いはさらに加速している。

 

■ソラリスのコア技術「空気圧人工筋肉」

 同社のソフトロボティクス事業におけるコア技術が「空気圧人工筋肉」だ。一見するとただのゴムチューブに見える。しかし内部に特殊な構造を備えており、空気を入れると周方向に膨脹して軸方向に収縮し、抜くと元の長さに戻るという不思議な動きをする。収縮する際に発生する力は最大2,000N。つまり200キロ程度のものを持ち上げ運ぶことができるほどの高出力を発揮する。また軽量で、安全なエア駆動でもある。「空気で動作するということは、モーター駆動と異なり発火源を持たない。防爆性の観点からも有利と考えている」(同)。

「Sooha」ブラシ部分


「Sooha」ラインアップの1つ「50A」


「空気圧人口筋肉」が周方向に膨張して軸方向に収縮する様子


 同技術のベース材料は天然ゴム。右川ゴム製造所はパートナー企業として、その開発に携わってきた。同社は2017年頃から、人工筋肉研究開発の第一人者である中村教授の研究内容に注目していたという。ある時研究室から試作の依頼があり、以降今日に至るまで信頼関係を構築してきた。「小回り、迅速な意思決定など、当社のような中小企業ならではの対応で一定の評価をいただけたと思っている」(右川誠治右川ゴム製造所代表取締役社長)。

 開発にあたり、「2022年は耐久性を高める1年だった。内部が複雑な構造をしているので、高耐久を実現するには様々な工夫が必要となる。当社の福島工場で数万回以上の耐久試験を繰り返し行い、安定してクリアできるようになった。また同技術において、ゴムは重要な要素だ。今後さらなる材質選定も必要になってくる。ソラリスとは常に密に打ち合わせしながら進めていく」(同)。
 

■ミミズ型管内走行ロボット「Sooha」

 「空気圧人工筋肉」をベースに開発されたユニークなソフトロボットがミミズ型管内走行ロボット「Sooha」だ。同製品は細く複雑な配管によって引き起こされる様々な課題――建物配管の老朽化による漏水や工場内集塵配管での火災、プラント内配管の減肉による漏れなど――の解決に、配管検査・清掃のプラットフォームとして寄与する。

 文字通りミミズのぜん動運動を模倣しており、高効率かつ省スペースでの動作が可能。大きな特徴は①複数の90度エルボ(L字継ぎ手)を通過できる等、工業用内視鏡よりも深部に走行可能②内径100ミリ以下の細管に侵入可能③電力を使用しないエア駆動による防爆性④大きな牽引力――などがある。ロボットは垂直方向に上がっていくことができ、「下から上に、生き物のように自動で上がる技術は珍しいと、高評価をいただいている」(梅田氏)。

 またロボット本体内部は空洞で、センサーなど他技術を付与し機能性を高め、高付加価値化へも繋がる。「たとえばフレキシブルな超音波センサーを内蔵することで、管の厚みの計測が可能だ。そういった開発も進んでいる」(同)。
 

■10年後、20年後を見据え、進化し続けていく

 配管に関する様々な課題に対して、ソフトロボットで予防保全的な解決を目指す点が類を見ないアプローチだ。「ニーズは無限にあるので、事業展開を推進していきたい」(同)一方で、同製品はまだ産声を上げたばかりのデバイスであり、課題も決して少なくはない。目下の目標は、同製品を含む「空気圧人工筋肉」をベースに開発したソフトロボティクス製品の事業化だ。

 「前例のない新しいデバイスゆえに社会実装への高いハードルがあり、実績が求められている。この針の穴を通すことができれば、横展開はかなり容易ではないかと思う。デバイス自体が第1号であり、まだまだ発展途上。どんな複雑な管路も全てスムーズに走行できるわけではない。管路には、汚れや錆こぶによる内部の凹凸など、色々な状況・問題が起こりうる。柔軟に対応できるよう進化していきたい。10年後、20年後、この第1号と比べて『今は格段に進歩した』と言われるように取り組んでいく。横展開について、右川ゴム製造所とも密にやっていきたい。他の追随を許さない、簡単に模倣できない技術の確立を今後も目指していく」(同)

 右川ゴム製造所はパートナー企業として、今後多様なニーズへの細やかな対応が求められると考える。「どういうプロセスで量産化、自動化をしていくのか。解決するための大きな技術革新が必要だ。ゴム企業である当社としては、ゴム素材の優位性を知らしめるチャンスでもある。決して簡単ではないが、すぐにできないと判断せず食らいついていく。それが、会社自体が成長するための糧になる。当社は2017年に創業120周年を迎えたが、培ってきた技術に胡坐をかかず、次の100年を見据えてチャレンジしていきたい」(右川氏)。

 両社は協働しながら、世界に類を見ない、新たな価値・技術を創造し、社会への貢献を目指す。

右川ゴム製造所代表取締役社長 右川誠治氏(左)、ソラリス代表取締役CEO 梅田清氏(右)


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物