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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

日本ミシュランタイヤ、金属積層造形技術に注力-“タイヤを超越して”新たなイノベーション創出を目指す

その他 2023-07-10

 誰もがより良いモビリティを享受できる社会の実現を目指し、事業展開をしているミシュラングループ。「タイヤを超越して」新たなイノベーションを生み出すために推進しているのが、金属積層造形技術だ。タイヤ製造用金型に活用している同技術を多方面に展開していくため、群馬県下の企業らと共同で「群馬積層造形プラットフォーム(GAM)」を設立。そして日本ミシュランタイヤ太田サイト(群馬県太田市)に「ミシュランAMアトリエ」を開設したことは、2023年現在記憶に新しい。同技術発展の先に、見据えるものとは。

ミシュランAMアトリエ内造形室でのトレーニングの様子


ミシュランAMアトリエ内コミュニケーションスペース


従来の航空機用部品(左)と金属AMによる部品


金属AMによるタイヤ製造用金型


 ■ミシュラングループと金属積層造形技術
 「モビリティ」をサポートしてきたミシュラングループの根底には、人の喜びや経済の発展に貢献したいという想いがある。同社は事業展開を「タイヤと共に(WITH TIRES)」、「タイヤ関連で(AROUND TIRES)」、「タイヤを超越して(BEYOND TIRES)」と定め、タイヤによって乗り物を走らせるだけではなく、タイヤを超越した製品や技術の開発にも注力。多くのパートナー企業とも繋がりながら、より良い社会の実現に向けて動いている。

 その事業の一つが、金属積層造形技術だ。「積層造形(AM=アディティブ・マニュファクチャリング)」とは、立体物を輪切りにした断面データを基に、樹脂・粉体などの薄い層を積み重ねて立体物を製作する技術のこと。複雑な形状が自由に成形可能だ。同社はタイヤ性能を向上させるため、同技術をタイヤ製造用金型に活用。10年以上にわたるタイヤ量産でのノウハウと知見の蓄積によって、複雑なタイヤデザインを可能にしてきた。

 2016年には、仏・Five(フィブ)と共同で、金属3Dプリンター装置メーカーである合弁企業・AddUP(アダップ)を設立。
 2021年7月、群馬県下の有志企業とともに、次世代イノベーションを担うオープンプラットフォームとして群馬積層造形プラットフォーム(GAM)を設立した。

 そして2022年4月、日本ミシュラン太田サイト内に、AM技術の普及と発展を目的とした「ミシュランAMアトリエ」を開設。施設内にはアダップ社製の金属積層造形装置(金属3Dプリンター)2台が設置されており、GAM参加企業は金属AMの試作を行うことができる。「開所後から稼働率は上がり続け、現在ほぼ毎日稼働している状態だ」(日本ミシュランタイヤ)。

 また、群馬県をはじめとした行政との連携や、大学、企業、コミュニティに対する教育プログラムの提供を実施していく。すでに、地域の小学校を対象としたアトリエ見学ツアーや、デジタルものづくり体験など、AM技術に関する次世代への啓蒙・普及活動も行っている。

 ■積層造形技術に期待すること
 AMが得意とすることの一つが「軽量化」だ。例えば、同社は航空機の床材に使用される留め具を金属AMで制作。材質や機能は従来と同じでも、同技術を使うことで、複雑で緻密な形状、さらに軽量化が可能となった。航空機そのものの低燃費に貢献し、高付加価値化へ繋がる。「AMは設備(プリンター)があれば良いのではなく、新たな発想も求められる。この留め具制作にあたっては、“トポロジー最適化”を用いて設計プロセスにおいて、軽量化に最適な解を導き出した」(同)。

 コスト面ではどうか。「部品としては従来品の方が安い。しかし航空機全体で見ると、金属AMのほうが、使い続けた時、低燃費に貢献する。ものづくりにおけるコストの発想も、点ではなく、『最後まで使われたとき、どうなるのか?』という線――ライフサイクルで考えていくべきだ。視野を広げることで、点の価値が高まっていくと思う」(同)。

 持続可能の観点では、「AMは足し算の技術。必要な量だけ材料を使うことで、省資源を可能にする。また、デジタルによるものづくりとして、生産拠点の自由度も高めることができる。例えば技術拠点が日本にあっても、同じ機械があれば、別の国でもファイル共有によって製作が可能だ。物流コストやエネルギーの観点から、『地産地消』の貢献にも繋がるのではないかと思う。そういったコンセプトも重要だ」(同)。

 ■日本で積層造形技術を活かすために
 「AMは、航空宇宙産業や自動車、医療分野等に幅広く適用されているが、それは欧米を中心とした話だ。日本国内では、異なったアプローチが求められる」(同)

 国内でAMを活かすため、最初にGAMで取り組むテーマを、「コンフォーマル冷却金型」と「少量生産品」への金属AMの適用とした。コンフォーマル冷却金型とは、形状に適応した冷却配管を内部に持つ金型のこと。冷却効率と生産効率が高い特徴を持つ。

 これらテーマの追求により、日本の製造業で、今後AMがどの領域に有意性があるのか、企業課題や社会問題の解決にどう繋がるのかを明確化していく。

 ■技術の認知度を上げ、新たなイノベーションを生み出していく
 ミシュラングループはAMを通じ、新たなイノベーション創出を最終目標に据えている。そのためにまずは、同技術の認知度向上、そして人材育成が必須と考える。同社が設立当初から携わるGAMは、その役割を果たせるプラットフォームだ。

 「GAMとしては群馬県の企業だけにこだわらず、海外も含めもっと多種多様な企業・団体に参加して貰い、パートナーシップを広げていきたい。だが、地元のネットワークも大切。同県は自動車産業が盛んな地なので、それを活かしたい」(同)

 5月17日に、GAMは技術報告会を実施した。「AMをどう使えば良いのか、報告会のようにどんどん発信しないと、技術は広がっていかない。もっと先を言えば、『こういうビジネスモデルができた』と発信したい。私たちの活動が、技術の認知度を高め広げていくための、マイルストーンになれれば嬉しい」(同)。

 プラットフォームへも貢献しながら、ミシュラングループは「タイヤを超越して」新たなイノベーションを生み出すことを目指していく。

日本ミシュランタイヤ研究開発本部新規事業部:伊藤祥子部長(㊨)、小川匡通ビジネスストラテジー・開発マネージャー(左)


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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