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【エッセー】

緊急時における企業の採用活動

その他 2020-04-14

新型コロナウイルスの影響で揺れる今、採用の現場で何が起きているのか

成蹊大学経営学部教授 鈴木 賞子

 いよいよ4月桜のシーズン、新しい年度のスタートです。本来なら誰もが新しいスタートに緊張と期待でワクワクする時期なのですが、今年は例年と異なります。

 大学などの教育現場では卒業式も入学式も中止になり、新学期の各種ガイダンスはネット配信、授業はオンラインに変更するところが多く、この変更で教員も準備で大変です。学生にパソコンを貸与している大学は別として、学生が大学以外の場所(基本的には自宅)でオンライン授業を受けるためのネット環境、ほとんどがスマホで受講するであろうという環境を考えるとモチベーションや集中力の維持、そのための工夫など検討課題は多々あります。実は2020年にカリキュラム改革や新学部設置をする大学も多く、特に1科目の授業時間が100~105分になる大学も多く、私が勤務する大学でも100分授業に変更になりました。

 一方で、新人研修を延期したり中止したりする企業も多いのが、今年の特徴です。卒業旅行で海外に行った学生も多く企業も実態を把握しきれないために、2週間の自宅待機をさせているようです。もちろん、それは新入社員や他の社員、取引先企業のためでもあります。私個人としては、この選択は企業の危機管理としては懸命な対応だと思います。なぜなら、新入社員の入社前の行動を把握するのが難しいからです。実際に入社式を中止したものの、配属先で発熱して、早々に自宅待機になった新入社員もいます。

企業の採用選考も大きな影響を受ける

 混乱の新年度スタートですが、採用の現場では何が起きているかについて触れておきます。新型コロナウイルスの問題が出てきたのは2月上旬ぐらいで、その後急速に危機を感じ始めました。学生の就職活動&企業の採用活動において、3月1日以降は企業説明会などが本格化する時期でした。しかし、このような状況下でご存知のように、就職情報会社が主催する合同セミナーは軒並み中止、大学内の就職関連行事も中止となりました。この時点ですでに内定をもらっていた学生も多く、内定をもらっていた学生はこのような事態でも少しは落ち着いていたようですが、大半の学生はこれから就職活動本番という時期に不安を抱える結果となりました。

 3月以降の企業の動向ですが、採用意欲が旺盛な企業はオンライン説明会や面接に切り替えて対応しています。また、この新型コロナウイルスの影響で収益などに大きな影響を受けそうな企業は、採用活動を一時的にストップして様子を見ています。3月下旬の全国紙の調査によると、2021年卒の採用計画は半分の企業が予定通りに採用する、半数の企業が減らすまたは検討中です。採用意欲が旺盛な企業はAI対応などで理系採用に意欲的です。実はメガバンクなどの金融系企業も理系採用に意欲的です。空輸・鉄道・旅行・百貨店など、新型コロナウイルスの影響で直接大打撃を受けた企業は採用数が減少しており、この業界を志望している学生にとっては残念な状況となっています。

 採用選考の場で最近増えてきた動画エントリー。エントリーシートよりも学生らしい表情を見ることができるうえ、採用担当者は時間をかけて大量のシートを読み込まなくて良いので、導入する企業も増加傾向にあります。今回のような緊急事態にオンラインでの採用選考が始まり、学生も企業の人事担当者も不慣れで手探り状態です。スカイプやzoomを利用しての面接は、それぞれのツールの特徴を活かして利用しなければなりません。ただ、グループ面接やディスカッションがしづらくはなりました。エントリー動画は良いのですが、学生から相談された際には、どこで撮影するかを考えるように伝えます。なぜなら動画には色々なモノが写り込むからです。自撮りしていると、自分の背景に何が写り込んでいるか気が付かないことが多いものです。ある意味、非言語(ノンバーバル)の情報提供です。

 面接でも同様のことが起きています。外出自粛要請が出ている現在は大学にも行けないので、ほとんどが自宅で面接を受けることになります。現在、急きょ「オンライン面接対策講座」を実施している大学もあります。zoomでは自分の背景を変えることはできますが、基本的に面接官は落ち着かないのでやめた方が良いと思います。

 ただ一方で、企業の面接官側にも問題が発生しています。本来の対面式面接では、目の前にいる学生の座っている全体の姿や姿勢、面接室の入退室など見ることが可能ですが、オンライン面接では座ったままの上半身しか見えません。しかし、表情や質問に対する受け答えはしっかり見えるし、面接官が録画しておけば、後に判断材料として確認することも可能です。そんな中、面接官の興味で、学生に対して「お部屋をもっと見せてください」「立ち上がってみてください」など指示する面接官もいるようです。学生に興味を持つのは良いことですが、悪気はないとしても明確な理由がない限りは余計な質問は慎んだ方が良いでしょう。学生の印象が悪くなります。

オンライン選考のメリット

 さて、このようなオンラインセミナーや面接にはどのようなデメリット・メリットがあるかということです。学生にとってのデメリットは企業セミナーなどで触れることができる企業の雰囲気を直接感じる場がないことです。ですので、面接官など一部の人事担当者を通して企業の雰囲気(社風とは言えませんが)を知ることになります。また、パソコンの画面を通しての接触は不慣れで緊張します。しかし、この件は今後は解消されると思います。なぜなら大学でのオンライン授業が実施されれば、学生もだいぶ慣れると思います。慣れてくると面接会場での面接とは異なり、面接官と学生の距離が近く感じられ表情もよく見え、ある意味親しみを感じるかもしれません。予想外にじっくり向き合えます。これは学生にとっても企業にとってもメリットです。面接官は面接というより面談のような雰囲気づくりなど、学生の緊張をほぐす工夫も必要です。

 また、学生のメリットは他にもあります。セミナーや面接のために移動する時間やお金がかからないことです。特に、地方に住む学生にとっては大きなメリットです。地方に住む学生にとって移動するための費用と時間はかなり大きな負担です。これまでも交通費の問題により、途中で就職活動を一時的に断念する学生を何人か見てきました。今後は最終面接までオンラインでいくか、最終面接は対面で行うか、状況次第での判断となるでしょう。

 ただ、このような状況下で小規模でも学生に企業訪問させるのは止めてください。いま企業がすべきことは、採用のスケジュールの見直し、選考方法の透明化、わかりやすい企業説明の資料(Power Pointなど)作成、学生からの質問やエントリーの受付方法の見直しなどです。

インターンシップ受け入れの準備でChanceを作る

 また、今年の夏休み中にインターンシップを予定している企業は、万が一インターンシップの受け入れができない場合を想定して準備をしてほしいです。単にインターンシップを中止するのではなく、オンラインでもインターンシップを体験できる仕組みなど、今から準備できることがたくさんあります。企業にとっては面倒なことかもしれませんが、いま取り組んでおけば今後は地方の学生や障がいを持った学生、海外にいる学生にも対応できると思います。準備ができれば、夏休みに限定しなくてもすぐに実施できます。最近は長期休暇以外での短期インターンシップを実施する企業も多いからです。在宅ワークなどで各部署に協力をお願いして準備すれば、学生の好感度も上がります。もちろん、直接の職場体験が一番望ましいとは思っています。

 3月から採用選考をストップしたままの企業もあって、戸惑う学生も多く見られます。また、入社直前に内定取り消しにあった学生の情報も聞こえて来ます。このような非常事態だからこそ、慌てずしっかりと学生と向き合うことが大事です。大企業志向の学生も減って来ました。企業の姿勢を伝える良いチャンスだと思います。

 2月から私も可能な限り在宅ワークに切り替え、仕事をしてきました。春休みですし、往復3時間の通勤時間を利用すれば、かなりの仕事ができます。却ってオーバーワークになりましたが。4月から私が勤務する大学でも新しい学部ができて、私も新しい学部に異動しました。

 先週1週間は、新学期のために色々と行事があって大学に行きました。他者と場と時間を共有して顔を見て会議をするのはやはりホッとしますが、ほとんどの対面かつ大人数での会議は当面の間禁止になりました。前期期間は教職員と学生のキャンパス内への立ち入りを禁止している大学もあります。

 教員は、この状況をプラスにして、しっかりとオンライン授業の構成を考え準備をしています。幸いシラバスの変更もOKですし、著作権の緩和なども実施されるようなので、学生がじっくり考えて視野を広げるような授業を展開する予定です。この状況で視野が狭くなりがちですが、このような状況だからこそ世界のことをじっくり調べレポートにまとめ、情報リテラシーなどを学ぶ良いチャンスにします。ヒトとモノの動きが鈍化しても思考は止めないことが大事です。知りたいことをネットで簡単に調べることができる現在、簡単に調べたことはいつでも調べることができる安心感からか、なかなか記憶にとどまりません。ですので、この機会にじっくり調べ、確実に自分の知識にできるように文章力の強化・情報リテラシー・視野を広げる、この3つを柱に落ち着いてそれぞれの授業展開をしていく予定です。「大変」とは「大きく変わる」、良いチャンスです。

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