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連載「つたえること・つたわるもの」(87)

〈医師〉〈治療〉の司命を、古代漢字とやまとことばで考える。

連載 2020-04-14

出版ジャーナリスト 原山建郎

 昨年11月、中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、WHOの〈3・11パンデミック宣言〉から1カ月経ったいまも悪化の一途をたどり、爆発的患者急増(オーバーシュート)による院内感染の拡大、医療機器(防護服・医療用マスク・手袋・人工呼吸器)の供給不足から、治療にあたる医師、看護師など医療従事者への感染が全国各地で発生し、アメリカ(54万6千1千人感染、2万人死亡)やイタリア(15万6千人感染、1万9千人死亡)で起こっている医療崩壊(医療的緊急事態)前夜の様相を呈している。日本では2月初旬のクルーズ船寄港時の感染確認から2カ月あまり、昼夜を分たず、最前線で身命を賭して働く医師・看護師たちの命がいま危機にさらされている。

 イギリス(8万4千人感染、1万人死亡)では、陣頭指揮に立つボリス・ジョンソン首相自身が感染し、一時は病状が悪化してICU(集中治療室)に移ったと報じられたが、4月12日に無事退院した。同日、自らのツイッター(#StayHomeSaveLives)に動画を投稿し、イギリス国民と医療従事者に対する強い感謝の思いを、次のような言葉で伝えた。

 「7日間、私はNHS(国民保健サービス)のスタッフがプレッシャーにさらされているのを見てきました。医師や看護師だけではなく、全ての人たちです。/清掃担当者や調理師、そして、理学療法士、放射線技師、薬剤師などのあらゆる種類の医療従事者たち。彼らは職場に通い続けながら、自分自身を危険な状態、恐ろしいウイルスのリスクにさらしています。/私が再び呼吸できるようになったのは、彼らが一晩中私を見守って、私のことを考え、看護し、必要な治療をしてくれたおかげです。」

 このほかにも、自身の治療や看護に当たった医療者たちの名前を一人一人呼んで、感謝の思いを示したツイッターの言葉から、治療と看護にあたったスタッフの顔がひとり一人浮かび上がってくるようだ。

 それに比して、ようやく4月7日に「緊急事態宣言」を発出した、わが国の宰相は、3月27日の参院予算委員会で「昭恵夫人のグループ花見写真」への質問に、「都が自粛を求めている公園での花見というような宴会という事実はない」と開き直って顰蹙を買い、4月1日の衆院本会議でも「急拡大するマスクの需要の抑制を図り、国民の皆さまの不安解消に少しでも資するよう、速やかに取り組んでまいりたい」として、1世帯あたり布マスク2枚配布(466億円)を示して、アベノミクスならぬアベノマスクと揶揄されるなど、新型コロナウイルス禍に苦しむ世界中から冷ややかな視線を浴びている。

 15年前(2005年)、『国家の品格』(藤原正彦著、新潮新書)という本が話題になったが、安倍首相のお友だちであるトランプ米大統領はほぼほぼ同類であるが、さきのボリス・ジョンソン首相(英)をはじめ、アンゲラ・メルケル首相(独)、アンドリュー・クオモNY州知事(米)、ジョゼッペ・コンテ首相(伊)の国民への危機感あふれるメッセージ発出は、まさに「宰相の品格」を感じさせるものである。

 日本では、古来より「医は仁術」、「赤ひげ先生」という言葉がよく用いられてきた。

 「赤ひげ(医師)」とは、山本周五郎の時代小説『赤ひげ診療譚』に登場する町医者のことで、貧乏人からお金を受け取らず、他の医者が嫌がるような病人も快く診る理想の医者像のことをいう。また、「医は仁術」のほうは、江戸時代の儒学者、貝原益軒が著した『養生訓』巻六「択医(※名医の選び方)」に、「醫は仁術なり。 仁愛の心を本とし、人を救ふを以て志とすべし。 わが身の利養(※私欲)を専(もつぱら)に志すべからず。 天地のうみそだて給へる人をすくひたすけ、萬民の生死をつかさどる術なれば、醫を民の司命(しめい)と云ふ。きはめて大事の職分なり。」とあり、さらに「醫とならば君子醫となるべし。小人醫となるべからず。君子醫は人のためにす。人を救ふに志専一なるなり。小人醫は、わが為にす。(中略)醫は病者を救はんための術なれば、病家の貴賤貧富の隔てなく、心を尽くして病を治(ち)すべし。病家よりまねかば、貴賤をわかたず、はやく行くべし。遅々すべからず。人の命は至りて重し、病人をおろそかにすべからず。是れ、醫となれる職分をつとむるなり。」と解説されている。

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