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日に日に強まる懸念 人と物の停滞深まる

新型コロナ感染拡大でゴム業界の動きは

その他 2020-03-16

 新型コロナウイルスが、世界的に大きく報道されるようになった1月から約2カ月が経過する。しかし、沈静化の様相を呈す中国とは裏腹に、感染は世界に拡大している。ある関係者は「感染が欧米に拡大していることを憂慮している。欧米の4月以降の動向が読めず、予測もつかない」と話す。ゴム業界への影響はどうか。足元の動向をまとめた。

 米中貿易摩擦等の影響で、ゴム製品の生産は新型コロナウイルスの発生以前から、やや下降基調にあった。ある原材料商社は「好調だった前年同期に比べ、新型コロナウイルス以前から原材料の需要は5~10%落ちていた」という。

 足元のゴム製品の稼働状況について、加藤事務所の加藤進一社長は「国内のゴム製品製造業の稼働率はそれほど悪化していない。影響はこれから出てくるのではないか」と話す。また、あるゴム精練メーカーは「新型コロナウイルス以前に、需要は年初から伸び悩んでいた。ただ、依然として中部地方だけは堅調なようだ」と語る。
 

手袋は出荷量増加

 出荷が増加しているゴム製品もある。衛生面への関心が高まっており、手袋の需要が増加している。あるメーカーは「使いきり手袋はもちろんのこと、布製やコットン製も需要が増えており、欠品や品薄の製品が出ている。得意先への対応に追われている中、それ以外の小売店等からも販売を増やしたいという問い合わせが増加している。2月までの出荷は前年比1.3~1.5倍で、計画を上回っている。生産面については、海外拠点も含め影響はない」としている。
 

輸送がネックに

 足元で最も懸念されるのが、人と物の動きの停滞だ。
 ある工業用ゴム製品商社は「仕入先が中国で生産している製品が輸入できず、納期遅れが発生している。仕入先は元々国内で作っていたが、コストの関係で中国生産に切り替えた。まだ在庫があるため何とかしのげているが、影響が長引けば、今後は国内生産による調達も検討しなければならない」と話し、別の工業用ゴム製品商社は「土木関連資材の仕入れ品で中国製が多い。生産は再開されており、順当と言えないまでも入荷しているが、中国では陸路や港からの出荷が詰まっている状態だ」という。

 当初懸念されていた原材料は「中国の春節と時期が重なったこともあって、日本国内の在庫が増していた。タイミングだけで言えば運が良かったと思う」(原材料商社)と、近々での在庫切れの不安はなさそうだ。ただ、工業用ゴム製品と同様に、輸送が滞っている影響が心配される。前出の加藤社長は「中国やイタリアにあるゴム薬品、カーボンブラック、フッ素ゴム、ゴム用機械の工場は稼働しているが、工場から港への輸送、港の通関など輸送面がネックとなり、日本への到着が遅れている。現状で日本国内の原材料が在庫切れすることはないが、こうした状態が数カ月継続すると、さすがに心配になる」と話す。

 商社は別の問題も抱える。ある関係者は「すでに動いている製品は良いが、新しい商談の際は面と向かって話し合う必要がある。ただ、不要不急の来訪を断る顧客も増えており、客先への訪問が難しくなっている」と悩みを打ち明ける。
 

原材料価格は不透明

 原材料価格にとっては、大きな下げ要因となった。合成ゴムの原料であるブタジエン価格や天然ゴム価格は急落した。加藤社長は「天然ゴムはパニック売りで価格が急落した。一方、ブタジエンについては、新型コロナウイルスとは別の要因もある。原材料価格は先行きに不透明感が大きい」という。ブタジエン価格は原油、ナフサ価格に大きく影響を受ける。新型コロナウイルスによる需要の減少だけでなく、サウジアラビアなど産油国が増産することの影響が決して小さくない。
 

自動車販売の動向次第

 先の見通しはどうか。加藤社長は「自動車販売が減少してくると、その影響が川上であるゴム製品に波及してくる」と話す。また、ある工業用品メーカーは「今回の不景気は、リーマンショックの時を超える気配がある。当社の売り上げは工業用品と消費財がほぼ半々でバランスが取れており、前者が悪い時は後者が頑張り、逆の時もあったが、今回はともに大幅な減少になっている。リーマンの時は工業用品が半減以下と大幅に減少したが、消費財が助けてくれた。しかし今回は、工業用品も輸出関連を中心に落ち込んでおり、生活用品も市況悪化がとどまらない。今のところ全く先が見えない。ただ、感染さえ収まれば市況は急速に回復すると思う」とみる。

 欧米に感染が広がっていることを憂慮する声も聞かれる。「欧米で感染者が増えてきており4月以降の動向が読めず、どう予測して良いのか分からない。また、海外の日本人スタッフを最小限で抑えているため、海外拠点のマンパワーが不足している。海外拠点の負担や対応力についても不安がある」という。
 

入社式は検討中

 政府の方針に従う形で、学校では卒業式が中止されるなどの動きとなっているが、ゴム業界では入社式をどうするのか、その議論を進めている。あるタイヤメーカーは「入社式は実施する方向で検討しているが、これまでとは形式を変えたものになると思う」という。

 一方、働き方は大きく変化した。大企業を中心にテレワークが広まり、ほとんどの社員が自宅勤務という企業もある。働き方にとっては大きな潮目になるかもしれない。

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