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ゴムの先端研究<第4回>

岩手大学理工学部化学・生命理工学科(化学コース)教授・博士(工学) 平原英俊氏

その他 2019-09-19

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第4回は、岩手大学理工学部化学・生命理工学科(化学コース)教授で博士(工学)の平原英俊氏。平原氏が進めている分子接合技術の研究について話を聞いた。

分子接合による直接接合技術を研究

 ■分子接合技術
 分子接合による直接接合技術の研究に携わっている。同種、異種材料を接着剤を用いて接合する間接接合と異なり、直接接合は接着剤を用いない接合方法だ。接着体、被着体に表面処理を施し、化学結合によってそれらを直接接合する。

 工程としてはまず、トリアジン系の分子接合剤を用いて、接着体、被着体の表面に官能基を付与する表面処理を施す。異種材料でもお互いの表面を類似したものにするためだ。分子接合剤が入った溶液に浸漬させ、取り出し乾燥した後に、材料同士を重ね合わせ、熱を加えながら加締めることで接合する。表面に付与した官能基がお互いに反応し、シロキサン結合などの化学結合によって接合する仕組みだ。

 分子接合剤はセラミック、金属、ゴム、プラスチックと化学的に結合し、類似した表面を形成することができる。そのため、接合するものは、無機物と有機物、ゴムと金属、ゴムと樹脂、金属と樹脂など様々な組み合わせで可能だ。

 ゴムに関して言えば、分子接合技術を用いると、自動車部品で金属代替用途の展開ができるようになる。従来、ゴムと金属で形成していた部品を、ゴムと樹脂で形成することが可能になる。現状、ゴムと樹脂の両方に対応できる接着剤はなく、接着剤を用いてゴムと金属で形成していた部品を、ゴムと樹脂で代替することは不可能だ。分子接合技術は、それを可能にするもので、金属が樹脂に置き換わることで、自動車の軽量化に繋がる。

 お互いの表面を類似したものにするため、ゴムと樹脂の組み合わせで言えば、例えばゴムが天然ゴムやニトリルゴム(NBR)であったり、樹脂がポリプロピレンやポリエチレン、ナイロンであったりと、お互いがどのような品種でも接合は可能だ。ただ、フッ素樹脂、フッ素ゴムは少々難しいところがある。フッ素系を接合するには、作業者の安全面や表面処理の薬品の安全性に問題があり、可能ではあるが、正直難しい。

 ■SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)に採択
 分子接合技術は以前から取り組まれていた技術だが、展開が進んだのは内閣府のSIPに採択され、トリアジンチオール誘導体における分子接合技術の社会実装に向けた取り組みを進めたことによる。当時、SIPでは24テーマが採択され、そのうち8テーマが残った。分子接合技術もそのうちの1つで、SIPでの活動を5年間継続した。これによって、分子接合技術に対しより興味が持たれたと考えている。

社会実装に向け分析方法確立と実績作り進める

 ■社会実装に向けた実績作り
 社会実装に向けて、ゴム関連の中で最も多い案件が、自動車部品だ。ただ、自動車部品の実装は中々進んでいない。提案は随分とされているようだが、金属から代替した際の実績がないことが採用のネックとなっている。

 そのため、実績作りは製品サイクルの短いものから進めている。バイオ関連、自動培養システムなどは製品サイクルが短く、そこでまず実績を積んでいきたい。また、自動車部品についても、内装系などの重要保安部品ではない部分からスタートし、徐々に実績を積んでいければと思う。

 ■分析方法確立へ
 分子接合技術は、技術として完成しているもので、あとは実績だ。接着剤で接合できないものを接合できる点で非常に有利だが、社会実装されるためには、従来の接着剤と同等の耐久性、信頼性、実績を積み上げていかなければならない。現在は、様々な分析によって評価を進めている。

 AFM(原子間力顕微鏡)とnanoIR(赤外分光分析装置)の複合分析によって、界面の接着を分析している。それは当研究室の特長といえ、接着界面をナノメートルサイズで分析することができる。nanoIRは表面を赤外分析することで、シロキサン結合の有無が分かり、シロキサン結合がある場合、界面に接着層が形成されていることが分かる。

 接着層の強度についても分析を進めている。強度は単純に引っ張ったり、剥離するだけでは、材料の強度の影響を受けるため、純粋に接着層の強度を測定したことにはならない。例えばゴムと樹脂を接合した状態で引っ張り、剥離した際に、樹脂側にゴムが残っていた場合、それは接着層の強度ではなく、ゴムの強度となってしまう。そのため、接着層をナノメートル単位で削って細分化し強度を測定したり、nanoIRによる分析も行っている。

 そのほか、長期信頼性、耐熱試験など様々な分析による評価を進めている。当研究室では評価方法の開発も行っている。評価方法には進化の余地があり、これからきちんと確立していきたい。

 ■分子接合技術で描く未来
 将来的には自動車の接合部を、全て分子接合技術で組み立てることができればと思っている。今後普及が期待される電気自動車は、考え方によってはプラモデルと同じと言える。プラモデルの場合、接着剤を塗って組み立てるが、その部分を分子接合技術を用いて、という考え方もありだと思う。

 自動車に限らず、接着剤を用いない接合がスタンダードになってくれればと思っている。

 平原教授が主査を務める、日本ゴム協会接着研究分科会のシンポジウムが、近々開催される。問い合わせは、日本ゴム協会研究部会担当(☎03・3401・2957)まで。

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