ゴムの先端研究<第2回>
産業技術総合研究所機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター多階層ソフトマテリアル解析手法開発チーム研究チーム長 博士(工学)森田裕史氏
その他 2019-07-29
シリーズ「ゴムの先端研究」の第2回は、産業技術総合研究所機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター多階層ソフトマテリアル解析手法開発チーム研究チーム長で博士(工学)の森田裕史氏。森田氏が行っているシミュレーションによるゴム材料の研究について話を聞いた。
メソスケールのゴム材料をシミュレーション
■ゴム材料をシミュレーション
コンピュータを使い、メソスケールのゴム材料のシミュレーションを行っている。条件を設定することにより、様々なシミュレーションを行うことができる。
例えば、力学特性のシミュレーション。ゴムにカーボンブラックなどのフィラーが分散している状態を作成し、その中で力学特性を見る。ゴム材料はエネルギーを吸収するなど、変形するという前提のもとで使用される。エネルギー吸収の場合で言えば、応力が加わった時にゴム材料のどの部分がどのように変形し、応力を吸収しているのか、その際にゴムとフィラーがどのような状態で結合しているのか等をシミュレーションできる。
■仮想実験
シミュレーションは、実験などから導き出された理論が、どのような状態になっているのかをそのまま再現することができる。つまり仮想実験ができるということだ。
ゴムを架橋した場合、その架橋点は均一ではなく、架橋点が元の部分に戻ってきていたり、架橋点が片方だけといった中途半端なものが多くあるはずだ。また、ゴムの分子鎖同士の絡み合いは、架橋点と同様の働きをする。
シミュレーションでは、こうしたゴムとフィラーがどのように結合しているのかや架橋のネットワークというものを見ることができる。そして、それらの条件を設定することで、実際にどうなるのかということが分かる。それはシミュレーションならではのことだと思う。
通常の実験ではできないことを行えるのもシミュレーションの利点だ。
ゴムは鉄などと異なり、引っ張っても体積は変わらない。これはポアソン比で決まっていることだが、シミュレーションでは意図的に体積が増えるという設定が可能だ。そう設定し何が起きるかというと、ゴム材料の中にボイド(空隙)が発生する。つまり、破壊のシミュレーションを行うことができる。破壊のシミュレーションは、ゴムにとって極めて重要だ。
また、通常の実験でゴムとフィラーを混練する時は、お互いが親和性の高いものでないと上手に混ざらない。ゴムとフィラーの親和性が低いと、お互いで凝集してしまうからだ。しかし、シミュレーションでは親和性が低く、本来混ざらないゴムとフィラーの組み合わせをきれいに分散した状態で設定できる。例えば、シランカップリング剤を使用することなく、ゴムの中にシリカを分散させるといったことだ。これは通常の実験ではまずできないことだが、シミュレーションではその設定ができ、その上で力学特性や破壊など様々なシミュレーションを行える。
シミュレーションを活用すると、実験できないものの結果を予想することができる。
■ゴム材料シミュレーションのきっかけ
シミュレーションできるということは、それを動かせるソフトウェアがあるということだ。元々はシミュレーションのソフトウェア開発に携わっており、そのアプリケーションの一つの適応事例としてゴムを始めた経緯がある。
元はOCTA(オクタ)というソフトウェアで、2002年までのNEDOのプロジェクトとして当時名古屋大学の土井正男教授が代表となり開発した。そこに携わっていた。
OCTAは高分子材料のシミュレーターで、その適応事例の一つがゴムだった。偶然ゴム企業から声がかかり、ゴム材料のシミュレーション研究を行うことになった。
インフォマティクスを活動した発展を進める
■シミュレーションのさらなる発展形
実際起こっている現象に影響を与える因子は何かということを、シミュレーションの結果からあぶり出すという考え方がある。最近よく言われているマテリアルズインフォマティクスはそうした話であり、シミュレーションだけでなく、データに基づいた技術により解析し、新しい知見、特徴を求めていこうと、現在進めている。シミュレーションで得られたものをインフォマティクスに落とし込み、新しい知見が出てくる。これが発展形だと思う。
シミュレーション単体で動かすのは、コモディティ化してきている。シミュレーションだけでなく、そこに付加価値として何を付与するのか。そこにはシミュレーションをさらに深掘りする方法と数多くのシミュレーションを行い、そこから導き出されたものをインフォマティクス技術を活用し、付加価値ある情報にするという2つの進むべき道がある。
実際に作りたいゴム材料の全ての条件設定が出せる、そういうことができないかと考えている。実際の作業現場で働いている方の頭の中にある経験値と私のシミュレーションとして出したいものが一致することが理想だと思う。経験値としてコントロールしている部分には原理原則が眠っているはずで、それは数式で表すことができると思う。そこをインフォマティクスと繋げ、得たい物性を入力すると、その条件が自ずと設定される。そうしたものができれば良いと考えている。
ただ、経験値というのは、その方が働いている会社にとって肝になるブラックボックスであり、それを実際に行うのは非常に難しい点もある。それでも、きっとできると考えている。
それは、人手不足やベテランが会社からいなくなってきている現状に、役立つことができると思う。
8月2日、東部ビル5階会議室(東京都港区)で開催される「第17回若手からベテランのためのセミナー」で森田裕史氏が講演する。詳しい問い合わせは日本ゴム協会関東支部若手セミナー係(電話03・3401・2957)まで。
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