PAGE TOP

幹となる既存分野の安定が様々なチャレンジの土壌を支えている

【インタビュー】フコク物産社長 木部美枝氏

会員限定 インタビュー 2024-04-01

 2024年5月期は、売上高、利益ともに、新型コロナウイルス感染拡大前を上回るところまで回復する見通しにあるフコク物産。自動車や建設機械、OA機器など、既存商材の拡販に注力するとともに、新規事業創出の一環としてスタートアップ企業へ資本参加し、EV(電気自動車)充電器や医療・介護分野への取り組みを強化している。同社木部美枝社長に話を聞いた。

77期(2024年5月期)の業績見通し

 77期(2024年5月期)の業績は、概ね計画通りに推移している。今年度の国内での目標値に対して、売上高はもう少し積み上げが必要だが、利益はなんとか達成する見込みだ。

 3年前に立案した長期経営計画「FG25」も、最終段階のPart―Ⅲステージに入っている。売上高は「FG25」の最終ターゲットに近いが、あと一歩というところだ。

 一方で、海外拠点の業績がかなり厳しい。目標値や、前年比などに対してマイナスとなっており、特に中国の減速傾向が続いている。ASEANで見ても、好調だったインドネシアがスローダウンしている。要因として経済全体に大統領選挙の予算緊縮が影響しているとも言われている。

物流について

 当社子会社のフコク物流の物流は、一般の物流会社と異なり、積荷となる商材が一定の仕入れ先の顧客によるものが大半だ。コロナ禍や半導体の影響もあり、物流そのものの減少や、効率を上げることができず、また人件費やガソリン代アップなど経費も嵩み、業績悪化に影響した。しかし50期となるタイミングで、何とか黒字に転換できた。

 黒字転換の要因の一つとして、山形の第4倉庫が軌道に乗ってきたことが大きい。スタート直後は垂直稼働ができなかったが、ようやく当初の目論見に近づいた。前向きな案件もいただいているので、採算改善が見込めている。

 物流諸経費高騰の価格転嫁は顧客も認めているところだが、厳しい条件も残っている。今後の課題だが、改善に努めたい。

幹となる既存分野の拡販状況について

 住友理工の代理店として、これまで実績を作ってきた自動車用防振ゴムや燃料ホース類、またワイヤーハーネスやコネクター用のシール部品などは、いずれもコロナ禍からの回復で、売上高が伸びている。特にシール製品の売り上げが好調で、中でも国内はかなり堅調だ。また自動車用品のシートカバー系が、新車の初期需要によって売り上げに寄与した。

 建設機械用の商材は、ここにきて中国と欧州の需要が落ち込み、売上高は目標に届いていない。一方で都市型のミニショベル等向けの油圧ホース等の売り上げは堅調に伸びている。公共・インフラ分野では、輸出用鉄道車両の防振ゴムや空港レドームの追加需要が売り上げに貢献している。

 自動車系では新事業統括部と連携した新しい製品群として、EV用急速充電器を受注した。建設機械系では、新しい顧客向けの油圧ホース製品の拡販が実った。

 OA機器をはじめとする情報通信分野では、ペーパーレス時代に入ったこともあり、OA系に付随するゴム部品類は国内外問わず厳しい。

 やや好調なのは、チャイナリスクで製造移管しているタイ、ベトナムでの需要だ。また売り上げは小さいが、美容業界向けの鍼が拡販できている。男性用の脱毛関連の製品も開始した。

好調なEVの急速充電器

 ヘルスケア関連が伸び悩む一方で、新事業統括部が担当するEV充電関連、特に急速充電器が想定よりも早いペースで伸びた。提供先が、大手の商業施設への設置を少しずつ始めることができた。本格的に始まるのは来期からとなる。

 背景には充電器メーカーの生産能力の向上、また経済産業省による「令和6年度クリーンエネルギー自動車(CEV)の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」が令和5年度と比較して大きく増加することがある。当社としても重要なタイミングと捉えている。

社会貢献企業としてさらなる発展へ努力

 フコク物流の山形営業所に農業課を設置し、米作りを開始して3年目となり、酒造に挑戦した。周辺企業と協力して、6次産業まで進めていければと思っており、酒造はその第一歩である。酒そのものの評判は良好だ。SDGsの観点から、酒造から得られる酒粕も再利用するなど、色々なことができるのではないかと思う。

 かねてから日本の食料自給率の低さを懸念しており、何とか自分たちの手で美味しい農産物を生産し、それらを日本国内のみならず海外の人々へ届けたいと考えてきた。その夢の実現にはまだまだ山あり谷ありだが、何とか実現したいと思い取り組んでいる。

 このような挑戦は、既存分野が安定しており、健全企業として成り立っているからできることだ。新しく、色々なチャレンジができる環境に感謝している。フコク物産は、様々な新しい種を持っている。さらなる発展ができるよう努力していく。

(左から)森茂雄理事新事業統括部統括部長、石川貴宏常務取締役、木部社長、清水克友取締役

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物