連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」⑥
天然ゴムの原材料はどのゴム農園でつくっているかわからない?
連載 2017-08-07
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
ゴム製品を製造する場合、その原料がどこの工場でつくられているかは気になります。特に自動車ゴム部品、医療ゴム部品の場合には、すべての原材料について、どの会社がどの工場で、どういった原料をつかって生産しているかを確認することが求められています。それは、もしその原材料工場が火事等で原材料の供給が止まってしまった場合、車の部品、ひいては自動車生産が停止してしまう可能性があるからで、また使ってはいけない化学物質(例えば、EUのRoHS規制品、水銀、鉛等)が紛れ込んでいないかを確認するためでもあります。これをトレースアビリティーといいます。合成ゴム、カーボンブラック、ゴム薬品にいたるまで、この確認が行われています。ゴム原材料を販売している方は、よくご存知で、毎年、各種の確認書類、チェックリストを提出していると思います。
天然ゴムはどうでしょう。天産品で農業生産物です。よくどこの天然ゴム工場でつくっていることを確認したから大丈夫、その工場を視察したからオーケーという話を聞きます。実際タイヤ会社は天然ゴムの生産工場を指定していると聞きます。RSS3というグレードだけでは、生産工場を指定できません。また生産年月を指定できません。10年前に生産したRSS3でも市場に出回っています。そこで、大手タイヤ会社はこの工場での生産品、いつ生産したものを指定して買っています。だからタイヤ会社は東京商品取引所経由では天然ゴムを買わないのです。生産工場が指定できないからです。
さて問題はここからです。天然ゴム工場は実は近くの天然ゴムラテックス、カップラムを扱うディーラーから天然ゴムの原料のラテックス、カップラム(ラテックスの固まったもの)を買います。ディーラーは場合によっては他の仲買人ディーラーから買います。またカップラムの場合には安い時にディーラーが買い込んで、倉庫に貯めておき、相場が高くなってから在庫を放出するということもあります。だからどこの農園、地区でつくったラテックスかはわからなくなります。アジアには天然ゴムの農民が600万人、ディーラーが10万人、天然ゴム工場が500工場あり、とてもサプライチェーンが管理できていません。実は天然ゴムの本当の原材料の大元、どの木から、どの農園からとってゴムラテックスをつかったかはトレースできないのです。異物もそうですが、どんな化学物質が紛れ込んだかはトレースできないのです。他のゴム原料、合成ゴム、カーボンブラック、薬品では、そのまた原料まですべてどの会社、工場でつくったかわかりますが、天然ゴムは本当の原料の生産会社がわからないのです。
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