FKM+変性NBRで高い物性を実現した画期的材料
宮坂ゴム×922研究所、半導体向け耐プラズマ用ゴム材料「Triflo」を共同開発
原材料 New! 2026-07-08
自動車部品・精密機器部品・医療機器向け製品などを製造する工業用ゴム製品メーカー「宮坂ゴム」(本社:長野県茅野市、宮坂孝雄社長)と、ゴム材料の配合設計および販売・開発支援・技術供与を行う「922研究所」(茨城県古河市、宝福裕司代表)は、半導体向け耐プラズマ用ゴム材料「Triflo」(トリフロー)を共同開発した。今回、宝福氏と宮坂ゴムで宝福氏とタッグを組んで開発に取り組んだチームの一人である山田亮一郎氏に材料特性や開発の背景などを聞いた。

宝福氏(右)と山田氏
「Triflo」開発の背景
スマートフォン・パソコン、自動車、家電、医療機器、宇宙・通信など、我々の生活に必要不可欠なものに組み込まれている半導体。今後も世界的なAI需要やデータセンター投資を背景に、そのニーズは増加傾向で推移すると見込まれており、2026年の半導体世界市場は約9,750億ドルを超えるという報道もある。
ゴム材料の中には、その優れた物性によって半導体製造工程で貢献しているものがある。代表的なゴム材料が、FFKM(完全フッ素化パーフルオロエラストマー)だ。
半導体製造工程では、エッチング(半導体ウエハー上の不要な部分を化学的または物理的に除去し、微細な回路パターンを形成する加工工程)や、アッシング(半導体製造においてフォトレジストを除去するための工程)では、酸素ガスなどのプラズマガスが使用されている。
FFKMは、極めて高い化学的不活性と熱安定性を有しており、ほぼすべての化学薬品に耐えることができ、さらに300度を超える高温環境でも長期間にわたり弾性と密封性能を維持できるため、極めて厳しい環境下でシーリング材料として使用されている。
「宮坂ゴムは、長年、自動車部品をはじめとした各種工業用品分野で培ってきた高い技術力を持つメーカーであるため、この技術力を活かすことで未参入だった半導体市場にも参入することが可能だと考えた。そのための『武器』として、Trifloを開発した」(宝福氏)
FKMと変性NBRで誕生したポリマーアロイ「Triflo」
現在、半導体製造工程で使用されているFFKM。しかし、そのFFKMにも課題がある。価格が非常に高価なこと、そのため供給できるメーカーが限られていること、そして使用中にパーティクル(微粒子:特に半導体製造や品質管理においては製品や工程に悪影響を与える)が発生してしまうことだ。そのため、産業界からは安価で、かつパーティクルが発生しないゴム材料が求められていた。
宮坂ゴムと922研究所では、この課題に対応するため、FKM(フッ素化フルオロエラストマー)と、安価な原料であるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に相溶性処理を施すことでNBRを改質した「変性NBR」を均一にFKMに混練。一般的にFKMとNBRは相溶性が不均一だが、NBRを改質させたことで相溶性を改善した。これにより、FKMと変性NBRのポリマーアロイ(異なるポリマーを組み合わせて新しい特性を持たせた高分子材料)である画期的材料「Triflo」を開発した。

トリアジン構造の化学式
「Triflo」をFT-IR分析(赤外光を用いて物質の分子構造や官能基を解析するフーリエ変換赤外分光法)によってスペクトル(複雑な信号や物質の成分を分解し、波長や周波数、エネルギーの順に並べた分布)から結合力の強いトリアジン構造を確認。結合力の強いトリアジン構造によりプラズマでのパーティクルの発生を抑制するだけでなく、引張り強度・伸びが担保され、また、摺動性も確認できた。「結合力の強いトリアジン構造から耐プラズマ性に必要不可欠な化学的な根拠を証明することができた。この画期的材料は現在、特許出願中だ」(同)という。
FKM+PVDFのポリマーアロイ「Miyaflo」
現在、多くの企業がパーティクルの発生抑制に取り組んでいる。宮坂ゴムと922研究所では、「Triflo」の開発で培った技術を横展開し、FKMとPVDF(ポリフッ化ビニリデン)のポリマーアロイ「Miyaflo」(ミヤフロー)の開発にも成功した。
パーティクル検出については、ラジカル照射後の試験片を秤量し、その試験片表面にイソプロピルアルコールをBEMCOTワイプ紙に浸し、塗布乾燥後に試験片の重量変化を秤量したところ、パーティクルが発生しないことを確認できたという。
「Miyaflo」についても従来の高価なFFKMを使用しなくても、安価でユーザーのニーズに対応できる材料として展開を進めていく方針だ。
新たな新規材料「Fluoride922」も開発中
両社の新材料の開発は続いている。現在は、変性NBRとPVDFのポリマーアロイ「Fluoride922」(フローライド922)を鋭意開発中だ。
同材料は変性NBRを用いることで、PVDFとの相溶性を改善。水酸基を形成して摺動性を発生する組成物で、極性のある-OH(ヒドロキシ基)からオゾンを分解することによる耐オゾン性、また、ヒドロキシ基の極性からの殺菌・滅菌作用を有していることから、広範囲な用途への展開が期待できるという。
「変性NBRとPVDFのポリマーアロイで高い親水性を実現した材料は、他に類を見ない画期的な材料となっており、世界に貢献できる可能性が高い。通常のNBR製で同価格帯のOリングと比較しても、Fluoride922は摺動性と耐熱性が優れており、耐熱性は20~30度上がるため、より高性能な製品の提供への貢献が期待できる。ボールバルブ、ガスケット、シートなどに使用されるフッ素樹脂の代替にもなると考えており、それ以外にも空圧関係・自動車部品などのさまざまな製品に応用が可能だ。また、課題となっている環境配慮型反応性可塑剤の開発については、現在8合目と考えており、現場とコミュニケーションを取りながら早期の完成を目指したい」(同)という。
今後の展望
画期的材料の開発に注力する両社だが、環境配慮型反応性可塑剤の開発にも取り組んでいる。従来の可塑剤は、ゴムの中に潜り込み、品質上さまざまな悪影響の要因になることから、他メーカーとの差別化を図るため、両社ではこれらの課題解決を目指している。これまで培ってきた技術の蓄積から、FKMも含めた特殊材料や汎用ゴム材料への展開を模索している。宮坂ゴムでは、これらの取り組みを通じて開発した「材料」を「材料」として販売するのではなく、半導体などへの新規分野をはじめ、既存の自動車部品、精密機器部品、車載用樹脂製品、医療機器向け製品に組み込むことで高付加価値製品としてユーザーに提案していく方針だ。
ゴム業界から、両社の材料開発に多くの関心が寄せられている。
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