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研究開発本部 先進技術・イノベーション研究センター長 岸本 浩通氏・博士(科学)、産業界に開かれたNanoTerasuは日本の宝と言える

住友ゴム工業、イノベーションとも親和性のある“先進技術”で次に担うものを考える

タイヤ 2024-12-11

 住友ゴム工業は今年4月からオープンした3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」(宮城県仙台市)の最新計測技術を活用し、リチウム硫黄(LiS)電池の硫黄系正極活物質の微細な構造観察に成功したことを5月に発表した。「学術的だけではなく、産業界でも使い勝手の良いNanoTerasuはものづくりにおいて、日本の宝と言えると思う」と岸本浩通研究開発本部 先進技術・イノベーション研究センター長は語る。同センターの役割や放射光施設の活用の意義と展望を聞いた。

研究開発本部 先進技術・イノベーション研究センター長 岸本 浩通氏・博士(科学)

「分析センター」から、「先進技術・イノベーション研究センター」に変え、自社の強みを伸ばす

 「先進技術・イノベーション研究センター」は、昨年まで「分析センター」だった部署を幹に創設した。材料分析をコアに活動していたが、多様なポテンシャルを持った人材が集まっており、もっと他の研究に目を向け、もう一段羽ばたいていくには組織の再編が必要だと感じ「先進技術・イノベーション研究センター」に改称した。

 「先進」という言葉にもこだわった。研究開発には往々にして「先端」という言葉が使われることが多い。自分たちの強みを知り、いろいろな研究にチャレンジし、一歩でも前に進みたいという想いで「先進技術」とした。先進はイノベーションとも親和性がある。異なる分野の専門家との繋がりにより新しい結合を生み、新たな気付きや発見をし、次に狙うものを考え、前に進んでいきたい。

 こういうこだわりはセンター内の人員達のモチベーションにも繋がり、内側だけではなく外側に目を向けていく効果が出てきている。

「NanoTerasu」の役割

 当社は、2001年からSPring-8・大型放射光施設(兵庫県佐用郡佐用町)、2006年からJRR-3・研究用原子炉(茨城県那珂郡東海村)、2008年からSAGA-LS・中型放射光施設(佐賀県鳥栖市)、2011年からJ-PARC・大強度陽子加速施設(茨城県那珂郡東海村)、2014年からUVSOR・小型放射光施設(愛知県岡崎市)、2016年からSACLA・X線放射光施設(兵庫県佐用郡佐用町)の放射光X線や中性子などの社外先端研究施設を積極的に活用し、タイヤゴム性能の向上や新材料開発に繋げ材料研究を飛躍的に伸ばしてきた。

 大型放射光施設「SPring-8」と3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」は産業界にその活用を広げたことに意義がある。「SPring-8」と3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」の違いは、X線ビームの種類が、前者が高輝度の硬X線で放射光により物質の構造を見るのに適し、後者が高輝度の軟X線で放射光により物質の化学状態を見るのに適している。

 さらに「NanoTerasu」は「SPring-8」に比べて軟X線の輝度がおよそ100倍も高く、つまりそれは明るいことでタイヤゴムへの活用としては、ゴムを構成するC(炭素)、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)が見やすく、材料の化学情報を得るには有効的だ。

 まずは見ることによって、より多くの情報を得ることが重要。タイヤゴムの性能は使用するに従って硬くなったり、ちぎれたり、クラックが入ったりと変化していく。その原因は、ゴム分子が酸素やオゾンによって劣化したり、熱などで硫黄架橋に変化が生じ、これらがゴムの劣化となる。その現象解明に「NanoTerasu」が効果的だ。

 また、そこから得た大量な情報、データ解析は、我々より、「NanoTerasu」の施設の方々や関係する大学の方が長けている。そういった研究者からのアドバイスや解析力によって新しい発見を得ることもあり、産業界に開かれた施設や大学の方々とコミュニケーションを取っていくことで、今後も新たな成果を生み出していきたい。

サステナブルな社会実現に繋がる「NanoTerasu」

 タイヤゴムの劣化は世界の市場(環境)によって違いがあることが分かっている。軟X線放射光でオゾン劣化と酸素劣化との関係性を知ることができると、市場(環境)によってタイヤゴムの劣化の仕組みが分かる。さらに「NanoTerasu」を活用し劣化させながらリアルタイムで現象を理解し、重要な知見を得ることで新材料開発に繋がれば、タイヤの寿命は延び、サステナブル性を求める社会に貢献できる。

「NanoTerasu」活用と展望


 タイヤメーカーの方向性としては、汎用の低燃費タイヤにおいてもユーザーに安心と安全の提供、またサステナブル化とタイヤ性能を両立させる技術の開発を目指していく。そのためには未だ分かっていない現象を知り、従来とは違った発想で開発された製品をグローバル市場に提供し、貢献していきたい。そのために「NanoTerasu」を積極的に活用したい。タイヤ摩擦(グリップ)についても現状で分かっていないところも多い。

 タイヤ摩擦はヒステリシス摩擦と粘着摩擦とで生じるが、ヒステリシス摩擦はゴムが変形して熱エネルギーに代わることでグリップ力を生み出している。一方、粘着摩擦はゴムと路面の相互作用で生じると考えられてきたが、これまでは調べることができず手の出しようがなかった。

水の不思議な性質を味方につけたい


 「NanoTerasu」では、タイヤゴム表面の水に関する研究を推進していく方針だ。ゴム表面の水に着目し、軟X線放射光によって自由水、中間水、不凍水といった水に関する情報を得ることができる。これを東京大学物性研究所の原田慈久教授の長年の知見と、産学連携で進めて、水の性質を味方につけてウエットグリップ力などの謎の解明に産学連携で進めていきたい。

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