鍵盤楽器奏者 末次 克史

 先日、ベルギー国鉄(NMBS / SNCB)の切符を購入した際、いつもより料金が安いことに気がついた。週末なら割引料金になるので、何か特別なキャンペーンでもやっているのだろうと思い、そのまま購入した。ところが、どうもおかしい。私は NMBS からのお知らせメールを購読しているので、割引キャンペーンがあれば案内が届くはずなのに、そんなメールを読んだ記憶がない。

 そこで、購入後に送られてくる領収書をよく見てみると、Verhoogde tegemoetkoming という見慣れないオランダ語が書かれていた。何のことか分からず調べてみると、医療費の優遇措置を受けられる人を対象とした割引制度だった。もちろん、私にはそんな資格はない。

 「これはまずい! すぐに差額を返さなければ」

 慌てて NMBS のアプリを確認すると、何とこの割引が有効になっていた。普段、切符は iPhone のアプリで購入している。恐らく、iOS のアップデート後にアカウントを触ったときか、パソコンからログインしたときに、うっかりチェックを入れてしまったのだろう。日本語なら間違えなかったかもしれないが、ネットで買い物や手続きをすると、何かと同意を求められるので、ろくに読まずにチェックを入れた記憶もある。

 ともかく、間違えたのはこちらである。割引設定を解除し、差額を支払おうと NMBS に問い合わせることにした。ところが、これがなかなか面倒だった。

 以前、切符の領収書がメールで届かなかったことがあり、そのときに利用した問い合わせフォームを開いてみた。しかし、問い合わせ項目には「返金」はあっても「支払い」がない。普通、鉄道会社に問い合わせるのは、お金を返してもらいたい人なのだろう。まさか、わざわざお金を払いたいという客がいるとは想定していないらしい。

 仕方がないので「返金」の項目を選び、返金してほしいのではなく、間違って受けた割引の差額を支払いたいのだと説明して送信した。しかも、フォームには銀行口座番号を記入する欄まである。こちらはお金を受け取りたいのではなく、払いたいのだが…。

 それから十日以上経つが、今のところ返事はない。

 最近、ベルギーでも駅の窓口がなくなったり縮小されたりしている。つまり駅員さんが簡単に見つからないのだ。切符はスマートフォンで簡単に買えるようになったが、何か問題が起きると、かえって面倒なことになる。昔なら駅の窓口に行き、係員に事情を説明すれば、その場で相談できた。今は問い合わせフォームに用意された項目を選ばなければならず、そこから外れた相談をしようとすると途端に困ってしまう。

 忘れ物をしたときもそうだ。急いで駅に連絡したくても、駅の電話番号は簡単には見つからない。結局、インターネットから届け出ることになる。便利になったことは確かだが、人と直接話せる機会が減り、何だか味気ない世の中になってきた。

 さて、国鉄から返事が来たら、もちろん差額は支払うつもりである。それが善良な市民というものでしょうから。

末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。