白耳義通信 第103回
「カエルとヘビが知らせてくれること」
連載 2025-05-19
鍵盤楽器奏者 末次 克史
最近のベルギーは、なかなか雨が降りません。乾いた天気が続き、農作物にも影響が出始めています。テレビでも毎日のように、「このままでは野菜が育たない」と心配する農家の声が報道されています。「この夏は野菜が高くなるな」と困っているのは人間だけかと思っていたら…。今月は、もっと静かに、しかし深刻な影響を受けている生き物たちの話です。
カエルたちは、春になると卵を産むために水たまりや池を探します。でも、今年はどこも乾いていて、産んだ卵がかえる前に水がなくなってしまうのです。ムーアガエルという珍しいカエルは、湿地がなくなったことで、卵の数が10年前と比べて80%も減ってしまいました。これは、絶滅の危機という深刻な状態です。
普通のカエルやヒキガエルも、水を求めて遠くまで歩いていくようになりました。中には、人の庭や公園の池までやってくるものもいます。
そして、そんなカエルたちを好んで食べるのが「草ヘビ(ササヘビ)」です。草ヘビも水のある場所を探して、カエルの後を追いかけてきます。最近では、庭やガレージなど、人の家の近くで草ヘビが見つかることも増えてきました。草ヘビは毒もなく、人を襲うこともありません。普段は静かにかくれて暮らしていて、見かけても太陽の光で体を温めているだけです。もし見かけたら、そっとその場を離れれば大丈夫です。
先日、わたしが住むメヘレン(Mechelen)で、住民のガレージに1メートルもある草ヘビが入り込んでしまいました。でも、その住民はあわてずに消防隊に連絡し、ヘビは自然の保護区「メヘレス・ブルーク(Mechels Broek)」 に戻されました。草ヘビは水の多い場所を好むことから、この場所は彼らにとってぴったりのすみかです。
ナチュールプント( Natuurpunt:フランドルの自然保護団体)は、「こうした場所にもっと多くの草ヘビが住めるようにしたい」と話しています。
カエルやヘビが私たちの身近に現れるのは、自然が「今、困っているよ」と教えてくれているサインかもしれません。雨が少なくなり、湿地が失われると、彼らの命はとても危なくなります。
自然保護団体の専門家は、「池や湿地を守る努力をもっと続ける必要があります」と話しています。排水路やポンプのせいで水がすぐに流れてしまう今、水をためておける工夫が大切です。
カエルやヘビは、人間が自然とどうつきあっているかを、そっと教えてくれる生き物です。もし庭にカエルが来たり、ヘビを見かけたりしたら、それは自然のバランスが変わってきている証拠かもしれません。小さな命が生きのびられるように、私たちも自然にやさしい行動を考える必要があるようです。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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