白耳義通信 第95回
「空洞化」
連載 2024-09-20
鍵盤楽器奏者 末次 克史
中央ヨーロッパを襲った嵐「ボリス」。チェコやポーランドの街々に甚大な被害をもたらしたかと思えば、アルプスの麓では9月に雪。観測史上最も早い降雪のようです。異常気象がヨーロッパを襲っています。幸いにもベルギーでは、今のところ大きな被害は出ていませんが、昨夏メヘレンでも洪水に見舞われたように、いつ何が起きるか分からないような状況が続いています。
この夏、隣国を旅して来ました。北はオランダのユトレヒト Utrecht。西はフランスのリール Lille。ヨーロッパでは珍しく、どちらの街も駅界隈が元気です。街の中心地に出店している店もチェーン店はあるにはありますが、地元の店が軒を連ね活気があります。
それに比べ、ベルギーの都市の元気がないのが気になります。首都ブリュッセルのメインストリートは人気ブランド店が撤退し、シャッターが下ろされた店が目立ちます。また安価な値段で買えるノーブランド店が多く出店。目抜き通りを歩く人々も、人気店の紙袋を持った人を余り見かけません。
ビックリしたのは、家電や書籍・CD を扱うフランスのチェーン店の売り場が削減されていたことです。数年前に半分になり、そこから更に半分と、以前の4分の1まで縮小されていました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響で、人々が今まで以上にネット通販を利用するようになったことが大きいのでしょう。
また街の中心地は排出ガス規制が敷かれており、車は 30km ゾーンが設けられています。通常は、スピード違反は警察が取り締まりますが、街の中心地では市役所が目を光らせており、少しでもオーバーすると、排ガス違反と記載された振込用紙が送られてくる仕組みになっています。
街の中心地に車で容易に入れないとなると、人々は郊外の大型店に行くようになり、カフェ、レストランも以前のように賑わっていません。日本のシャッター街ではありませんが、このままでは益々街中が廃れていく様相を呈しています。街だけを見ると、欧州連合が打ち出した、2030年までの温室効果ガス排出量削減目標は、余りにも事を急ぎすぎたようにも思えますが、異常気象を目の当たりにすると、それでも温暖化対策が遅かったということになるのでしょうか。
こうなってくると、街がゴーストタウン化するのが早いか、自然の脅威の前に立ち尽くすのが早いか、暗澹とした気持ちで覆われますが、街が活気を取り戻すヒントは、隣国の都市に隠されているように思えてなりません。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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