PAGE TOP

連載「海から考えるカーボンニュートラル」②

「海から考えるカーボンニュートラル」

連載 2024-05-16

一般社団法人 豊かな海の森創り 専務理事 桑原 靖

 今回は前号で少し触れました、気候変動に関する政府間パネル(IPCC※①)の報告書に端を発した、地球温暖化問題に対処するための国際的な条例(国連気候変動枠組条例 以下UNFCCC※②)を、締約国会議(以下COP※③)で決議された「京都議定書」や「パリ協定」を中心としてその取り組みを確認します。また、これらの国際的な条約は日本政府の方針及び企業の活動にも影響を及ぼしていますので、その現状に関しても見て行きたいと思います。
※①Intergovernmental Panel on Climate Change
※②United Nations Framework Convention on Climate Change
※③Conference of the Party


 地球温暖化問題に対処するため、「UNFCCC」が1992年5月に国連総会で採択され、155か国が署名した後1994年3月 発効されました。日本は1992年6月の国際連合環境開発会議において同条約に署名、1993年5月に受諾しています。 この条約は、気候に対して危険な人為的干渉を及ぼす事とならない水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的とし、その水準は生態系が気候変動に自然に適応し、食料の生産が脅かされず、且つ経済活動が持続可能に進行する事が出来る期間内に達成されるべきであるとしています。

 同条約では、開発途上国における一人当たりの排出量は先進国と比較して依然として少ない事、過去及び現在における世界全体の温室効果ガスの排出量の最大の部分を占めるのは、先進国から排出されたものである事、及び各国における地球温暖化対策をめぐる状況や対応能力には差異がある事などから、「共通だが差異ある責任」の原則に基づき、①途上国を含む全ての締約国、②附属書Ⅰ国(OECD諸国、市場経済移行国等)、③附属書Ⅱ国(OECD諸国等)という3つのグループに分けて異なるレベルの対策を講ずることが合意されました。

 同条約の究極的な目的を達成するための長期的・継続的な排出削減の第一歩として、先進国の温室効果ガス削減の法的拘束力を持つものとして約束されたのが「京都議定書」になります。同議定書は1997年12月に京都で開催された「COP3」において採択されました。 同議定書では、排出の抑制及び削減に関する数量化された約束の対象となる温室効果ガスを、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六ふっ化硫黄とし、これら温室効果ガスの排出量を2008年から2012年までの第1約束期間において先進国全体で1990年レベルと比べて少なくとも5%削減する事が目的として定められました。各国ごとに法的拘束力のある数量化された約束が定められ、我が国については6%削減が求められました。

 この議定書は、①55カ国以上の国が締結する事、②締結した条約附属書Ⅰ国の1990年 の二酸化炭素の排出量を合計した量が、全附属書Ⅰ国の二酸化炭素の総排出量の55%以上を占める事、という2つの条件を満たしてから90日後に発効される事になっていました。「COP3」の議長国である日本は、同議定書の早期発効を目指して、発効要件上の鍵を握ることとなったロシアや不参加の方針を打ち出した米国を含めた未締約国に対して締結の働きかけを継続し、2004年11月にロシアが締結したことにより、同議定書は発効要件を満たし、2005年2月に発効されました。これにより、2008年~2012年の間に先進国(アメリカは合意していないため除く)の温室効果ガス排出量に関して、法的拘束力のある数値目標を各国ごとに設定し、国際的に温室効果ガス排出量の削減をしようというものになりました。

 しかし、同議定書は先進国のみが対象で有った為、現状の二酸化炭素排出量(図1)を考えると、途上国を含むすべての国が削減目標の対象という議論となりましたが、途上国側の意見としては、先進国が排出してきた温室効果ガスをまず削減するべきだという意見が出され、すべての国で共通の目標を掲げるには厳しい状況となっていました。そこに、同議定書が採択された後、経済成長を迎えた中国やインドなどの「新興国」が現れた事によって、先進国と途上国の議論に変化が生まれ、「COP21」において、「パリ協定」が採択され、アメリカと中国も批准して2016年11月に発効されました。「パリ協定」は、「産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑える。加えて平均気温上昇1.5度未満を目指す。(第2条1項)」を目標として掲げており、最大の特徴の1つとして挙げられるのが、各国が削減目標(「各国が決めた貢献」(NDC※④表1)を作成・提出・維持する義務と、当該削減目標の目的を達成するための国内対策をとる義務を負っている事となります。(第4条2項) この目標は「プレッジ&レビュー方式(目標と評価)とグローバルストックテイク(情報の棚卸)」により5年ごとに更新され、前回目標を深堀した内容を提出しなければいけません。そして、削減状況は世界共通の評価基準によって第三者が平等で公正な評価を行います。また、5年ごとに国際的に実施状況を確認し、各国が取り組みを強化できるように情報交換を行う仕組みにしています。
※④Nationally Determined Contribution

 その他にも、「途上国への資金支援」は「京都議定書」でも行われていた緑の気候基金(先進国から途上国へ送られる基金)と呼ばれる資金支援は継続して行います。途上国が行う気候変動への対処を支援するための基金ですが、「パリ協定」からは支援能力のある国(主に新興国)からも自主的な資金支援することとされています。更に、市場メカニズム(クレジット制度)は排出削減量をベースライン&クレジット方式(温室効果ガスの削減事業を行った際、事業がなかった場合に比べた排出削減量をクレジットとして取引できる)として、二国間取引するシステムで、二国間クレジットは優れた低炭素技術や製品、システムやサービスを途上国に提供することで、途上国の温室効果ガスの削減や持続可能な開発に貢献し、その成果を二国間で分けあうことが出来ます。

 「COP26」が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年等の年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しています。(図2) これらの国におけるCO₂排出量とGDPが世界全体に占める割合は、それぞれ79%、90%に達しました。更に、「COP26」ではパリ協定第6条に基づく市場メカニズムの実施指針が長年の交渉の末に合意され、パリ協定のルールブックが完成したり、インドが2070年カーボンニュートラルを宣言する等、脱炭素に向けた国際的なルール作りや機運の醸成に進展が見られました。

 日本に於いても、2020年10月に行われた第203回国会において、菅総理(当時)は成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力していくことを訴えました。この中で、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」に挑戦し、脱炭素社会の実現を目指すための取り組みを進めることを宣言しました。更に、2021年4月に、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。この新たな削減目標も踏まえて策定したエネルギー基本計画(表2)では、温室効果ガス削減目標実現への道筋を描いています。

 温室効果ガス削減達成には、排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要となるのは勿論ですが、ものづくり産業がGDPの2割を占める産業構造や自然条件を踏まえても、産業界、消費者、政府など国民各層が総力を挙げた取り組みも必要となります。1998年10月に公布された地球温暖化対策の推進に関する法律では、都道府県及び市町村は、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の削減等のための総合的かつ計画的な施策を策定し、実施するように努めるものとされています。こうした制度も踏まえ、2050年カーボンニュートラル実現に取り組むことを表明した地方公共団体が増えており、2024年3月時点で1078自治体(46都道府県、603市、22特別区、352町、55村)が 「2050年ゼロカーボンシティー」を表明しています。

 ここまで、地球温暖化問題に対処するための国際的な条約での取り組み、これらの国際的な条約による日本を含む各国の及び日本政府や地方行政の具体的な取り組みをみて来ました。次回はこれらの取り組みが企業にどの様な影響を及ぼしているかをみて行きたいと思います。

【プロフィール】
一般社団法人 豊かな海の森創り 専務理事 桑原 靖

 1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。

2023年年10月から一般社団法人豊かな海の森創り 専務理事就任。
同年11月には㈱JBPの取締役営業部長に就任。

一般社団法人 豊かな海の森創りホームページ:https://productive-sea-forest-creation.com/
TEL:03-6281-0223

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物