PAGE TOP

連載「海から考えるカーボンニュートラル」

新連載がスタート 「海から考えるカーボンニュートラル」

連載 2024-04-10

一般社団法人 豊かな海の森創り 専務理事 桑原 靖

 「海から考えるカーボンニュートラル」と題する本連載では、行政の取り組みが活発化しており、マスメディア、大学をはじめとする研究機関、公益団体や企業の活動としても注目され始めたブルーカーボンを通して、地球温暖化への取り組みを解説します。業種や会社規模を問わず、会社運営に於いても無視出来なくなってきている気候変動への対応を、ブルーカーボンを切り口に、点在する情報を繋ぎ合わせ、気候変動に関する様々な局面での判断材料の参考となればと考えています。

 まず最初に地球温暖化の現状を長期・定量的に確認する事にします。今から過去2000年間の気温の推移(図1)をみると、「中世の温暖期」や「小氷期」とよばれる、北半球気温の変動幅が1℃未満の気候変動がありました。これらには数百年スケールの太陽活動の強弱による日射量変動が影響していたと考えられています。しかし、20世紀後半には太陽活動の活発化はみられないことから、この時期の温暖化を太陽活動の変化のみによって説明することはできません。地球が暖かいのは温室効果(Greenhouse Effect)によってもたらされています。大気圏を有する惑星の表面から発せられる赤外線放射が、大気圏外に放出される前に、その一部が大気中の物質に吸収され、再び惑星へ放出されてきます。そこへ太陽光のエネルギーが加わって地表や地表付近の大気をさらに暖めています。地球が生命の住める温暖な気候なのは温室効果のためであり、温室効果が無い場合は地球の表面温度は氷点下19℃の極寒となると見積もられています。

 1985年にオーストリアで開催されたフィラハ会議をきっかけに、地球温暖化問題に対する危機感が国際的に広がりました。1988年には、地球温暖化に関する最新の科学的な研究成果を整理・評価し、報告書を作成することを目的に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)」が設立されました。1990年にIPCC の最初の報告書である「第1次評価報告書」が発表され、この報告で「過去100 年間に地球の平均気温は0.3~0.6 度上昇し、人間の産業活動等により排出される温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)、その中でも二酸化炭素の増加量が、地球温暖化の主な原因と見られる」等といった指摘がなされ、地球温暖化問題に対処するための国際的な条約が必要だという認識が国際的に高まりました。

 産業革命以降の工業化の進展に伴い、多くの二酸化炭素が大気中へ排出されるようになり、IPCC第6次評価報告書(2021年)では、人為起源二酸化炭素が2010年代の平均で1年あたりおよそ109億トン排出され、産業革命以降の積算では6,850億トンに上る事が報告されました。その原因と言われる産業革命以降の二酸化炭素排出量増加の実状を改めて見てみます(図2)。 IPCCは人為的に排出されている二酸化炭素は、石炭や石油の消費、セメントの生産などにより大量に大気中に放出され、工業化以前(1750年)の平均的な値とされる約278ppmと比べて、50%増加していると報告しています。環境省の調査報告(2021年)によると、日本での二酸化炭素の主な排出要因は、エネルギー転換部門(430百万t)、産業部門(269百万t)、運輸部門(178百万t)となっており、これらで全体の82.4%を占めています。

 地球上の炭素は、大気中の二酸化炭素、陸上の生物体や土壌中の有機物、海水や河川・湖沼に溶けている二酸化炭素や有機物及び粒子状の有機物、石灰質の岩石や堆積物、化石燃料など、様々な場所、様々な形で存在しています。大気、陸上(森林・土壌・河川及び湖沼など)、海洋、地圏(岩石や堆積物)をそれぞれ炭素の貯蔵庫とみなし、炭素がこれらの貯蔵庫間を交換・移動することにより形成される循環を「炭素循環」と呼んでいます。人為的に排出された大量の二酸化炭素は大気中の濃度の上昇を生み、陸上では森林の光合成活動を活発にし、より多くの二酸化炭素を吸収するようになりました。同じように、海洋は大気から多くの二酸化炭素を吸収するようになり、その量は25億トン(2010年代平均)とされています。このように、人為起源二酸化炭素は、大気中に排出されたのち、海洋や陸上の吸収源に吸収されますが、残りは大気中に留まり温室効果を増大させ、地球温暖化を引き起こします(図3)。


 次回は、20世紀後半から始まっている国際連合での地球温暖化に関する交渉、日本の関連省庁、環境省だけに留まらず、経済産業省、農林水産省、国土交通省など、幅広い組織での取り組み、それを支える様々な研究をご紹介したいと考えております。

【プロフィール】
一般社団法人 豊かな海の森創り 専務理事 桑原 靖

 1984年に山口大学経済学部卒業後、㈱三菱電機に入社。主に半導体の海外営業営業に携わる。
2003年に㈱日立製作所と両社の半導体部門を会社分割して設立した、新会社ルネサステクノロジに転籍する。転籍後は、主に会社統合のプロジェクト(基幹システム=ERP)を担当。2010年にNECエレクトロニクス㈱を経営統合して設立されたルネサスエレクトロニクス㈱では、統合プロジェクトや中国半導体販売会社の経営企画なども担当。㈱三菱電機でのドイツ駐在、ルネサスエレクトロニクス㈱での中国駐在を含め、米国及びインドでの長期滞在等の多くの海外経験を持つ。2022年4月末でルネサスエレクトロニクス㈱を退職。

2023年年10月から一般社団法人豊かな海の森創り 専務理事就任。
同年11月には㈱JBPの取締役営業部長に就任。

一般社団法人 豊かな海の森創りホームページ:https://productive-sea-forest-creation.com/
TEL:03-6281-0223

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物