連載コラム「白耳義通信」69
「バヤール」
連載 2022-06-20
5月22日に行われた第83回優駿牝馬(オークス)で3着に入賞した馬の名前はナミュール。ナミュールと聞いて直ぐベルギーの都市と思い浮かべた人は、ベルギー通、若しくはビール通(白ビールで一番美味しいと言われているのが “Blanche de Namur” ナミュールの白ビール)だろう。サンブル川 Sambre とミューズ川 Meuse が合流する地点にナミュール Namur は位置する(ブリュッセルから南東に約70km)。因みにナミュール号と名付けられたのは、母馬の名前サンブルエミューズ Sambre et Meuse(サンブル川とミューズ川)から連想されているらしい。
ベルギーのナミュールの中心地へ入るアルデンヌ橋 Pont Des Ardennes の袂にバヤールという伝説の名馬の像がある。これは1958年ブリュッセルで行われた万国博覧会に展示されたもので、カール大帝が生まれたとされるミューズ川のほとりであるナミュールに置かれた。
話はカール大帝(750-814年頃)の時代に遡る。現存するベルギーの街デンデルモンデ Dendermonde の領主エイモン Aymon には4人の息子がいた。4人共騎士になったのだが、末っ子のルノー Renaud に見合う馬がいなかった。そこで充てがわれたのが、馬小屋で最大かつ最強の馬だけでなく、ヨーロッパ全土で最強と言われたバヤールでした。
4人息子がパリにいた時、カール大帝の息子がバヤールに目を付けます。馬を賭けて兄弟の一人とチェスの勝負をしたのですが、勝ったのは兄弟側。しかしこの結果にカール大帝が激怒。バヤールは4人兄弟を乗せ、常軌を逸した速度で逃げますが、最終的にはバヤールをカール大帝へ献上する羽目に。
カール大帝は、バヤールの首に石臼を巻いて川に沈めようとしますが、蹄で石臼を破壊。二度目は、四肢に石臼を巻きつけ沈めようとしますが、これも難なく壊し森の中へ逃げていきました。他にもバヤールにまつわる伝説はありますが、ベルギー人にとっては馴染み深い話です。ベルギー各地の祭りでは、バヤールが行列に登場するのは恒例となっています。
ナミュールから南へ約 30km 進むとディナン Dinant という街に到着します。この街外れにはバヤールが蹄で蹴って真っ二つに割れたと言われるバヤール岩があり、その間を車が通過することができます。海外旅行もそろそろ再開の動きがでています。バヤールを巡る旅も面白いかも知れませんね。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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