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連載コラム「白耳義通信」⑳

「イープルの猫祭り」

連載 2018-05-16



鍵盤楽器奏者 末次 克史

 イープル Ieper と言えば第一次世界大戦で連合軍とドイツ軍の間で何十万という犠牲者が出た場所である。首都ブリュッセルから西に 120km 東に位置し、更に東へ 25km 進むとフランスという国境沿いの街。中世の時代は毛織物産業で栄えた。

 そのイープルで3年に一回開かれるのが猫祭り Kattenstoet である。昔からある古い祭りではなく1938年、今の猫祭りの元になったパレードが起源だ。今年で45回目を迎える。祭りは午後14時、地元の企業によるパレードで幕を開ける。沢山の車のメーカーが参加。車上より飴を投げたり、さながら日本の餅まきのようである。お金を投げないのが違うところか。

 午後15時になるとメインのパレードが始まる。子供たちが猫の格好をしたり、巨大猫が登場したりと、一気に華やかに。今年は非常に寒く、観客席で座っているのが心配であったが、猫になりきった出演者の熱気で体まで暖かくなった。

 そして祭りの最後を飾るのは、繊維ホールに建つ鐘楼からの猫投げ。ご安心あれ。投げられるのは生きた猫ではなく、黒猫のぬいぐるみ。これをキャッチ出来ると幸運が訪れると言われている。しかし猫投げが始まる予定の18時15分になっても一向に主役のピエロが登場しない。待ちわびた観客が手拍子で登場を促すも出てくる気配もなし。どれだけ期待を煽るのだろうと20分待ったその時、ようやくピエロが登場して猫投げが始まった。

 が、大の大人が子供そっちのけで奪い合う様子を見ていると、面白くもあり悲しくもあり複雑な心境になってしまうのが正直な気持ち。ただ、普段余り馬鹿騒ぎをすることのないベルギー人が、たまには童心に帰るのも良いのかと思ったりもする。

 猫祭りが行われた5月13日(日)、天気予報では雨マークも出ていた。これまで一度も猫祭りの日は雨が降ったことがないと言われていて、初めて降ってしまうのかとドキドキしていたら、猫投げがされる頃には青空も顔を覗かせた。猫神様は今年も健在である。

 次回は2021年5月9日に開催される予定。猫の格好をして一緒に楽しんでみませんか?


【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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