【特集】健康とスポーツ
DUNLOP(住友ゴム工業)、“プレーヤーズファースト”の人工芝 「ハイブリッドターフREX」
ラバーインダストリー New! 2026-05-28
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タイヤの研究開発を通じ、モビリティの安心安全を足元から支えてきたDUNLOP(住友ゴム工業)。同社の技術はタイヤ開発に留まらず、スポーツ、産業品領域でも広く展開されている。そのなかでも、人工芝はサッカー向けでトップシェアを誇るなど、産業品領域を担う同社ハイブリッド事業の主力製品の1つだ。今回は、同社が“プレーヤーズファースト”を念頭に開発した人工芝「ハイブリッドターフREX」について話を聞いた。

住友ゴム工業執行役員
ハイブリッド事業本部長
松本 達治 氏
DUNLOP(住友ゴム工業)は、タイヤ開発で培った技術を応用した製品の開発に取り組んでいる。スポーツ用人工芝もその1つだ。スポーツ競技や用途に応じた人工芝を開発しており、なかでもサッカー場などで使用される芝丈の長い人工芝「ロングパイル人工芝」は現在トップシェアを獲得している。日本サッカー協会(JFA)公認施設や、Jリーグトップチームの練習場に採用されるなど、その性能と品質は日本のサッカー界のお墨付きだ。
管理者目線からプレーヤー目線の開発へ
独自技術と施工・営業担当者による丁寧なサービスを掛け合わせることで、業界トップシェアを獲得してきた同社。ただ、その製品開発においては、様々な課題を抱えていた。
「従来は耐久性やイニシャルコストに重きを置いた開発、つまり “管理者目線”で開発を行ってきた。しかし、こうした開発のスタイルはプレーヤーを置き去りにしてしまう。施設ごとにプレーのしやすさ、つまり“プレー性能”にばらつきが生じることで、プレーヤーの心理的ストレスや怪我の発生に繋がってしまうことがあった」(松本達治住友ゴム工業執行役員ハイブリッド事業本部長)
何が“プレーのしやすさ”に繋がるのか─地道な調査活動でプレー性能を説明可能に
こうした気づきから、プレーヤー目線の人工芝の開発に着手することとなった同社。開発で課題に挙がったのは、プレー性能が十分に数値化されていないことだった。タイヤなどの製品開発では、製品の性能が数値化されており、ユーザーへの説明に役立っている。一方、人工芝の性能は「プレーしやすいか、しにくいかの官能評価でしか表現しようがなかった。世界でも、プレー性能を力学特性値と結び付けて数値化し、包括的に表現した論文は現在も存在していない」(同)という(2026年4月取材時点)。
人工芝のプレー性能を数値化して説明可能なものにするという試みは、筑波大学准教授の小井土正亮氏との共同開発によって進められた。同氏は元Jリーガーで、監督として自身のチームから日本代表のプロ選手の輩出経験も持つ。サッカーについて、プレーヤー、指導者双方の知見を持つ同氏の協力の下、まずは関東大学サッカーリーグ所属の36大学、延べ約2,000人のプレーヤーを対象としたアンケート調査を実施。その結果、プレーヤーがフィールドを評価する上で最も気にする項目は「ショートパスのしやすさ」であることが分かった(図1)。これを受け、同社は「ショートパスのしやすさと人工芝の力学的特性値の相関関係」を調査(図2)。そして、「ショートパスのしやすさ」には「ヤーン剛性」が寄与していることが分かった。ヤーン剛性とは、芝の強靭さとそれに伴う弾性を指す。「これが強ければ強いほど、ショートパスがしやすくなる」(同)という。これら2つの調査結果を基に、同社は新製品の開発に着手。芝の強靭さ、それを維持する耐久性を追究し、芝の本数にも工夫を加えた「ハイブリッドターフREX」を2025年11月に発売した。ボールの過度な転がりや足下の不安定な動きを抑制し、ショートパスがしやすい芝に仕上げた。

㊧図1 フィールド総合評価への寄与度 ㊨図2 ショートパスのしやすさとヤーン剛性の関係
自社に留まらない、市場全体でプレーしやすいグラウンドづくりを目指す
人工芝のプレー性能を説明可能にするという試みは、人工芝に関する“新しい基準”を設ける試みでもあった。既存の基準では、芝の長さや厚みのみが指定されていた。そこに、プレー性能に関する基準を新しく設けることで、既存の基準の範囲を守りながら、実現可能なプレー性能の標準化を目指す。
同製品の発案者であり、制振ダンパーをはじめとした、産業品事業を同社ビジネスの柱として育てあげた第1人者である松本氏。世界初となる、人工芝で“プレー性能を数値化する”という試みについては「市場に“新しい基準”を設けることを目的に取り組んでいる。当社のみが突き抜けるのではなく、市場全体で人工芝の性能を底上げし、どの施設でもプレーしやすい環境を整えたい。日本のグラウンド性能を整え、プレーのレベル向上と怪我防止による選手生命の長期化に貢献していきたい」とその意義を語った。
今回の開発を通じ、同社は独自の人工芝に関する力学特性値の定量化法を確立した。このような技術革新により、開発の加速が期待される。現在「ハイブリッドターフREX」が順調に販売を伸ばし、ユーザーからも好評を得ていることから、早くも「第2弾の開発を視野に入れている」(同)。
また、“プレーヤー目線”という開発コンセプトを、今後はサッカー以外の競技にも展開する方針だ。

ハイブリッドターフREXが採用された「FUNAJUKUフットサルコート」
国内トップシェアの人工芝を海外へ
DUNLOPは長期経営計画「R.I.S.E. 2035」の中で、人工芝を含むハイブリッド事業(産業品事業)の海外展開強化を表明した。2030年には海外事業で営業利益2倍(2025年比)を目指す。これまで国内展開のみに留まっていた人工芝は、2026年1月に台湾での販売活動を開始した。「現地の販売代理店を通じ、日本でトップシェアを誇るサッカー用途で営業活動に注力している。もちろんここにはハイブリットターフREXも含まれる。ただ、当社の強みは製品の性能だけではない。施工から張替えまでユーザーに寄り添うサポート体制も強みである。いかに丁寧な施工ができるかが、製品の性能発揮に関わる。また、張替え時に迅速かつ丁寧に対応できるかどうかも重要だ。これらを現地でも徹底するため、リモート体制で現地販売代理店を教育する計画だ」(同)。
快適なプレー、環境、双方に配慮したモノづくり
人工芝にとって避けられない課題の1つに、マイクロプラスチック流出などの環境問題がある。同社では芝周りの側溝に自社開発のフィルターを設置するなど積極的に流出抑制に取り組む。
マイクロプラスチックには、樹脂製の芝だけでなく、ゴムチップ等の充填材も含まれる。そこで同社では、天然素材を使用した充填材「Palmfill」をラインアップ。ココヤシを主原料としているため環境負荷が少なく、さらに高い保水性により芝の温度上昇を抑制できる。黒色ゴムチップ使用時との比較では、最大20℃の抑制効果が確認されている。「マイクロプラスチック流出抑制をはじめ、環境について残された課題は多い。環境に配慮しつつ、プレーヤーの健康にも貢献するモノづくりを意識していきたい」(同)。

右からPalmfill M(サッカー、ラグビー、アメフト、多目的用)、Palmfill B(野球用)
関わる全ての人の健康に寄与するモノづくりを
「ハイブリッドターフREX」の発売を皮切りに、同社の人工芝開発が加速している。今後の展望については「サッカー向けでは、定期的なニーズ調査でプレー性能を向上させることはもちろん、疲労軽減、怪我の防止などプレーヤーの“身体”に配慮した性能を追求していきたい。どの競技でも“天然芝の方が良いのでは?”と思われる傾向にあるが、性能を定量的に定義することによって、その定説を覆したい。
現在、当社の人工芝は、保育園~大学まで様々な教育機関に導入されている。今後、人工芝の性能を向上させることで、日本のサッカー技術の向上、世界トップレベルの選手の輩出にも貢献したい。実際に学生選手の皆さんから当社に感謝の寄せ書きをいただくこともあり、皆さんのプレーを支えることが我々の原動力となっている。プレーヤーの皆さんの健康に寄与することはもちろん、環境にも配慮することで、最終的には人工芝の導入に関わる全ての人の健康に寄与するようなモノづくりをしていきたい」(同)と語った。
追い求めるべき性能の再定義から、人工芝を利用するあらゆる人々の健康影響や環境への配慮まで、人工芝市場においてもリーディングカンパニーの地位を築く同社。今後もその開発動向に注目していきたい。

取材にはハイブリッド事業本部を率いるDUNLOP(住友ゴム工業)松本氏をはじめ、
スポーツ用人工芝の営業、技術担当者らも同席。
ハイブリッドターフREXをはじめ、スポーツ用人工芝の開発・販売に関わる喜びと、今後の展望を語ってくれた。








