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ゴムの配合物性値予測AIシステムを聞く

【インタビュー】横浜ゴム理事・研究先行開発本部材料機能研究室エグゼクティブフェロー・研究室長 網野直也氏

ラバーインダストリー 2021-06-02

さらなる進化に向けて

 すでにいくつか予測したい物性値がある。ただ,現状では実験の結果がばらつくものに関しては,AIに上手く学習させることができていない。

 例えば,基準となるものと対比してデータを出すような試験があるのだが,その基準が実験の要因によってふれたりすると,結果がずれてしまう。一例を挙げると,氷上の摩擦は氷の状態に非常に左右されるため,基準に対して何割良くなったといった評価をしている。摩擦力の絶対値は計測できるが,少し溶けた状態,全く溶けていない状態など氷の状態によって基準の値がまるで違うものになるためだ。

 また,結果が数字で表せないものもある。例えばオゾン劣化試験では,オゾンによってゴムを劣化させ,ゴムに入ったき裂の数の多寡や長さによって評価を行っている。ただ,こうした数字で表せない実験データについてはまだ学習させていない。

 これらの理由で出力される物性値に含まれていないものもいくつかあるため,これをAIに学習させていくことは今後の課題と言える。

 システムの最終目標は,配合を自動設計できるようになることと考えている。今は配合レシピを入力し物性値を予測するのだが,その逆で目標とする物性値を入力すると,配合レシピが出力されるといった具合だ。今回のシステムでも簡単な逆問題はできるようにしている。目標とする物性値を指定し,さらにあらかじめ使用する配合剤を指定して,その配合剤を変量した時に目標に合うレシピを出力する。

 究極は,まっさらな状態から目標とする物性値を一つずつ入力することで,配合レシピが出力されることだ。出力されるレシピについては1つではなく,いくつか候補を挙げ,そこから人間が選べる形にしたい。

AIと開発者との関係性

 AIは学習した範囲でしか答えを出すことができない。そのため,学習範囲を広げていく仕事は人間が担わなければならず,その仕事がなくなることはない。

 学習した範囲外のレシピは,出力された結果の精度が低下する。その点については,学習した範囲かどうかを判別できるようにしている。AIの出す答えの精度は,実験データ量の増加とともに向上していくので,精度向上のための実験も今後必要になるかもしれない。AIだからといって正しい答えを必ず返してくるとは限らない。最後はタイヤの形で実際に評価,実験をすることは今後も変わらず必要だ。

AI利活用構想「HAICoLab」

「HAICoLab」概念図


 今回のシステムは,横浜ゴムが掲げるAI利活用構想「HAICoLab」における一つのツールだ。「HAICoLab」は,人間特有のひらめきや発想力とAIが得意とする膨大なデータ処理能力との協奏によって新たな発見を促し,新たな知見の獲得を可能とするものだ。

 AIは必ずしも万能ではないため,人間がいかに使うかが一番重要になる。物性予測にしても,出てきた結果を見て新しいものを思い浮かべることができるかも,そのひらめきは人間に依存する。

 ひらめきをAIで循環させる,AIを経由することで人間の思い込みを客観的に見ることによって,より正確なもの,新しいものを生んでいくのが「HAICoLab」のコンセプトになる。今回はゴムの配合物性値予測システムを開発したが,「HAICoLab」は今後も他の開発に転用していく考えだ。

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